実験医学別冊 最強のステップUPシリーズ:空間オミクス解析スタートアップ実践ガイド〜最新機器の特徴と目的に合った選び方、データ解析と応用例を学び、シングルセル解析の一歩その先へ!
実験医学別冊 最強のステップUPシリーズ

空間オミクス解析スタートアップ実践ガイド

最新機器の特徴と目的に合った選び方、データ解析と応用例を学び、シングルセル解析の一歩その先へ!

  • 鈴木 穣/編
  • 2022年12月05日発行
  • B5判
  • 244ページ
  • ISBN 978-4-7581-2261-0
  • 8,580(本体7,800円+税)
  • 在庫:あり
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概論

空間オミクス解析の技術レビューと機器・データ解析ツール選択ガイド

鹿島幸恵1),鈴木 穣2)
(東京大学大学院新領域創成科学研究科メディカル情報生命専攻1),東京大学大学院新領域創成科学研究科メディカル情報生命専攻2)

本稿では,本書で詳解する一連の空間オミクス解析を,実験的手法,情報解析的手法の観点から俯瞰する.特に,どのような解析対象について,どのような解析手法が合致するのか,その選択戦略についても概説したい.利用可能な検体の質・量の制約から実際の解析はここで記載するようにもさらに複雑な制約が伴うと思われるが,あくまで一つの指標となればと思う.

はじめに

シングルセル解析は,従来の細胞集団を対象としたいわゆるバルク解析では解明できなかった細胞あるいは組織の多様性を明らかにした.ただし,シングルセル解析には,その細胞が由来する空間座標情報が失われる,という決定的な欠点があった.いかに遺伝子発現情報をシングルセルレベルで計測し,クラスタリング解析し,その結果のUMAP/tSNEでの表示等にはじまる情報解析の技術を駆使したとしても,シングルセル解析単独では,その細胞多様性のメカニズムをその背景となる組織内分布,微小環境の差異から直接に論じることはできなかった.

近年開発された空間オミクス解析が,この状況を一変しようとしている.これらの手法では,ある空間座標における遺伝子発現情報が直接的に計測され,その結果が組織切片上に明示的に提示される.そのめざすところは,従来の意味でのオミクス情報よりもむしろ病理解析に近い.ただし,これを遺伝子に対して網羅的に行おうとする点では狭義の病理解析とは一線を画する.これらの空間解析は,当初,100μm程度の解像度(百個程度の細胞を含む)からはじまったが,その解像度は瞬く間に50μm(20〜30細胞程度が含まれる)から,数百nm(1細胞内に複数の計測点を含む)へと向上した.2022年10月現在,依然として,最も解像度の高い空間オミクス解析手法での検出可能な遺伝子数は数百~数千にとどまるにしても,検出遺伝子数についてもその進展は著しい.これら最新の空間オミクス解析技術の急速な変遷を原理ごとにまとめ図1234に示す.また,これらの産出されるデータを対象とした情報解析手法も劇的な変化を遂げつつある.シングルセル解析で一般的となったクラスタリング解析に変わるものとして,病理画像上での遺伝子発現を解析する一連の専用ツール群がインターネット上で次々と公開されている(図7).

本書は,これらの空間オミクス解析技術の詳細なプロトコールと応用例を実験・情報解析技術の両方の面からまとめたものである.本稿はその全体の導入部として,実験的な計測技術および情報解析技術について概観したい.

実験手法の概略

1.計測原理のよる分類

空間オミクス解析は,多くの手法が提案され,すでにいくつかの機器が市販されており,その原理に基づき,大きく4つに分類される.

1)in situハイブリダイゼーションを利用した解析法(図1

プローブがターゲットとなるmRNAにハイブリダイズする.さらに,そのプローブの末端に蛍光プローブがハイブリダイズする.mRNAの位置と強度は蛍光プローブのシグナルとしてリードアウトされる.また1つの反応でのエラーを補正するために,蛍光色素を変えてハイブリダイゼーションを数回くり返し行うことで,蛍光のパターンを取得し,遺伝子を同定する方法もある.MERFISHやseqFISH+などである.

