第4章 骨粗鬆症と合併症〜注意すべきリスクとその管理
4 RANKL阻害薬を用いた際の有効性,有害事象のリスクとその管理
ステロイド性骨粗鬆症を含めた骨粗鬆症における栄養・運動・薬物療法とわれわれの取り組み
中村幸男
(社会医療法人栗山会飯田病院 整形外科)
- 健康寿命を損ねる大きな原因として,増加し続ける骨粗鬆症と脆弱性骨折がある
- 多様化する骨粗鬆症薬の使い分けと個々に応じた栄養および運動指導が重要である
- 本項ではデノスマブについて自験例を中心に,ステロイド性骨粗鬆症を含めて述べる
はじめに
わが国は世界有数の長寿国ですが,健康寿命が長いとはいえません.その主な原因の1つとして,骨粗鬆症を含めた骨対策が十分でないことがあげられます.したがって,骨への取り組みは「寝たきりゼロ」を達成するための最重要事項であるといえます.現在,わが国における骨粗鬆症患者数はおよそ1,100万人であり,骨粗鬆症予備軍まで含めるとおよそ2,000万人に達するといわれています(日本骨粗鬆症財団ホームページより).骨粗鬆症ベースの脆弱性骨折,特に大腿骨近位部骨折数は年々増加しており,寝たきりの主要な原因となっています.そのため,日常臨床における骨粗鬆症性骨折の減少をめざした食事,運動,薬物を含めた治療戦略は大変重要であります.
本項では,骨とミネラル,運動療法,薬物療法,特にデノスマブの最近の話題と自験例の紹介,デノスマブとステロイド性骨粗鬆症,デノスマブと生活習慣病,地域での取り組み,についてご紹介したいと思います.
骨とミネラル
骨粗鬆症を予防するために栄養素の摂取は不可欠です.特に,カルシウム,ビタミンD,ビタミンKの3つが重要です(表:5章2参照)1,2).
1)カルシウム
カルシウムは骨の構成成分であり,カルシウムを豊富に含む食材として乳製品や魚などがあげられます.カルシウム摂取量が不足すると,副甲状腺ホルモンの分泌亢進を介した骨代謝回転の亢進により骨吸収が増加し骨量が減少します.平成29年国民健康・栄養調査3)によれば,女性はどの年齢層もカルシウムの摂取に関して推奨量(日本人食事摂取基準2020より)に達しておらず,大きな課題といえます4).
2)ビタミンD
活性型ビタミンDは体内へのカルシウム吸収促進作用を有します.体内のビタミンDが不足していると,摂取したカルシウムの多くは尿中へ排泄されてしまいます.活性型ビタミンDは紫外線により皮膚でもつくられます.地域にもよりますが,夏季20〜30分程度,冬季はプラス20分くらいの目安で,両掌と顔部を露出するとよいと思います.食事としては,干し野菜(干しシイタケ,干し大根,干し柿など)の摂取が好ましいと思います.その他の食材としてサケ,キクラゲの摂取も勧められます.ビタミンDは肝臓で25位がヒドロキシ化され25-ヒドロキシコレカルシフェロール〔25(OH)D3,カルシジオール〕となります.血中25(OH)D3の正常濃度は20〜50 ng/mLです.その後腎臓の近位尿細管に移送され,1α位水酸化酵素が不活性の場合,別の酵素がカルシジオールのC-24をヒドロキシ化して,もう1つの非活性型ビタミンD(24, 25-ジヒドロキシビタミンD3)となります.ビタミンD欠乏症として小児では「くる病」,成人では「骨軟化症」を発症します5).
