中級編 患者さんの主訴から診断に迫る臨床超音波!
おなかが痛い!と言えない乳幼児の腹痛!?
エコーはどうしたらいいのですか?
小野友輔1),児玉和彦2)
(北九州市立八幡病院 小児救急・総合医療センター1),こだま小児科2))
- 研修医
- :腹痛って苦手です! 乳幼児は訴えもわからないし,疾患も多くて….
- O先生
- :うん,私も昔苦手だったよ.でも,相棒(エコー)を手に入れてから訴えがわかりにくい場合でも病変部位を特定できるようになったし,自分の臨床推論の答え合わせが自分でできる,そして思わぬ落とし穴も回避できるようにもなった.なんか武器と防具を一緒に手に入れたような気分で,主訴に「腹痛」という言葉をみてもうろたえなくなったし,逆にやる気が出るようになったよ.まずは病歴(問診),診察.そこで絞り込みをしてとどめにエコー.じつはエコースキル以上に小児疾患の理解と知識が重要なんだ.例えば有名な腸重積症(3-2)参照)の問診.「間欠的腹痛」はありますか? なんて聞くより,「なんかへーんな不機嫌はなかったですか? 例えば出産前の陣痛のような,波のある…」と聞くと,より検査前確率があがると思うよ.ではSuper K先生のフローチャート(図1)にそって勉強してみよう.
- 研修医
- :エコーの達人じゃなくてもいいのですね.できそうな気がしてきました!
1乳幼児の腹痛のエコーオーダー
乳幼児の腹痛のエコーをオーダーする際には,下記の情報は必ず記載しましょう.
- 簡単な病歴:
- 主訴,病歴と身体診察
- 主訴の詳細:
- 腹痛の「発症様式(急性か,慢性か,飲食や外傷と関係があるか),性状(間欠的か,持続的か),部位(はっきりないときはその旨を記載する)」
- 随伴症状・所見:
- 発熱,嘔吐・下痢,血便,腫瘤
- 主訴と関連がある既往歴:
- アレルギー,尿路感染症,便秘症など
移動方法や感染症
現病歴や鑑別疾患,何をみてほしいかを伝えることで,検査者もみる臓器を絞り込むことができ,効率よくエコーを行うことができます.
乳幼児の腹痛では,腸重積症や嵌頓ヘルニアなど緊急性が高い疾患もありますので,少しでも疑わしい所見(顔色不良を伴う嘔吐や鼠径部の腫瘤など)があれば共有しておきましょう.
設備や事前準備の兼ね合いもあるため,患児の移動方法や感染症の有無についても記載しておくとよいでしょう.
【主訴】不機嫌(腹痛?)
【依頼内容】数時間前から間欠的腹痛と思われる不機嫌をくり返しています.発熱なし.
非胆汁性嘔吐1回あり.下痢・血便なし.鼠径部の腫瘤なし,腹部の圧痛はわかりませんでした.腸重積症の除外のためエコーをお願いします
【鑑別疾患】もともと数日に1回しか排便がないとのことで,便秘かもしれません.
【移動方法】母が抱っこ【感染症】臨床的に検査不要と判断しました.
乳幼児はそもそも腹痛を訴えることが難しく,ただの不機嫌が腹痛である場合も多いです.pivot & cluster戦略で対応すると道が開けます(pivot & cluster戦略については入門編1を参照).
2乳幼児の腹痛のよくみる疾患(pivot)
● ウイルス性腸炎
まず救急外来を受診する乳幼児の腹痛(不機嫌)で圧倒的に多いのが腸炎(ウイルス性腸炎)です.症例と画像を提示します(図2).
ウイルス性胃腸炎の原因ウイルスとしてロタウイルス,ノロウイルス,アデノウイルスなどがあります.ロタウイルス腸炎はワクチン接種の有無や高熱の有無,アデノウイルス腸炎は回盲部リンパ節腫脹の程度がほかのウイルス性腸炎より目立つ,腸重積症を起こしやすいなどが臨床的に重要ですが,症状からこれらのウイルスの特定は困難です.これらのウィルスは十二指腸から小腸にかけての腸管上皮細胞に感染し,小腸絨毛の萎縮などを引き起こすと言われています.画像上では小腸をメインとした液体貯留による拡張がみられます.エコーのリアルタイム性を活用し蠕動の亢進をみる,内容物のto and fro sign をみることも重要です(図2).