2)in situシークエンシングを利用した解析法(図2

細胞内でローリングサークル増幅(RCA)という手法でシークエンスを行うことでシグナルを増幅させる方法で,Xenium(実践編-5),HybISS(実践編-6),FISSEQなどがある.ただし,独立に開発された1)2)は,部分的に相互にプロトコールが乗り入れることにより,その境界は曖昧になりつつある.

3)in situキャプチャーを利用した解析法(図3

細胞から遊離させたmRNAをスライドガラス上のオリゴにハイブリダイズさせる方法で,Visium(実践編-1〜4),STOmics(実践編-7)などが知られている.

4)抗体を用いた解析法(図4

抗体を利用して主に空間プロテオームを対象とする解析法が開発されている.これまでの免疫染色が現実的には10種類程度のタンパク質しか同時計測できなかったのに対し,近年は50〜100種類のタンパク質を同時に解析可能な手法が可能になってきた.PhenoCycler(実践編-9),Hyperion(実践編-8),GeoMx(実践編-10)などが知られている.

5)その他

組織を物理的に分離する方法も依然としてコストの面から有用である.また,生化学的手法等,1)4)ではカバーされない解析についても微量化が進んでいる.パンチング(column),セミバルク(column)等がある.

また,一般的な利用にはさらなる機器および手法の簡略化がいまだ必要であると思われるが,空間メタボローム解析(実践編-11)や空間エピゲノム解析を可能とした研究例も報告されている.

2.技術の特徴と変遷

10x Genomics社の3つの商品Visium(新鮮凍結組織版), Visium FFPE(ホルマリン固定組織版),Xeniumを例に,それぞれの課題と技術の変遷について紹介する.

1)mRNAの塩基配列を次世代シークエンサー(NGS)で直接シークエンスする―「Visium(新鮮凍結組織版)」

Visium(新鮮凍結組織版)は,当初実装された空間遺伝子発現解析手法である(図3).この方法では,凍結組織切片を専用スライドガラス上へと上層する(“貼りつける”).スライドガラス上にはDNAバーコードがアレイ状に配置されている(Visiumにおいては6 mm四方に5,000箇所のスポットがスポットされている).このSpatialバーコードとよばれるオリゴはスポットごとにそれぞれに異なる配列をもち,その配列を指標にスポットされている位置を逆算することができる.スライド上に貼りつけた組織切片を適当な時間で融解し,それぞれの位置のバーコードへとその場所の組織に由来するmRNAを吸着させる.回収したcDNAはまとめてシークエンスされるが,末端に付与されたSpatialバーコード配列で仕分けすることより,それぞれのcDNA分子のもともとの空間座標が特定される.

2)NGSを用いるが,直接,mRNAの塩基配列を決定するのでなくバーコード配列を読みとる―「Visium FFPE」

病理診断等には,通常,ホルマリンで固定された組織切片が用いられる.これらはHE染色あるいは免疫染色等での顕微鏡観察には優れている一方で,その固定の過程でmRNAの分解が進んでいるために,通常の遺伝子発現解析には向かない.またmRNA分子は細胞内部で高度にホルマリンにより架橋されているために,上記のVisium(新鮮凍結組織版)のような手法でのmRNAの溶出は著しく収率が悪い.

そこで,ホルマリン固定検体に対する空間遺伝子発現解析法として,逆に細胞にバーコード配列を付与したmRNAハイブリプローブオリゴを吸収させる「Visium FFPE」という手法が開発された.各mRNA標的に対して2箇所に設定されたプローブが正しくハイブリすると,これらが近接ライゲーションにより結合される.結合されたプローブは擬似的なmRNAとして,その後の溶出,Spatialバーコードの付加についてVisium(新鮮凍結組織版)の場合と同様の反応を行うことができる.シークエンスで読みとられるのは,mRNA配列自体でなく,その外側に付加された遺伝子ごとに異なるバーコード配列である.これらのバーコード配列を,さらにその外側に付与されるそれぞれのスライド上の位置を示すSpatialバーコードに対してカウントすることで,Visium(新鮮凍結組織版)の場合と同様に空間遺伝子発現解析が実現される.この方法では,mRNAは組織内から遊離されない.塩基配列決定されるのは細胞由来mRNAではなく,バーコード部分であり,厳密な意味ではゲノム配列情報は取得されない.そのため,この手法で取得されたデータに個人情報識別能はない.

