第5章 便秘薬
井野裕治
(自治医科大学内科学講座消化器内科学部門)
症状の概要と系統間での使い分け
- 便秘薬は主に,浸透圧性下剤,刺激性下剤,上皮機能変容薬,胆汁酸トランスポーター阻害薬,に分類される.
- 浸透圧性下剤は,腸管内で水分泌を引き起こすことで便を軟化させ排便回数を増加させる.硬い便を伴う便秘に対してよく使用される.酸化マグネシウムは安価であり第一選択で使われることが多い.
- 刺激性下剤は,作用が強力で効果発現までの時間が短いのが特徴である.しかし長期の使用は腸管運動の低下を引き起こすため頓服での使用が望まれる1).
- 上皮機能変容薬は新しい薬剤である.薬剤の相互作用や長期使用での耐性が少ない.リナクロチドは大腸痛覚を減少させる作用があり,腹痛や腹部不快感などの症状が合併している症例に使用する.
- エロビキシバット(グーフィス®)は,胆汁酸の大腸への流入を増やすことで便の水かさを増やすほか,腸管の蠕動を促す作用がある.
- 大黄を含む漢方薬は,弛緩性の便秘に有用だが,長期使用での耐性が問題である.
- ナルデメジン(スインプロイク®)は,オピオイド誘発性の便秘に特化した治療薬である.
1便秘を訴える患者に下剤を投与するときに考慮すること
1) 鑑別すべき疾患・便秘をきたす病態
薬物治療を行う前に器質的疾患が隠れていないかの鑑別を行います.表1のように便秘をきたす原因はさまざまです.まずは問診で細径の便が出ていないか,便に血が混じっていないか,体重減少がないかなどを聞きます.腹部の診察では腸雑音の性状,圧痛の有無や部位,筋性防御や反跳痛の有無,腹部膨満の有無などを診ます.
次に使用薬剤の把握,血液検査やX 線検査,便潜血検査を行います.便潜血検査が陽性の場合は下部内視鏡検査を行います.何と言っても見逃してはいけないのが悪性腫瘍ですが,便秘をきたすほどの腫瘍がある場合,X 線やCT 検査で腸管狭窄や腫瘤として捉えられることがあります(図1).血液検査では電解質,血糖値,甲状腺ホルモンなどの検査を行い内分泌疾患に続発する便秘の除外を行います.
2) 便秘へのアプローチと治療の進め方
薬物療法と並行して,食生活や生活習慣,排便習慣の改善を指導することも重要です.食事指導の基本として十分な水分を摂取すること,食物繊維を増やすように野菜や果物を積極的に摂取すること,1 日3 回の規則正しい食生活をおくるよう指導します.特に食事反射による排便は朝食後が最も強いとされており,朝食をきちんと摂ることは排便習慣の確立に重要とされています2).
薬物療法については,第一選択薬としては酸化マグネシウムなどの浸透圧性下剤やルビプロストンを用います.機能性便秘では根本的な治癒が難しく長期で内服治療が必要となるケースが多いため,治療初期からの耐性の生じやすい大腸刺激性下剤の連用は極力避けるべきです.
2系統別の薬の使い分け
1) 患者背景・有害反応の観点からの使い分け(年齢,基礎疾患,内服薬など)
慢性便秘は長期での内服が必要になることが多いため,患者の背景からどの薬剤が最も安全に使用できるかという観点から使い分けをします.
①高齢者
高齢者は他の基礎疾患があり多種類の薬剤を使用していることがあります.便秘に対してよく使用される酸化マグネシウム製剤は他剤との相互作用が比較的多い薬剤であるため注意が必要です.また酸化マグネシウムの約4 %が服用後に腸管から吸収されるとされています.高齢者や腎機能障害のある患者では高マグネシウム血症をきたす恐れがあり注意が必要です(2015 年10 月より慎重投与に高齢者が記載されました).これに対し上皮機能変容薬であるルビプロストンは他剤との相互作用が少なく,高齢者でも安全に使用できる薬剤とされています.またルビプロストンでみられる嘔気,嘔吐などの症状は高齢者では若年者に比較すると少ないと言われています.
②ADL の低下している患者
寝たきりの方は運動量の低下が便秘の原因になっているケースも多いため,ピコスルファートナトリウムなどの液体の大腸刺激性下剤で調節します.嚥下機能が落ちている方には直腸刺激性下剤やグリセリンの浣腸薬を用います.胃管の患者では酸化マグネシウムの口中崩壊錠などを利用し,微温湯に懸濁しながら投与する方法もあります.しかし,もともと酸化マグネシウムは水に難溶性であり,胃管の詰まりをきたす可能性もあるので注意が必要です.腹部膨満感のある方に対しては大建中湯が比較的容易に水に溶け,経管チューブからの投与がしやすくなっています3).