しかし,大事なことはこの画像に引っ張られすぎないことです.いろいろな疾患で同様の所見は得られます(ピットフォール①参照).一方,「嘔吐だけで実際に下痢が出ていない場合は胃腸炎としてはいけない」という長年の一般論に対して,「エコーでは腸管内に下痢が大量にたまっているので臨床情報と併せて胃腸炎が想定されます」という考察が可能となります1).
また,救急外来では軽傷頭部打撲で嘔吐をしている患児に遭遇することがあります.とりあえずCTではなく,まずは腹部エコーを行い,実は胃腸炎ではないか? という目も重要です.逆にこの所見のみで「ウイルス性腸炎だ!」と思い込むことも危険です.頭蓋内病変はred flagであることが多いため,病歴(受傷のエネルギーなど)や各施設のCT撮像基準を確認のうえで診療をすすめていくことは重要です.
3乳幼児腹痛のcluster
次に,腸炎ではなさそう,またはプラスαを考えたときのclusterに入ります.臨床情報(病歴,身体診察)を駆使して鑑別をあげていきます.年齢的に頻度は減りますが虫垂炎は最もエコーが有用な疾患の1つです.詳細は入門編4&初級編3へ.捻転(精巣,卵巣)は時間軸が最も重要です.早期発見,早期対応が望まれます.こちらも上級編2で塾長にみっちりと鍛えていただきます.その他のclusterをこの章では取り上げます.
1)腸重積症
●診断
腸重積症は口側の腸管が肛門側の腸管に嵌入する小児の重要な危急疾患です.重積が最も多くみられる部位は,肝彎曲部です(図3).重積した腸管の短軸像はmultiple concentricring signと表現されます.その外筒と内筒の間に腸間膜が引き込まれている状態はcrescent in doughnut signとよばれ,重要な所見です.また,短軸像だけでは見落とすこともありますので長軸像でも確認することが大事です.長軸像は腎臓に似ていることからpseudokidney signとよびます(図3B).
腸重積症はほとんどが小腸が大腸に嵌入する小腸大腸型ですが,小腸が小腸に嵌入する小腸小腸,大腸が大腸に嵌入する大腸大腸型もまれにあります.診断が遅れると腸管壊死に至るので注意が必要です.三主徴は間欠的腹痛,嘔吐,血便ですが,すべてそろう場合は10~50%といわれています2).つまり少しでも鑑別にあがるときにはエコーが重要です.また,先進部に器質的疾患を有する場合もあります.その検索にもエコーは有用です(図4,5).
最後に紛らわしいもの,経過観察でいいもの(いわゆる,もどき)をピットフォールで記載いたしますので参照下さい(図6,7,ピットフォール②).
当直医は短軸像のみしか確認していませんでした.スキルアップしたら層構造の確認から短軸像のみでも診断可能ですが,基本的に長軸と短軸両方で確認する必要があります.なお,粘膜,粘膜下層が肥厚し低エコーとなっています.その内部にみえる高エコーが腸管の内容物にairが混入した所見になります.結果,この症例はカンピロバクター腸炎でした(図6).
図7も腸重積症として整復術を予定されていた症例です.こちらも経過観察としました.benign small bowel intussusceptionともよばれ小腸と小腸が重なっているだけの所見と考えられており,無症状なら基本的に経過観察です.
- ① 外筒が2.5 cm以下
- ② 重積腸管の長さが3 cm以下
- ③ 重積腸管の蠕動がみられる
- ④ 特異的な先進部が欠如
●整復
最後に治療です.腸重積症の診断から治療まですべてエコーで行うことが可能です.診断がついた後,ショックバイタルではなく,エコーで腸管穿孔や壊死の所見などがない場合に整復可能と判断します.また多量の硬便貯留があるかどうかもエコーで確認し,適宜浣腸をかけた後に行います.硬便の存在は整復率を低下させます.
場所は蘇生カート,酸素投与,十分なモニターが可能である救急外来で行います.透視室で急変したらたいへんです.被曝をしないことに加えて,場所を問わない,これもエコー整復のメリットです.静脈路確保の後,エコー担当の医師,鎮静・鎮痛・気道管理を行う医師の2人以上で行います.医師が1人しかいない場合の自家麻酔はリスクが上がるので避けるべきですが,医師が2人以上かつ鎮静スキルを有しているならばできるだけ鎮静・鎮痛を行ってもいいのでは,と考えます.この整復術は非常に苦痛と恐怖を伴います.鎮静をかけると児の状態評価が難しい! と思う方もいるかもしれませんが,整復中の状態悪化は穿孔によるものです.エコーを使用していると,腹水の貯留や生理食塩水の滴下速度をみることで穿孔の有無が即座に判断可能です.また体動もないのでモニタリングが容易ですし,整復率があがる報告もあります.医師のスキルしだいで児に苦痛や恐怖を与えるかどうか? 保護者に大絶叫をきかせてしまうか? 大事な課題です.また,記録や介助のため看護師1~2名も同席します(図8).