3)ビタミンK
ビタミンKは血液凝固に必要な因子として知られていますが,骨の健康維持にも不可欠です.骨にあるオステオカルシンというたんぱく質を活性化し,骨の形成を促す働きももっています.食材としては納豆(特にひきわり),ブロッコリーなどに豊富に含まれます.ビタミンK不足の高齢者では大腿骨近位部骨折の発生率が高く,骨粗鬆症性骨折(特に椎体骨折)の既往がある女性では血中ビタミンK濃度が低いと考えられています.また高齢女性では,ビタミンK不足の指標である低カルボキシル化オステオカルシン高値が骨密度と独立した大腿骨近位部骨折の危険因子であると考えられています6).
そのほか,骨の重要な栄養素として,マグネシウム,鉄,亜鉛などがあり,これらの栄養素の摂取も推奨されます7).
運動療法
定期的な運動習慣は骨粗鬆症性骨折の発生頻度を減らす傾向にあります(5章1参照).閉経後骨量減少・骨粗鬆症女性(平均65歳)において,ウォーキング(8,000歩/日,週3日以上,1年間)などの軽い動的荷重運動は腰椎骨密度を1.71%上昇します8).一方でジョギング,ジャンプなどの強い動的荷重運動は大腿骨近位部の骨密度を上昇します9).われわれは大腿骨近位部への骨刺激(=メカニカルストレス:図1)を促す体操として,血中スクレロスチン分泌低下をメカニズムとした「かかと落とし体操」を考案し展開しています(図2)7).このような動的荷重運動を組合わせることにより,寝たきり骨折の上位を占める脊椎圧迫骨折と大腿骨近位部骨折の発生予防に努めたいと思います.
薬物療法
昨今,次々と新たな骨粗鬆症治療薬が認可され治療薬選択の幅が広がっています.今回は主にデノスマブのおおまかな特性とわれわれの最近の知見について述べます.
1)デノスマブ
デノスマブは本邦では2013年に上市され,骨粗鬆症に対し使用可能となっています(2章8参照).デノスマブは抗RANKL免疫グロブリンG2(IgG2)抗体製剤であり,Fcを介する補体依存性細胞障害活性,抗体依存性細胞障害活性を有さず,中和抗体の検出も少ないとされています.また,デノスマブを用いた国内第Ⅲ相臨床試験(DIRECT試験)では,すべての骨粗鬆症患者に対して,治験期間中に毎日少なくとも600 mgのカルシウムおよび400 IUの天然型ビタミンDが補充されており,デノスマブ使用時には血清補正カルシウム値が高値でない限り,毎日少なくとも600 mgのカルシウムおよび400 IUの天然型ビタミンDの補充が推奨されるといえます10).また国外無作為盲検第Ⅲ相臨床試験では,閉経後骨粗鬆症患者を対象に,デノスマブとアレンドロネートの直接比較試験を1年間行っており,骨密度上昇率および骨代謝マーカーの低下率ともにデノスマブの方が優れていました11).さらに閉経後骨粗鬆症患者において,抗スクレロスチン抗体(ロモソゾマブ)治療1年後にデノスマブを1年間使用した群(ロモソゾマブ群)と抗スクレロスチン抗体の治療なし1年間後にデノスマブを1年間使用した群(プラセボ群)を比較すると,ロモソゾマブ群において新規椎体骨折が有意に抑制されています12).
