第2章 内頚静脈アプローチ
2 実際の手技
豊田浩作
(島根大学医学部附属病院 麻酔科)
- ベッドの高さ・左右傾斜・モニタ位置を適宜調整し,自然な姿勢と安定した視線の動きで穿刺を行う
- 内頚静脈の解剖学的特徴を理解して穿刺部位と留置位置を決定する
- 重要な神経・動脈と近接しているため,穿刺においては内頚静脈前壁のみを貫くよう留意する
適応と禁忌
内頚静脈CVCの適応は,一般的なCVCの適応に加えて以下のような点があげられる.
- 周術期など短期間の留置を予定している場合
- 肺動脈カテーテル,一時的ペーシングカテーテルの挿入予定の場合
- 透析用ブラッドアクセスの挿入予定の場合
原則禁忌として,以下があげられる.
- 穿刺部に感染症,外傷や熱傷がある場合(気管切開患者も含む)
- 出血傾向の患者(血腫による気道閉塞リスクのため)
体位とセッティング
患者は仰臥位が基本となる.肥満などの患者では,肩枕を入れると頚部の皮膚が伸展し,穿刺が容易となる.ベッドを傾斜させTrendelenburg体位とすることにより,静脈圧が上昇し内頚静脈径が拡大して穿刺しやすくなる.人工呼吸下の患者であれば,軽度のPEEPを付加してもよい(血圧低下に注意).ベッドの高さをやや高めにすると,視線の移動だけで超音波診断装置の画面と手元の操作を視野にいれることができる(図1).
病棟用ベッドなど,ベッドの高さ調整に制限がある環境で穿刺する場合は,術者が椅子に座ることで相対的に視線を低くすることができる.その際には術者の肘や腹が不潔になりやすいため,清潔布の展開を十分に広く行うとよい.
穿刺する側と反対側に頚部を30°程度回旋させる.過度な回旋は,内頚静脈と総頚動脈の重なりを大きくし1),穿刺が困難となる.頚部の回旋がわずかである場合,プローブ面を皮膚にしっかり密着させたときにプローブが垂線に対して斜めになることが多い(p.27 第1章-4 図7A参照).基本的に穿刺針はプローブの軸と平行となる角度で穿刺するため,この場合は穿刺針自体も垂線に対して斜めとなり,不自然な穿刺姿勢となる.
手術台など左右の傾斜を調整できるベッドで穿刺を行う場合は,穿刺する側と反対側にベッドを回転傾斜させてもよい(図2).左右の傾斜ができない場合は,右肩の下にタオルや肩枕を入れることで,ベッドの左右傾斜に近い効果が得られる.
超音波診断装置の画面は術者の正面に位置するのが理想的である.吊り下げ型のモニタがある環境であれば,超音波診断装置の画像をモニタに転送し,モニタを患者の体幹の直上のできるだけ低い場所に位置させる(図3A)(清潔野を汚染しないよう留意すること).吊り下げモニタの装備がない場合は,術者の斜め前,患者の側方に位置させる(図3B).その際,術者が右利き(左手でプローブを持つ)で患者の右内頚静脈を穿刺する場合には,患者の左側に超音波器機を位置させよう.そうすることにより,プローブのコードが術野上を交差することなく,また穿刺針の進む方向と視線の方向のずれが少なくなる(穿刺針の進む方向については後述).モニタの位置を低く,あるいは術者の斜め前の位置にすることは,いずれも余計な視線の移動を抑えるためにも有用である.
病棟用ベッドのような幅の広いベッドで穿刺をする場合は,ベッド中央ではなくベッド端に患者を位置させることで,より視線のずれを少なくすることができる.
文献
- Sulek CA, et al:Head rotation during internal jugular vein cannulation and the risk of carotid artery puncture. Anesth Analg, 82:125-128, 1996