さて,整復開始です.整復の手順は下記のとおりです.
被曝がない,場所を問わない,生理食塩水を注入するために先進部病変の発見が容易になる,穿孔の際に発見が容易…,などいろいろなメリットがあるエコー整復ですが,いまだに浸透していないのが現状です.その理由の1つとして,整復の瞬間を見落とすことが怖いという意見がありました.これは大丈夫です.見落としても整復後のサイン(図11)を確認すれば,その証明になります.重積部が通過した後の肥厚したバウヒン弁は,カニの爪という意味でcrab-claw signとよばれていますが,私は勝手に「勝利のピースサイン」とよんでいます(図11A).また,整復後の肥厚した回腸末端の短軸像をpost-reduction doughnut signとよびます(図11C).生理食塩水で充満した小腸はhoneycomb sign(図11D)とよばれ,重積が解除されてそこまで生理食塩水が到達したことを示します.小腸小腸重積が残存している場合もあるため,最後のhoneycomb signは重要です.また,バウヒン弁を通過する生理食塩水の勢いも口側に小腸小腸重積,つまり通過障害があるかどうかを判断する情報になります.
いかがでしょうか? 整復の瞬間を見落としてもエコーで整復後のサインを確認できますので,大丈夫なんです.読者の皆様がエコー整復をひろめてくれることを期待します.
2)嵌頓ヘルニア
嵌頓ヘルニアは,腸重積症とならぶ小児の危急疾患です.初診医のスキルで大きく予後が変化します.またどんなに熟練した外科医でも視診,触診のみでは誤診することがあります.そこでエコーです.エコーが不要な場合も多いのですが,迷ったとき,困ったときにはエコーが有用です.診断から治療までのフローチャート案をお示しします(図12).
脱出がない場合は診断が困難です.そこで,立位,ジャンプ,バルーンを膨らませるなどいろいろな手法を用いて腹圧をかけての走査を試みます(図13).また,内容物の確認も重要です.卵巣脱出例は無理な圧迫は禁忌です(図14).捻転の合併,ほかの奇形を伴う可能性4)もあるため,卵巣の脱出がみられたら,捻転はないかを血流信号,Bモードでの連続性を確認し評価する,ほかの奇形がないかもエコーで確認する必要があります.
診断だけでなく,整復に関してもエコーが有用です.徒手整復の方法として,まず右手の手指でヘルニア内容を包み込みできるだけやさしく押し込みます.このときに左手が重要な役割を担います.拇指と示指を外鼠径輪に固定し整復方向をガイドします.私はこの左手のガイドをエコーガイドにしたらより効率よく整復できるのではないかと考えました(図15).
図16は6カ月男児の鼠径ヘルニア嵌頓です.この症例でどのように整復を進めたかについて説明します.整復不可能でエコーの依頼がありました.不可能と聞いても,慌てずにエコーです.抱っこしたままでも構いません.エコーで診断,内容物の確認をしたあとに画像のようにヘルニア門を同定します.どの深さに? どの角度に? と考えながら押し込んでいきます.過度の圧迫をかけると児は疼痛でもっと大泣き,大暴れです.そして間違った方向に押し込むと腸管はもっと浮腫性変化を起こします.この症例ではエコーガイドにより,整復に成功しました.
実際手術加療を行いイメージがついている外科医は手技が得意であり,小児科医は手技が苦手な場合が多いです.しかし,ファーストタッチは小児科医が多いので,エコーを駆使して整復率をあげる必要があります.ただの小児科医のO先生ですが,現在は外科医から整復困難のためエコー整復を依頼されるようになりました.また無理な整復による腸管損傷の報告もありますので,整復後に再度腸管,腹水の有無をチェックする意識も大事です.
3)便秘
便秘は最も遭遇することが多い疾患の1つです(図17).たかが便秘,されど便秘です.下痢(や遺糞症)を主訴として受診する場合もあります(ピットフォール③参照).
便秘症でした.これはsoilingといわれ,硬便のすきまから液状便がしみだしてくる遺糞症といわれる状態です.早期に対応しないと,いじめが起きてしまう場合もあり,ひきこもりなど自己否定につながります.下痢イコール胃腸炎としないことが重要です.