3)NGSを用いずイメージングをベースとする「Xenium」

1)2)の手法をさらに進めて,mRNAあるいは擬似的なmRNA代替物を,そもそも組織内から遊離させずに検出する手法を用いたXeniumという商品がまもなく上市される.XeniumではVisium FFPEと同様にプローブを細胞に取り込ませる.細胞内に取り込まれたプローブをmRNAとハイブリダイズさせ,さらにその場で種々の手法を用いてシグナルを増強させる.あるいはmRNAやバーコード配列の決定自体を擬似的にin situで行う.ここではシグナルの検出も直接,専用の蛍光顕微鏡等で行うために,従来の意味でのNGSの利用は必要とされない.これらの手法は蛍光信号の消光,多重化スキーム等の違いによりSEQFISHやFISHSEQなどさまざまなものが報告されている.

3.対象試料による技術の選択図5

解析対象となる組織切片の準備の観点からは,用いる切片材料はホルマリン固定試料と新鮮凍結試料に大別される.

1)新鮮凍結検体

臨床検体の病理診断の現場では,圧倒的に多くの局面でホルマリン固定検体が用いられるにもかかわらず,NGSを用いたゲノム等の配列決定,特にヒトゲノム解析においては,従来新鮮凍結検体が用いられてきた.これは,特にNGS導入初期に,新鮮凍結検体由来のゲノムDNAを用いたほうがシークエンスデータの読み取りがスムーズ/データの精度が高い,という利点があったことによる.その後,NGSの鋳型調製等の改良が進み,現在ではホルマリン固定検体からでも十分な精度で解析を行うことができるようになっている.

空間遺伝子発現解析についても,従来は新鮮凍結検体が一連の手法の開発と一般化に用いられてきた.用いられる新鮮凍結検体ではRNAの分解が大きく進んでいないことが要求される(RIN値でおおむね6以上).これが実務上必ずしも容易でないこと,また以下のようにホルマリン固定検体に固有の利点も多いことから,解析にホルマリン固定検体を利用する局面が急速に増えている.ただし空間遺伝子発現情報だけでなく,他の生体分子についての情報もあわせて取得しようとする場合には,依然として新鮮凍結検体の利用が必須である場合もある.例えば,興味の対象となる領域からゲノムDNAあるいはタンパク質を抽出して,エピゲノム解析あるいはその他の生化学的解析に用いる場合等である.ホルマリン固定検体と新鮮凍結検体をまたぐ形での連続切片の調整は困難であるため,この用途があらかじめ想定される場合には,新鮮検体の利用を選択するべきである.

2)ホルマリン固定検体

ホルマリン固定検体では,もともとRNAの分解が想定されている(最低限度のRNA品質が保持されていることはそれでも必要である.DV200値でおおむね0.5以上).また,その他の生体分子についても広くその後の生化学的解析に用いることは想定されておらず,その意味では病理検査に特化した検体調製法である.ただしその反面,顕微鏡観察においては圧倒的に優れた系である.HE染色あるいは免疫染色に対する顕微鏡観察下での解像度は一般に新鮮凍結のものよりもはるかに優れる.また,免疫染色に用いることができる実績のある抗体も数多く整っており,薄切標本の作製も比較的容易である.

4.空間解像度と検出遺伝子数による技術の選択図6

用いられる解析手法によって得られるデータの空間解像度が異なるが,おおむね,空間解像度と検出遺伝子数は逆相関する(解像度が高いプラットフォームでは,検出遺伝子が数百以下に限定されることが多い).ただし最近の技術革新から,数百nm(シングルセル以下)の解像度であっても数千といった遺伝子解析を行うことができるプラットフォームが,少なくとも研究レベルでは報告されている.また,一度に解析可能な面積について,初期型のVisium以来,多くのプラットフォームがスライドガラス上での解析を前提としてきたが(6 mm〜1 cm四方程度),近年ではSTOmicsなど最大で10 cm四方の組織片に対して空間解析を行うことが可能なプラットフォームも登場しつつある.

