Part2 ご自身の病気について、さらに詳しく知りたい方へ
体軸性脊椎関節炎(強直性脊椎炎・X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎)
Part2●ご自身の病気について、さらに詳しく知りたい方へ
強直性脊椎炎や体軸性脊椎関節炎とはどのような病気ですか?
体軸性脊椎関節炎とは体軸関節である仙腸関節や腰、背中、首の脊椎(背骨)の靱帯付着部に炎症が起こる病気です。肩や股関節、膝関節などの関節やアキレス腱の付け根(かかとの骨のところ)にも炎症が生じることがあります。また眼の症状や下痢などの腸の炎症が起こることもあります。X線検査で仙腸関節の変化が認められると強直性脊椎炎となります。X線検査で仙腸関節にははっきりとした変化が認められないものの、仙腸関節に炎症が認められるとX線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎となり、強直性脊椎炎とX線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎をあわせて体軸性脊椎関節炎とよびます。
45歳以下で発病し、誘因なくお尻の痛みや腰・背中の痛みが出現します。この症状はじっとしているとひどくなり、夜眠れないあるいは朝すぐに起き上がれないのが特徴です。からだを動かしだすと症状が楽になるのも特徴です。HLA-B27(p.18参照)を保有している人に起こりやすいとされていますが、日本人では外国に比べその保有頻度はかなり低いと考えられています。
喫煙が病気に関係していることも知られています。強直性脊椎炎は男性に多く、 X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎は女性に多いとされています。強直性脊椎炎では脊椎が骨でつながってしまい背中を曲げたりすることがしにくくなることがあります。
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患者さんは何人くらいいるのですか?
脊椎関節炎と強直性脊椎炎については、1990年代に日本国内のリウマチ関連施設において、大規模な調査が行われました。この調査では、有病率は脊椎関節炎全体で0.0095%(約1万人に1人)、強直性脊椎炎では0.0065%(約1万5千人に1人)と報告されました。その後、約20年間、大規模な調査は施行されていませんでしたが、2018年に小児科、リウマチ科、整形外科を中心とした全国疫学調査が施行されました。この調査では、強直性脊椎炎は全国に3,200人(有病率は人口10万人あたり2.6人:0.0026%)、さらに、X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎は800人(有病率は人口10万人あたり0.6人:0.0006%)と推定されました。過去の数値と比較をすると著明に有病率が低下していますが、これら2つの調査方法が異なるため、頻度については、今後も継続した調査が必要であると考えられています。
一方、海外では脊椎関節炎の有病率は東南アジアが0.22%と最も低く、北極圏では1.61%と最も高く、世界的に見て地域差があると報告されています。強直性脊椎炎も同様に地域差があり、サハラ砂漠以南のアフリカでは強直性脊椎炎有病率は0.02%と最も低く、東南アジアでは0.07%、北アメリカでは0.20%、ヨーロッパでは0.25%、北極圏では0.35%と最も高いと報告されています。同じ東アジア地域でも、中国は0.25%、フィリピン0.03%、マレーシア0.24%と報告され、これら海外の数値と比較をすると、日本が最も患者数が少ないといえます。
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なぜ発病するのですか?
いまだはっきりした原因が特定されていないのが現状ですが、これまでの海外の疫学調査から、強直性脊椎炎の発病には、白血球にある抗原のHLA-B27(p.18参照)が関連しているといわれています。しかし、HLA-B27を保有している人のすべてが発病するわけではなく、発病する可能性があるのはHLA-B27を保有している人の10%以下であると報告されています。一方で、一般の人口におけるHLA-B27の保有率は米国では6.1%、中国では1.8%であるのに対して、日本では0.3%と低く、このことは海外との強直性脊椎炎の有病率の違いを反映していると考えられます。
この他、腱や靱帯の付着部に強い衝撃がかかるとそこに炎症が生じ、HLA-B27を保有しているとさまざまな免疫異常が引き起こされ、関節に変化を引き起こすサイトカイン(p.85参照)が産生されることがわかっています。またHLA-B27を保有していると腸内細菌
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遺伝する病気ですか?
この病気はいわゆる遺伝病ではありません。1970年代から強直性脊椎炎はHLA-B27を保有している人に起こりやすいことが知られています。親がHLA-B27を保有していた場合、HLA-B27を子が引き継ぐ可能性はありますが、そのうち5〜10%程度しか発病する可能性はありません。つまり、残りの90%以上の人は発病しません。このことから、親が強直性脊椎炎であっても、早期発見のためにお子さんへのHLA-B27の検査をする必要はないといえます。
2018年の疫学調査では、両親、子ども、兄弟・姉妹に強直性脊椎炎がある(家族歴がある)強直性脊椎炎の患者さんは全体の約5%でした。さらに、家族歴がある患者さんのうち、約50%はHLA-B27を保有していましたが、家族歴がない場合でも、約40%はHLA-B27を保有していました。また、この疫学調査からは、HLA-B27保有者の1%程度が強直性脊椎炎を発病すると考えられました。しかし、日本ではHLA-B27の検査そのものをしていない人も多く、症状や画像検査の結果で診断をされている場合もあり、今後も継続した調査が必要と考えられます。また、この調査では、強直性脊椎炎は男性に多く、男女比は3:1でした。
一方、海外の報告では、強直性脊椎炎を疑われる人のうち約3分の1に家族歴があり、特に一卵性双生児の場合には、双方がHLA-B27を保有している確率が高くなり、結果的に強直性脊椎炎を発病する確率も高くなるといわれています。