書 評
佐々木 雅一
(東邦大学医療センター大森病院 臨床検査部 技師長補佐)
抗菌薬について書かれる医学書籍の書評を臨床検査技師である私が書くのは珍しいと思われるが,抗菌薬適正使用支援チーム(Antimicrobial Stewardship Team:AST)の一員として感じた本書の素晴らしさについて紹介したい.
著者の三村一行先生とは関東労災病院時代に感染症チームとして共に働いたことがある.当時,感染症チームを率いていた岡 秀昭先生(現:埼玉医科大学総合医療センター 総合診療内科/感染症科・感染制御科 教授)が研修医教育に非常に熱心だった.落ち着いた語り口ながら研修医を惹きつけるレクチャーがとても素晴らしかった.三村先生もとても研修医教育に熱心であった.研修医に寄り添いながら,どのように説明したら理解しやすいのかということを大切に考えていたように思う.困ったときの駆け込み寺としての立ち位置で,うまいこと感染症チームの棲み分けができていたように思う.その三村先生が執筆した本が出版された.
読む前からどのような内容なのか想像できた.と,思っていたが読んだ今はその想像を改めたい.想像を大きく超えたわかりやすさだった.
1つ目として,とてもシンプルである.ちなみに本書は抗菌薬の解説書ではない.抗菌薬の「選び方」と「使い方」の本である.難解な専門用語が連なる抗菌薬の解説は他の専門書に任せて,シンプルに選び方と使い方の基本的思考に浸ってほしい.
2つ目に覚えやすさに配慮している.感染症カンファレンスで何度となく繰り返されたやりとりが,「STAST」や「クラスター化」,微生物もPEK(Proteus,E. coli,Klebsiella)やSEC(Serratia, Enterobacter, Citrobacter)などキャッチーなフレーズに置き換えられている.
3つ目として(ここが一番重要である),抗菌薬の選択はその前段階の思考プロセスが重要であるが,このプロセスの説明がとてもわかりやすいのである.診断,微生物,ソースコントロール,重症度評価,治療効果判定など感染症科に相談した場合に必ず出てくる話題であり,ベテランと若手医師の問答という形も取り入れてとっつきやすい構成となっている.感染症診断のプロによる思考プロセスの基本を垣間見ることで,本書でいう「裏技的思考」という短絡的な抗菌薬選択方法(「〇〇感染には××マイシン」)からの脱却の光が見えてくるはずである.
本書の冒頭部分でも触れているが,非専門家の医師やメディカルスタッフに対して伝える場合に大切なことが本書の骨格となっており,医師だけではなく抗菌薬適正使用支援やDS(診断支援)活動を行うスタッフにとって必読の書になるであろう.