5.目的別技術の選択

現在のところ決定版のような空間解析手法は存在しない.そこで目的に応じた計測プラットフォームを選択,あるいはいくつかのプラットフォームを組合わせることが一般的となっている.

まず,検出対象が遺伝子全体をカバーした網羅的なものであるが解像度が低い解析手法(Visium等)は,全体としてある遺伝子発現パターンをもった細胞がどのような広がりを見せているのかの解析に用いられる.代表的なものは,がんの浸潤,カギとなる上皮間葉転換あるいはcancer associated fibroblasts(CAFs)との相互作用といった比較的大局的な変化である.そこでは,空間解像度よりも,多くの遺伝子の相互作用の結果もたらされる複雑な細胞内遺伝子発現ネットワークの解明が主眼となることが多い(一般的にこれらの系では潜在的に機能的関与が示唆される遺伝子の数も多い).また局所でのtumor mutation burdenの評価等には一定数以上の遺伝子を検出する必要がある.ここでは,遺伝子に対する網羅性が空間解像度よりも重視される.

一方で,検出対象は標的遺伝子のみに限られるが空間解像度が高いもの(Xenium,Phenocycler等)は,比較的小さな細胞間での相互作用を局所的に観察する必要があるときに用いられる.がん分野では免疫細胞とがん細胞との相互作用解析がこれにあたる.免疫細胞はがん細胞に比べて細胞径も小さく,また含有mRNA量も少ない.そのために空間解像度に劣る系を検出系に用いると,その周辺に存在するがん細胞,間質細胞に由来するmRNAのなかで,相対的に免疫細胞由来のmRNAの濃度が薄まる.逆に免疫細胞では,細胞マーカーがはっきりしているものが多い.その結果,免疫細胞については,限られた数の遺伝子に限定した解析であっても,該当領域内にどの程度の免疫細胞が存在して,それがどの程度の活性化/疲弊化状態にあるか,という情報をマーカー遺伝子のみから読みとることが可能である.

がん分野以外では,むしろ空間解像度に対する要求性は一般的に高い.例えば,脳の神経細胞や,その結合状態の解析等には,高解像度の手法が用いられる.ただし,これらの系については検出対象遺伝子が豊富であることも同時に要求されるために,さらに次世代の空間解析手法の登場が待たれている.

情報解析概略

データ解析ツール群の選択図7

それぞれの測定機器には,その出力データに対して最低限必要な標準的解析ツールが同梱されている.例えばVisiumでは,シングルセル解析でのCell Rangerに相当するSpace Rangerで当面の解析を行うことが可能である.またシングルセルで最も標準的であるSeuratパッケージは,最初期から一連の空間解析へも対応を拡大した.ただし,これらの情報解析手法の開発速度を上回る速度で,計測機器の進展に伴ったデータの複雑化,高度化,さらに多様化が進んでいる.実際,複数のプラットフォームから得られたデータの統合解析等,今後とも,その時点での適切なデータ解析手法の選択には細心の注意が必要である.現時点での代表的なツール群は実践編-2を参照されたい.また今後,直近にさらに発展的な情報解析が開発・導入されると思われる代表的な解析対象を下記に示す.

1)空間オミクス解析に固有のツール群

空間オミクス解析に固有のアノテーションツール群の整備が急速に進んでいる.例えば,Cell Neighbor 解析においては空間上で隣接する細胞の相関解析を行う.GIOTTO,ST Utility等,これらをパッケージとして行うツールもスタンダードになりつつある.逆にPhenoCyclerおよびXeniumといった高解像度空間計測機器においては,どの範囲の遺伝子発現情報がもともと1つの細胞に由来のものなのか,その範囲のシグナルを統合するようなcell segmentationツールが解析に必須となっている.またシングルセル解析においてはスタンダートなアプローチであったligand receptor 相互作用解析においても,物理的な距離も考慮するオプションが実装されるようになった.その他にも偽時間解析Monocleを空間上の制約を考慮して拡張するような試みもはじめられている.