③妊婦の便秘
妊娠初期は便秘になりやすいと言われています.妊婦に対しては使用禁忌,使用注意の薬剤が多いので注意が必要です.麻子仁丸などの大黄を含む漢方薬,センナ,センノシドなどの大腸刺激薬は,子宮収縮を誘発し早流産の危険があるため原則禁忌または投与しないことが望ましいとされています.またルビプロストンは動物実験で流産の報告があり,妊婦に対しては使用禁忌に分類されています.酸化マグネシウムや大建中湯などは比較的安全に使用することが可能です.
④抗精神病薬を使用中
精神疾患で用いられる薬物は副交感神経の標的部位に対する神経伝達物質であるアセチルコリンの阻害作用(抗コリン作用)を有し,腸管蠕動を強力に抑制します.また錐体外路症状を予防する目的で抗コリン薬も使用されることがあり,さらに便秘を誘発しています.このようなケースでは通常の便秘薬に抵抗性であるため,処方医に依頼して可能であれば薬剤中止,あるいは代替できる薬剤への変更を検討してもらう必要があります(具体的には三環系抗うつ薬は便秘をきたしにくいSSRI/SNRI への変更を検討する,また可能であれば定型抗精神病薬から錐体外路症状が起きにくい非定型抗精神病薬への変更を行うなど).
下剤の投与としては浸透圧性下剤の酸化マグネシウムを中心に治療を行います.改善しない場合は腸管運動改善薬であるパントテン酸,5-HT4 受容体刺激薬(ガスモチン®),ドパミン受容体拮抗薬(ガナトン®)などを使用することもあります.
⑤オピオイド系薬剤を使用中
オピオイド系薬剤は低用量でも強固な便秘をきたします.特にモルヒネやオキシコドンでは蠕動の抑制効果が強いため,便秘薬でもコントロールが困難な場合はフェンタニルへのローテーションを検討します4).
ルビプロストンは海外で3 つのRCT が行われ,非がん患者におけるオピオイド誘発性便秘に対する有効性が報告されています5).ナルデメジン(スインプロイク®)は,オピオイド鎮痛薬の鎮痛作用を減弱させることなく,腸管のμオピオイド受容体に結合しオピオイド鎮痛薬の作用に拮抗することで,有害反応である便秘症状を緩和します.
2) 効果発現までの時間からの使い分け(表2)
①超短時間
経肛門投与される薬剤は速やかに効果発現します.便秘による腹部膨満が強い症例に使用します.
ビサコジルは挿肛することで有効成分が直腸粘膜を刺激し,腸の運動を活発にして排便を促します.炭酸水素Na・無水リン酸二水素Na は挿肛すると直腸内で炭酸ガスが発生し,直腸に排便刺激を与えます.グリセリン浣腸は油性なので,便のすべりを良くして排便を促します.グリセリン自体は無害ですが,カテーテルによる肛門,直腸粘膜の損傷の恐れがあるため,あまり深くは挿入せず,左側臥位でゆっくり注入する必要があります.いずれも1 時間以内での効果が望めます.
②短時間
刺激性下剤は効果発現までの時間が比較的短く作用が強力です.
センナ・センノシドは腸内細菌によってレインアンスロンという物質に分解され大腸を刺激し,蠕動運動を強めることで効果を発揮します.すばやい排便効果を有する薬剤であり,服用して8 〜12 時間後に効果があらわれます(寝る前に服用することで,起床時の排便を期待することができます).胆汁酸トランスポーター阻害薬は大腸への胆汁酸の流入を増やします.胆汁酸には大腸の蠕動促進作用があるため比較的早期に効果発現します(約5 時間).
酸化マグネシウムは効果発現までの時間に個人差がある薬剤です.1 〜2 時間で効果が出る方もいますが,数日かかる症例も経験します.
③長時間
浸透圧性下剤のモビコール®は高分子量のポリエチレングリコール製剤で,浸透圧により腸管内の水分量を増加させ排便を促します.効果発現までには2日程度必要です.効果があらわれるまでに時間がかかることを投与前に患者さんに十分説明する必要があります.
<参考文献>
- Bharucha AE, et al:American Gastroenterological Association technical review on constipation. Gastroenterology, 144:218-238, 2013
- 福田ひとみ,松嶋優子:大学生の食事状況・食行動と便秘状況.平成17年度帝塚山学院大学 人間文化学部研究年報,7:91-97,2005
- Eutamene H, et al:Guanylate cyclase C-mediated antinociceptive effects of linaclotide in rodent models of visceral pain. Neurogastroenterol Motil, 22:312-e84, 2010
- Radbruch L, et al:Constipation and the use of laxatives: a comparison between transdermal fentanyl and oral morphine. Palliat Med, 14:111-119, 2000
- 「臨床医のための慢性便秘マネジメントの必須知識」(中島 淳/ 編),医薬ジャーナル社,2015