われわれは骨系統疾患,関節リウマチ,透析患者,摂食障害,筋ジストロフィーなど現在2~100歳まで幅広くデノスマブを使用していますが,大きな有害事象を認める症例は少ないため,比較的安心して使用できる薬剤といえます13〜16,ほか).われわれは骨系統疾患である骨形成不全症において,小児を含めた成人例に対しデノスマブの有効性と安全性を報告しました.結果,骨密度の上昇とともに大きな有害事象は認めませんでした13).また閉経後骨粗鬆症患者における,デノスマブとビタミンDおよびカルシウム製剤の併用に関して,① デノスマブ単独群でも低カルシウム血症は生じなかったこと,② 血清補正カルシウムの低下率は単独群で大きく,ビタミンDとカルシウム製剤の併用は有効であること,③ 併用群で大腿骨近位部の有意な骨密度上昇がみられたこと,を報告しています14).ビスホスホネート製剤と同様に,デノスマブ使用時もビタミンDおよびカルシウム製剤の併用が有用でしょう.さらに生物学的製剤を使用している関節リウマチ患者が骨粗鬆症を合併している際にデノスマブを選択する場合があります.IL-6阻害薬であるトシリズマブ使用に伴い,TNF阻害薬やアバタセプトと比べてデノスマブ併用により最も骨密度が上昇しました.骨密度上昇という観点では,関節リウマチ合併骨粗鬆症患者ではデノスマブ使用の際にIL-6阻害薬との併用が有効かもしれません15).加えて,乳癌合併骨粗鬆症患者におけるデノスマブの使用の際,原発性骨粗鬆症と比較しても有効性および安全性において大きな差を認めないと報告しています16).
デノスマブは抗体製剤であり蓄積性は少ないため,骨代謝や骨密度に対する効果は可逆的であると考えられます.そのため,継続を維持するのか,代替治療に変更するのか,今後の報告が待たれます.
2)デノスマブとステロイド性骨粗鬆症
ステロイド性骨粗鬆症(glucocorticoid-induced osteoporosis:GIO)は,長期グルココルチコイド治療において最も注目すべき副作用であり頻度が非常に高いといえます.GIOは患者数が多く年齢層も幅広いため,社会的影響は大きいです.GIOの患者数は原発性骨粗鬆症に次いで多いといわれており,米国ではおよそ400万人,本邦ではおよそ200万人と推計されています.また原疾患の治療に携わる医師は骨粗鬆症の専門医でないことも多く,残念ながら,医師,医療スタッフらのGIOに対する認識は高くありません.整形外科,内科のみならず,皮膚科,移植外科など骨粗鬆症の非専門医および関係する医療スタッフへの啓発活動も今後重要です.
GIOに対するデノスマブ治療に関しては,国内外において有用性についての報告が散見されます.グルココルチコイド治療を継続もしくは開始した患者を対象とした国外二重盲検,非劣性多施設共同試験では,デノスマブ使用(デノスマブ群)398名とリセドロネート使用(リセドロネート群)397名との比較検証を2年間行っており,使用1年時点でデノスマブ群はリセドロネート群と比べ腰椎骨密度上昇は非劣性でした.また大腿骨近位部の骨密度においてデノスマブ群ではリセドロネート群と比べ有意な上昇がみられました.以上,デノスマブはグルココルチコイド治療を継続もしくは開始した骨折リスクの高い患者に有用な治療薬であると述べています17).2017年度には米国リウマチ学会からGIOに関する薬物治療および骨折予防ガイドラインが提唱されました.中等度~高度の骨折リスクのある男性,閉経後女性のGIO患者では,経口ビスホスホネート製剤,静注ビスホスホネート製剤,テリパラチドと並び,デノスマブの使用が強く推奨されています.さらに,18カ月間以上の経口ビスホスホネート使用にもかかわらず脆弱性骨折を起こした場合や10%以上の骨量減少を認めた場合は,テリパラチド,静注ビスホスホネート製剤とともにデノスマブの使用が推奨されています18).一方でGIOへの薬物療法に関する国内の報告は非常に少ないです.Ishiguroらは肺疾患にグルココルチコイド治療を行った36患者について,経口ビスホスホネート製剤からの切替でデノスマブとデノタス®チュアブル併用療法を行った経過を報告しています.デノスマブへの切替12カ月時で腰椎骨密度は平均3.2%上昇,大腿骨頸部骨密度は投与12カ月時で投与前と比べて有意差はありませんでしたが,投与28カ月時点で36患者のうち継続投与できた25患者において,投与12カ月時と比べ有意に上昇したと報告しています19).われわれはGIO患者においてビスホスホネート前治療の有無で2群に分けてデノスマブ投与12カ月経過を報告しました16).GIO女性患者48名をビスホスホネート前治療あり群(24名)となし群(24名)に分け,デノスマブ投与3,6,12カ月時点において,骨形成マーカーであるBAPとP1NP,骨吸収マーカーであるTRACP-5b,および腰椎骨密度と大腿骨近位部骨密度の変化率を検証しました.結果,デノスマブ投与前と比べ,BAPとP1NPの変化率は両群ともに投与期間中有意な低下を示しました.またTRACP-5bは投与3カ月時に両群ともに有意に低下し,投与6および12カ月時点でビスホスホネート前治療なし群で有意な低下を認めました.一方,投与12カ月時点で腰椎骨密度はビスホスホネート前治療あり群で3.4%上昇,なし群で4.2%上昇,大腿骨近位部骨密度は両群ともに4.7%上昇でした.特にビスホスホネート前治療なし群ではデノスマブ投与前と比べ,腰椎および大腿骨近位部骨密度の有意な上昇を認めました.
