書 評
細井 雅之
(大阪市立総合医療センター糖尿病内科 部長)
皆様は,糖尿病診療をされていて下記のような場面で困った経験をされたことはありませんか?
「インスリン注射は死んでも嫌.」
「糖尿病の薬だけは飲みたくない.」
「薬価の高い薬は支払いできない.」
「ごはんは食べないようにしているから薬はいらない.」
「医者の勧める治療を断るなんで信じられない.そんな患者は診なければいいんだ.」と思っておられる先生もいるかもしれません.ところが,現場ではこんな状況はよく起こります.この本は,このような教科書やガイドラインには記載されていないような,糖尿病診療実践での課題について解決方法が述べられています.このような場面で,いかに患者さんに向き合い,納得のできる医療を行えるかが,糖尿病専門医の力量です.この本では,失敗例と成功例を示して,具体的に解決方法を提案してくれています.第4章の「困ったときへの対応」の8項目は,はじめて糖尿病外来を担当する先生はもちろんのこと,糖尿病専門医の先生にもぜひ参考にしてほしい内容です.
もちろん,はじめて糖尿病診療にかかわる先生に必要な情報も記載されています.現在,糖尿病の経口血糖降下薬は9種類あります.まず,第1選択にどれを処方すればいいかは,日本人においては今まで定まったものがありませんでした.この本では,明確に第1選択,第2選択について述べられています.一般内科の先生にもわかりやすく記載されています.
さらには,先進医療のCGM(持続グルコース測定)やインスリンポンプ療法,地域連携にまで解説がされており,ベテランの先生にも役立つ内容です.
「欧米人は良く効く薬をください,と言うのに対し,日本人は副作用のない薬をください,と言う」というフレーズは,「さすが,坂根先生!」と脱帽する次第です.先生は,常に患者視点に立った患者教育方法を,ユーモアをまじえて発信してこられました.この本には,そんな先生の熱い情熱がこもっています.