第3章 研究のための飼育・管理の仕方
Ⅱ.ケージ交換の基本とコツ
庫本高志
(東京農業大学農学部動物科学科)
Ⅱ-1 注意点と手順
マウス(以下,ラットも同様)はケージとよばれる容器で飼育される(図6A).マウスが逃げ出さないように金網状のふたをする.このふたは,餌を入れるために凹みが作られており,さらに,給水のためのノズルを差し込むために,金網の一部が少し広がっている(図6B,C).
マウスはケージ内で糞尿をするので,ケージが汚れるのを防ぐために,床敷きとよばれるチップ状の木くず・紙をケージ内に入れておく.それでも,1週間もすれば床敷きが汚れてくる.ケージ内には臭気(主にアンモニア)が充満し,湿度も上がる.このようなケージ内の環境の変化は,マウスの健康に影響を与え,結果として,実験の結果がばらついたり,再現性が損なわれる可能性が出てくる.
少なくとも1週間に一度はケージ交換を行い,ケージ,金網ふた,床敷きを新しいものに交換する.同時に,餌の補充,給水びんの交換も行う.ケージ,金網ふたはオートクレーブ滅菌しなければならない.
また,ケージ交換は,マウスを直接触って観察できるよい機会である.やみくもにケージ交換するのではなく,マウスの動き,毛づや,汚れ(口,眼,肛門周囲)など,表1にまとめた観察ポイントにも注意を払う.
SPF領域外でのケージ交換についても,基本的には,ここに示した方法で行うことが望ましい.
ケージ交換の目的は,主に以下の3点に要約される.
① 飼育環境を一定に保ち科学的に適正な動物実験を行う
② マウスの健康を保つ
③ 汚物,臭気,アレルゲンなどにより引き起こされる人への影響を防ぐ
準備するもの
1)器具
- ケージ
オートクレーブ滅菌済み,あらかじめ床敷きが敷かれている(日本クレア社のプラスチックケージ,CL-0104-3など)
- 金網ふた
オートクレーブ滅菌済み(日本クレア社のプラスチックケージ,CL-0104-3など)
- 給水びん
オートクレーブ滅菌済み(日本クレア社の給水びんセット,CM-200Sなど)
- 給水びんのノズル
オートクレーブ滅菌済み(日本クレア社の給水びんセット,CM-200Sなど)
- 実験動物用床敷
日本エスエルシー社のソフトチップやペパークリーンなど
- 清潔で紙粉が出ないペーパータオル〔キムタオル(日本製紙クレシア社)〕
- 作業台
図7のように,必要なものがすべて乗る大きさが使いやすい
2)試薬
- 消毒薬ⓐ
ラックや作業台の消毒に用いる〔エタノール,住友ファーマ社の5%ヒビテン液,日本クレア社のマイクロカット(CL-4120)やマイクロクリーン(CL-4123)など〕
- 餌
補充用として開封し,専用のケースもしくはバケツなどに入れておく.使用期限は製造業社の指定に従うこと.開封したものは,できるだけ早く使い切ることが望ましい(日本クレア社のCE-2,オリエンタル酵母工業社のMFやNMFなど)
- 飲料水
一般的には免疫不全動物でなければ水の滅菌は不要である.新鮮な水道水を用いる
プロトコール準備15分,ケージ交換1分/ケージ,後片づけ15分
1)準備
2)ケージ交換
- ❶ 飼育ラックからマウスの入ったケージを取り出し,作業台に乗せる(図8B) ⬇
- ❷ 古い給水びんを取り外し,洗浄用のケースに入れる ⬇
- ❸ 古いケージに貼られたラベルを新しいケージに貼りかえる(図8C) ⬇
- ❹ 金網ふたを開け,マウスの尻尾を持ちⓒ,マウスを取り出す(図8D) ⬇
- ❺ マウスを新しいケージに移す ⬇