書 評
石丸裕康
(関西医科大学香里病院 総合診療科 部長)
過去3年間にわたる新型コロナウイルス感染症の大流行は確かに困難を伴ったものの,医療の未来を示唆する多くの出来事があった.その1つとして,COVID-19という前代未聞の危機に対して,驚異的な速さでワクチンが開発され,多様な薬剤が臨床現場へと導入され,検証を経て,診療方針が確立し,急速に普及したことが挙げられる.医療界の集合知と実行力にあらためて感銘を受けると同時に,臨床医として,この早さに対応し,自身が提供する医療に迅速に反映する能力がより重要となることが明らかとなったように思う.
新型コロナウイルス感染症治療薬ほどの速度ではないものの,近年の薬剤治療の進歩は目覚ましいものがある.評者が大学を卒業してから30年余りが過ぎたが,がん診療,糖尿病,心不全,リウマチ膠原病といった多くの領域で,教科書が大幅に書き換えられるほどの変化が生じている.こうした大きな変化に,臨床医,特に広範な領域の疾患・薬剤を扱う必要のある内科医や総合診療医は,どう対応すべきであろうか?
木村先生が編集された本書「まずはこれだけ! 内科外来で必要な薬剤」は,このような悩みを抱く臨床医に対する1つの解答となるものである.
木村先生が書かれた総論部分は,自家薬籠中のリストをどう築き,更新するのか,の方法論に加え,昨今の薬剤の供給体制についても述べられており,われわれ医療従事者が薬とどう向き合うべきか,といった基本的姿勢が示されている.
各論では,内科医や総合診療医が外来で遭遇する大半の疾患の治療薬について,要点を絞ってわかりやすく解説されている.薬剤については,同種の薬剤が多数存在し,その使い分けに困惑する医師も少なくないと思われるが,本書では,その種類を絞り込み,同系統の薬剤は代表的なものに厳選されている.その結果,疾患の治療薬全体の見取り図が理解しやすくなる.初学者にとっては,細かな薬剤の使い分けというよりも,この大まかな見取り図を手にすることが重要である.その基本を押さえれば,ある薬剤がどのような位置づけにあるのかを,自身の見取り図と比較しつつ,検討し,判断することができるだろう.
この書籍で示される薬剤リストを基盤として,読者はさらなる臨床経験と,生涯学習を通じ,自身の「自家薬籠中のリスト」を作り上げることが容易になるのではと思う.若手医師だけでなく,すべての医師や医療従事者,特にプライマリ・ケアに関わる医療従事者に対して,本書を生涯学習の出発点として強く推奨したい.