2)シングルセルとの統合解析

遺伝子発現が計測された空間単位で,外部シングルセルデータを参照することで,その空間座標での遺伝子発現情報を情報学的にシングルセルへと成分分解する場合がある.これは,特にVisiumにおいて不足する空間解像度を別途取得したシングルセルで補うために開発された手法であり,従来のSpot lightをさらに改良する形で,CellTrek,Cell2location等のツール群が開発されている.これらは,複数の細胞を含む空間座標において,機械学習のさまざまな手法を用いてdeconvolutionを行うものである(応用編-2,3).参照となるシングルセルデータは公共のデータベースに登録されているものを援用することも可能である(実践編-13).ただし,がん細胞等については,症例間でそもそものシングルセル遺伝子発現パターンが大きくことなるために,外部データを用いることの妥当性が指摘されている.本書でも画像解析機械学習を用いて,欠損領域の空間遺伝子発現情報を補完しようとするツールDeepSpaCEを紹介する(実践編-4).ただし,これらの間接的に情報学的手法により空間解像度を向上させようというアプローチは,今後,直接計測される空間解像度の向上によりその用途が限定的になってゆくのかもしれない.

3)関連データベース

シングルセル解析についてはいくつかの国際的データベースが急速に整備されている.ヒトのがん分野においてはHTANコンソシアムが立ち上がる等,今後,空間オミクス解析についても同様にデータの利活用が進むことと思われる.ただし,そのデータ共有フォーマット,バッチ効果除去等による多施設からのデータ標準化等,解決すべき課題は多い(実践編-12).

おわりに

今次,空間オミクス解析技術の導入がゲノム関連解析に与えた影響は大きい.その最大のものは,これまでゲノムDNAあるいはmRNAといった一次元の配列情報であったいわゆるオーミクスデータに空間的広がりを付与した点であるように思う.一次元配列情報の本質が情報であるのに対して,空間情報をもったそれは物理情報,すなわち生物学的情報そのものである.極論,これは,はじめて大規模解析が真の意味で生物学的現象と直結した局面であると考えられる.実際,データ取得あるいは情報解析の多くの局面で,急速にこれまでのオミクス解析と異なった技術が要求されるようになった.例えば,空間オミクス解析を行うのに際し,病理切片の作成を含めた種々の取り扱い,あるいは病理画像の読解技術の初歩は,最も基盤的かつ不可欠な素養である.しかし,これまでのオミクス研究者は,必ずしもこれらの技術に精通してきたとは言い難い.また情報解析においても.画像データの取り扱い等,これまでのいわゆるバイオインフォマティクス研究者が必ずしも得意としてこなかった分野が急速に必須な要件になっている.この垣根を急速に乗り越えていくためにも,われわれ研究者自身にリカレント教育が課せられている時期に思う.

直近には,空間オミクス解析の導入により,従来の病理診断が近年のゲノム診断と統合されるであろうことの臨床的意義は大きい.しかし,むしろ学術的には近い将来にオミクス研究の網羅性に空間情報の物理属性が付与されることに期待も高まる.その統合は,これまで生物学がともすれば対象としてこなかった網羅的な生体内分子の物理学的解析,すなわち生体内における各分子の拡散・流体的なふるまいの理解を可能とするかもしれない.これらを通したデータ・理論の蓄積が最終的には生体内で起こる種々の生物学的現象のモデル化へとつながり,モデルを通じた計算機内でのシミュレーション結果がさらに実験科学へと還元される.そんな20年前に諸先輩が夢描いた循環が今,始まろうとしているのかもしれない.

文献

  • Damond N, et al:Cell Metab, 29:755-768.e5, doi:10.1016/j.cmet.2018.11.014(2019)
  • Fan Z, et al:Nucleic Acids Res, 48:D233-D237, doi:10.1093/nar/gkz934(2020)
  • Xu Z, et al:bioRxiv, doi:10.1101/2022.03.11.481421(2022)
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