実例から学ぶ!臨床研究は「できない」が「できる!」に変わる本

実例から学ぶ!臨床研究は「できない」が「できる!」に変わる本

  • 片岡裕貴,青木拓也/編
  • 2021年12月27日発行
  • A5判
  • 239ページ
  • ISBN 978-4-7581-2383-9
  • 3,960(本体3,600円+税)
  • 在庫:あり
本書を一部お読みいただけます
※本Webサイト上では一部図表を割愛しています

総 論

臨床研究者になるための6つの要件
〜臨床研究をやりたい皆さんへのメッセージ

福原俊一1),片岡裕貴2)
(京都大学 名誉教授 /Johns Hopkins大学 客員教授 /福島県立医科大学副学長1),京都民医連 あすかい病院 内科2)

表1 独立した臨床研究者になるための6つの要件

なぜあなたの論文は国際誌にアクセプトされないのでしょうか? それ以前の話として,「臨床研究をやってみたが上手くいかない」,「臨床研究をどうやっていいかがわからない」,という方もおられるでしょう.本稿では,そのような最も基本的な,しかし切実なご質問に答えたいと思います.

さて,筆者は,「独立した臨床研究者になるための6つの要件」を,これまで多くの方々に伝えてきました. 表1にその6つの要件を示します.そしてその1つ1つについて解説をしていきます.

系統的な学習 〜単語,文法そしてデザイン

いくらあなたがバートランド ラッセル卿の珠玉のエッセイを英語で読んでみたいと思っても,英単語や英文法がわからなければ読むことができません.それと同じように,臨床研究を実施できるようになるには,臨床研究の単語と文法にあたる「お作法」を学ぶ必要があります.筆者の経験では最低でも約400時間の講義や実習を受ける必要があり,フルタイム仕事を休んでそれに専念して1年間,働きながら学ぶとすれば,3年間に相当します.

では,臨床研究の単語と文法とは何でしょうか? それは一言では言えません.公衆衛生学をマスターするのに必要な,疫学,統計学,予防医学,環境衛生学,倫理学などと共通している部分も多いのですが,異なっている部分もあります.最も異なっている部分は,研究が「医療の現場にいて,医療に携わっている専門家」,すなわち医療者による研究だということです.研究のタネとなるクリニカル・クエスチョンはまさにあなたが毎日患者と触れ合っている現場から生まれてきます.医療者以外の人がこのようなクリニカル・クエスチョンを生み出すことはできません.これこそが臨床研究の原点だということができます.

図1 臨床研究の道標-7つのステップで学ぶ研究デザイン第2版 上巻・下巻

系統的な学習プログラムの最初にぜひ学んでいただきたいのが「研究デザイン」です.これは,これまでの伝統的な公衆衛生学,疫学や統計学の教育で教えられてこなかった重要な要素である,と筆者は着目し,重要性を訴えましたが,当初は全く顧みられませんでした.これを書籍にしましたところ1),おかげ様で徐々にご賛同をいただけるようになりました(図1).また個々のクリニカル・クエスチョンが本当に意味があるのかを確認するために「先人に学ぶ」必要があります.そのためには,そのクエスチョンに関して,世界でこれまでどのような研究が行われていて,どのようなことがわかっていて,どのようなことがわかっていないか,を徹底的に調べる必要があります.その科学的な手法の1つが「系統的レビュー」です.さらに「メタアナリシス」という手法を用いて,研究にすることも可能です.

臨床医が特に知りたいクリニカル・クエスチョンの1つに,「診断法を評価する研究」があります.いつも行っている病歴,身体診察,検査などが,本当に患者の病気の診断,さらには患者のアウトカムに有用かを調べる研究です.近年この研究は「Prediction rule」という研究領域として発展し,多くの若手臨床医がこの研究に取り組み,世界に研究を発信しています2,3)

表2 系統的学習の選択肢(例)

また,超高齢社会を迎え,人々の望むアウトカムが単なる「延命」だけでなく,「生きている内容の質(クオリティ・オブ・ライフ)」も同等に,あるいはそれ以上に重視されるようになりました.クオリティ・オブ・ライフのような指標は,患者報告型アウトカムpatient reported outcomes:PRO)とも呼ばれており,このような主観的なアウトカムを測定するサイエンスである「計量心理学」を学べば,研究の幅が広がるでしょう.さらに,医療費に限界があることの認知が広まり,「医療経済評価」研究も近年注目されるようになりました.さらに量的な研究だけでなく,「質的な研究」や「ミックスドメソッド(質的研究と量的研究を混合させた方法)」もさかんに行われるようになりました.このように臨床医が現場の疑問から発するクリニカル・クエスチョンをもとに,臨床研究を世界水準で行うためには,従来の伝統的な公衆衛生の学習だけでは不十分であって,臨床研究のニーズに特化したカリキュラムで学ぶ必要があることをご理解いただけましたか? 筆者の所属する京都大学では,2005年よりこのようなカリキュラムを1年間の集中的なプログラム(MCRプログラム)で提供し,多くの卒業生を輩出してきました(図24).また,働きながら学びたい臨床医のために,遠隔学習プログラムを受けることも可能になり5),さらに国際的な学位(MPH)をオンライン学習で取得できるプログラムも日本での受講が可能になりました(表26)

実践的な演習 〜研究の「卒後臨床研修」

皆さんが良医になるために医学部での座学だけでは不十分であり,クリニカルクラークシップ,そして卒後臨床研修が必須であるのと同じように,臨床研究を独力でできるようになるためには,自らのクエスチョンに答えるための研究を計画し,実践し,解析し,論文化するという一連のプロセスを実際に経験する必要があります.これは系統的学習のように,必ずしも効率的に実施できるとは限りません.筆者の経験では,だいたい3年から4年かかります.…

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文献

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実例から学ぶ!臨床研究は「できない」が「できる!」に変わる本

実例から学ぶ!臨床研究は「できない」が「できる!」に変わる本

  • 片岡裕貴,青木拓也/編
  • 3,960(本体3,600円+税)
  • 在庫:あり