腹部単純X線撮影で便の状況を観察し,便秘の診断をつけている現状かと思いますが,私はリアルタイム,被曝がなく,ベッドサイドでできるエコーが有用と考えます.エコースキルに自信がない場合や,ほかの疾患を想定するときは非常に有用な単純X線撮影ですが,便秘に関してはエコーファーストと考えています.「単純X線撮影1枚くらい」と,いわれることもあります.確かに,微々たるものであり大きな被曝の影響はないといわれています.
しかし,自分にとっては「そのくらい」であっても,相手はそう思っていないかもしれません.小児医療に携わるものとしては,少しでも無駄な被曝をなくしたい,放射線に対する無駄な不安を与えたくないという気持ちを根底にもつ必要があるのではないかと考えます.また浣腸などdisimpaction後の反応をみるためにも有用です(図18).
また,便秘症は病歴と触診が役に立ちます.自らの触診で便塊の貯留部位を推測し,エコーで確認(エコー輝度が高いほど硬い便),そして再度触診をして手に覚え込ませることで触診のスキルもアップします.
また上行結腸と下行結腸は腹部の最外側,最背側の腸管であり触診が難しいです.触っているつもりでも違うものである場合もありますし,そもそも触れない場合もあります.便塊と同様,エコーで確認し,そこを触ることで,触診のスキルが上がります.自らの触診の答え合わせは自らのエコーで行うことがスキルアップの近道です. 最後にフローチャート,その他に当てはまる疾患の説明です.
4)外傷(図19,20,21)
外傷は病歴が最も重要な疾患の1つです.FAST(focused assessment with sonography for trauma)で①心嚢液,②肝腎境界と右胸腔,③脾周囲と左胸腔,④骨盤内と,液体成分をチェックすることはもちろん,詳細な外傷部位を確認するときにもエコーは有用です.また,小児疾患で忘れてはいけないのは虐待(abuse)です.原因不明な外傷では必ず鑑別にいれましょう.外傷の際には腹腔内損傷のレベルと受傷機転の整合性を確認,そしてエコー中における保護者の行動(印象)や言動はしっかりとカルテに記載するよう心がけましょう5).
5)水腎症
水腎症は腎臓でつくられた尿の流れがせきとめられて,尿の通り道や腎臓の中に尿がたまって拡張した状態をいいます.腹痛の原因として重要です.特に腹痛の原因となるのはureteropelvic junction obstruction(UPJ:腎盂尿管移行部狭窄症狭窄)です(図22).そして原因不明のくり返す腹痛(同部位)では間欠的水腎症の発作を念頭に置く必要があります(図23).
6)消化管アレルギー
消化管アレルギーに関してもエコーでの評価が検討されています(図24).小腸壁,腸間膜のパワドプラの信号強度で推測ができる場合もあります6).
病歴で人工乳使用の有無や体重の推移をチェックする必要があります.また高炎症,発熱を伴うこともありますので,ほかの感染症の除外も必要です(尿路感染症例:上級編1参照).
7)エコーでわかりにくい乳幼児腹痛
表1にエコーでわかりにくい腹痛の事例もあげました.右肺底部肺炎(図25)は横隔膜から見上げるように走査すると見える場合がありますが左側は難易度があがります.
4おわりに
乳幼児の腹痛は,clusterの可能性が低いのでpivotの胃腸炎をまずは考えてフォローを開始し,必要があればAO(active observation)として非侵襲性,かつベッドサイド,かつリアルタイムで行えるエコーをくり返すというスタンスも重要です.
● 乳幼児の腹痛をあきらめない
- 研修医
- :O先生,そもそも乳幼児って「痛い」って言えないこともありますよね.
- O先生
- :たしかに,それは,われわれの「頭が痛い」ところです.
- (とおりすがりの)K先生
- :お,O先生,なんかうまいこと言いましたね.
- O先生
- :K先生のように毎回ウケを狙っていませんから,一緒にしないでください.
- 研修医
- :痛々しい内輪もめはやめていただいて,どうしたらいいか教えてください.
- K先生
- :そもそも,痛みを訴えられるようになるのは,何歳ごろからだと思う?
- 研修医
- :幼稚園児ぐらいですか?
- K先生
- :ご名答.3歳ごろになると痛み場所がわかって,程度も伝えることができる.2歳ぐらいだと痛いとはいえるけれど,場所が正確かはわからない.それより小さい子どもたちは,「声なき声」で痛みを訴える.