以上より,GIOでデノスマブを使用する場合,ビスホスホネート前治療なしの方が骨密度上昇という観点からみると,より有効である可能性が示唆されました20).今後国内のGIO患者におけるデノスマブの長期使用の有用性についても調べる必要があります.
3)デノスマブと生活習慣病
Ferrieresらは,特発性骨粗鬆症患者における心血管イベントおよび全死亡率に対するデノスマブの影響を報告しました.18歳以上の特発性骨粗鬆症患者を対象とし,治療群(デノスマブまたはPTHアナログ)および対照群(プラセボまたは無治療)を含む無作為化試験を分析対象として,システマティック文献レビューとして検証した結果,両薬剤とも心血管リスクおよび全死亡率に対し影響を与えませんでした21).また,骨粗鬆症かつ2型糖尿病と診断された男性および閉経後女性20名(平均年齢72.1歳)を評価対象とした報告では,デノスマブは患者のインスリン抵抗性を改善し血糖コントロールに有用であるとしています22).
さらに過去のビスホスホネート製剤投与(95例は経口,28例は静注)後のデノスマブ使用における骨密度の変化および慢性腎臓病〔eGFRは24例(18%)で35 mL/分/1.73 m2未満〕が反応に及ぼす影響を検討した報告では,対象を134症例(男性11例,女性123例,平均72歳)としました.比較対象群として経口から静注ゾレドロネートに変更した94例(平均71歳,女性76名,男性18名)としました.結果,過去の報告と照らし合わせてもビスホスホネート製剤前投与の有無にかかわらずデノスマブは骨密度を上昇させており,12カ月時点における骨密度においてデノスマブ群とゾレドロネート群では有意差はありませんでした23).
以上,デノスマブは糖代謝,腎代謝,心血管系イベントの発生に与える影響は少ないと考えられます.
地域での取り組み
われわれは,県内各地域とともにロコモティブシンドローム(ロコモ)・骨粗鬆症の予防と対策事業を進めてきました.ここでは特に大町スタディに関してご紹介します.過去5年間,高齢化率上昇の進む長野県大町市(人口27,000人,高齢化率35.3%)と連携し各世代へのロコモ,特に骨粗鬆症予防対策(学校給食見直し・栄養および運動指導など)を行いました(大町市・信州大学共同事業).当初,検診率は非常に低く骨折数が増加の一途をたどっていましたが,各公民館を巡回し体操教室や勉強会などの啓発活動を実施した結果,65歳以上女性の検診数は上昇(2011年度220件→2018年度890件)し,大腿骨近位部骨折手術件数は減少(2016年度38件→2018年度9件)しています(中村ら,未公表データ).
このように,地域ぐるみの取り組みは骨粗鬆症予防対策として非常に重要であると考えています.さらに,独自の「骨粗しょう症手帳」を作製し,医療スタッフおよび地域住民への啓発活動を定期的に行っています.
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