- 研修医
- :動かないとか,顔色が悪いとかですか.
- K先生
- :その通り.泣くというのも痛みの表現だし,食欲がないということも痛みのせいかもしれない.不機嫌な乳幼児をみたら,どこか痛いのかもしれない.と思うことだね.
- 研修医
- :腸重積症も不機嫌になりますね.
- K先生
- :よく勉強しているね.腸重積症は,脳症かと思うくらいのぐったり感や意識障害を主訴に受診することがある.必ずしも「腹痛」が主訴になるわけではない.
- O先生
- :not doing well,つまりなんとなく元気がない子どもは必ずその原因を特定することが大事です.
- K先生
- :すぐに腹痛の原因がわからなくても,なんとしても突き止めるという,診断にこだわる気持ち,これを「腹痛診療に対する不屈の精神」という.
- O先生
- :腹痛と不屈のダジャレ!? それ,うまいこと言えていますか? 師匠なんとかしてください~~!
- A塾長
- :不屈の精神で乳幼児の腹痛を余裕で診察している小児科医の姿はとても頼もしくみえます.先生方に共通していることは身体診察がしっかりしていることです.研修医達もそのような先生にあこがれるでしょう.エコーは腹痛の原因検索にきわめて有効ですが,私も「声なき声」をしっかり受け止めながら走査しています.ちなみに,腸重積症は診断だけでなく,注腸の可否も決定しており,大変な「重責」を担っています.更に,エコー所見で150 cm水圧までOKであると注腸担当者にお伝えしています.また,確信的な所見が得られた場合,「今回の注腸では○○ cm水圧+αで整復が可能」とまで踏み込んだコメントをしています.エコーは臨床医との信頼関係で成り立っているモダリティゆえに「超重責」と認識しております.
便秘のエコーは診断だけではなく治療判定やフォローにも役立ちます.腹部単純X線を施行して確認する施設も多いかと思いますが,(たとえ微々たるものでも)ALARAコンセプトに基づきできるだけ子どもに被曝をさせないという心がけが重要です.実際にエコー中に児,保護者と会話をしながら共有することが,その後の治療に役立った例もあります.
- 児
- 「でているから大丈夫」
- O先生
- 「そうかな,いっぱい硬いのがみえるけど…」.
- 児
- 「ほんとはでていなかった…」
- 母
- 「こら! うそついたらだめでしょ」
- O先生
- 「まあまあ,もう一回治療をみなおしましょうか.あわてず,あせらず,怒らず,が基本ですよ.正直に話してくれてありがとう」
というやりとりも.
②全然関係ないのですが…~アレルギー科の医師の外来で,母より「全然関係ないのですが,この子の兄の話をしていいですか?」と相談がありました.不登校,食事をとらなくなったとのことでした.受診していただきエコー依頼.結果は重症便秘でした.たまに便がもれる(soiling)ようで学校に行くのがつらくなった,そしておなかがはって食事もとれなくなったとのことでした.重症便秘としてdisimpaction,その後コントロールを開始すると,体重はみるみるふえていき,学校にも登校できるようになったとのことで,ご家族や本児からとても感謝されました.アレルギー科の医師からも感謝されましたが,エコー担当としては逆に「Thanks for calling」,きっかけをつくってくれないとなにもできません.そして「全然関係ないのですが~」という話をご家族から引き出せるということはそれだけラポール形成があったものと思われます.そのような関係性を築くことがgood doctorと考えます.
文献
- 小野友輔:炎症:感染性胃腸炎.「小児超音波診断のすべて」(金川公夫,河野達夫/編) pp434-435,メジカルビュー,2015
- 「エビデンスに基づいた腸重積ガイドライン」(日本小児救急医学会/監,日本小児救急医学会ガイドライン作成委員会/編),へるす出版,2012
- Doi O, et al:Twenty-one cases of small bowel intussusception:the pathophysiology of iriopathic intussusception and the concept of benign small bowel intussusception. Pediatr Surg Int, 20:140-143, 2004
- Merriman TE & Auldist AW:Ovarian torsion in inguinal hernias. Pediatr Surg Int, 16:383-385, 2000
- 「小児虐待イニシャルマネジメント- われわれはいかに関わるべきか」(市川光太郎/著),南江堂,2006
- 神保圭祐,他:腹部消化管超音波検査が診断に有用であった新生児・乳児消化管アレルギーの3例.日本小児科学会雑誌,117:1133-1138,2013