ER実践ハンドブック改訂版〜現場で活きる初期対応の手順と判断の指針

ER実践ハンドブック改訂版

現場で活きる初期対応の手順と判断の指針

  • 樫山鉄矢,坂本 壮/編
  • 2022年02月21日発行
  • A5判
  • 672ページ
  • ISBN 978-4-7581-2384-6
  • 6,820(本体6,200円+税)
  • 在庫:あり
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第1章 主要症候へのアプローチ

01 ショック

樫山鉄矢
(東京都立多摩総合医療センター院長・救命救急センター)

  • ショックは早期認識が重要! 血圧より臨床所見(5P)で判断し,一刻も早く処置を開始しよう!

Introduction

  • ショックは,循環(C)の異常によって臓器への酸素供給が不足する緊急事態である.組織における酸素欠乏は,嫌気代謝を誘導し,乳酸が産生される.この状態が続くと,不可逆的な細胞傷害に至り,やがて細胞死をきたすことになる.治療の目標は,酸素供給を改善し,臓器の障害と生命の危機を回避することである.
  • ショックの初期には,生体の代償によって,血圧は保たれることが多い.しかしカテコラミンの作用で頻脈となり,皮膚の血管が収縮して,白く冷たくなるとともに“冷汗”をきたす.
  • ただし敗血症性ショックなどの体液分布異常の場合,早期には皮膚が温かいことがある(warm shock).
  • 脳はショックの影響を受けやすい.意識変容や不穏は重要なショックのサインと認識しなければならない.
  • 血液検査では,早期から乳酸アシドーシスを認めることが多い.
  • これらの所見に注意して,ショックをより早期に認識し,治療を開始することが重要である.

ショックの分類

  • ①循環血液量減少性ショック,②心原性ショック,③閉塞性ショック,④体液分布異常によるショックの4つに分類される(表1).
  • ①循環血液量減少性ショックの原因は,主として出血と脱水である.
  • ②心原性ショックの原因には,不整脈と,心収縮力の低下がある.
  • ③閉塞性ショックの原因は,緊張性気胸,心タンポナーデ,および肺血栓塞栓症である.前二者は,特に迅速な介入を要する.
  • ④体液分布異常性ショックには,敗血症性ショック,アナフィラキシーショック,神経原性ショックなどが含まれる.皮膚が温かい(warm shock)など,他のショックと異なった病像を呈することに留意する.

初期対応(はじめの10分)図1

  • ⓿5Pからショックを認知する
  • ❶人を集める.モニター,酸素,太めのライン確保,患者の保温,血液ガス分析と血液型を含む検査の提出,ポータブルX線の手配.
  • 気道と呼吸状態を評価し,必要なら処置.
  • 聴診上,明らかな肺水腫がなければ,1~2 Lの急速な輸液(ポンピング,インフューザ)を開始する.
  • 緊張性気胸とアナフィラキシーショックは,ほとんど病歴と症状,所見で診断できる.気胸なら脱気,アナフィラキシーならアドレナリン投与を行う
  • ❺エコー(RUSH/FOCUS)を行い,心嚢液貯留,胸腔内出血,腹腔内出血,IVC(下大静脈),心臓の動き,大血管などを大まかにチェックする.
  • 頸静脈やIVCが張っていれば,肺血栓塞栓症か心不全,あるいは緊張性気胸か心タンポナーデである.ショックになるほどの心不全やタンポナーデは,エコーでわかる.多くの肺血栓塞栓症もエコーで疑うことができる.
  • 肺血栓塞栓症が疑われたら,輸液と酸素投与等にてできる限り状態を安定させ,造影CTを急ぐ.早めにヘパリン投与を開始する.ショックを伴う肺血栓塞栓症では,血栓溶解やECMOも早期に決断すべきである.
  • IVCが虚脱していれば,出血源と感染源を探す.
  • ❾出血源の検索には,順次,胃管,直腸診,エコー,内視鏡や造影CTを用いる.治療は,輸液・輸血・止血である.早めに赤血球濃厚液,新鮮凍結血漿を確保し,輸液に反応が乏しければ,輸血を開始し,止血を急ぐ.ここ数年は,早めの凝固因子や血小板の補給が推奨されている.
  • ❿敗血症なら,ERからEarly Goal Directed Treatment(EGDT)に準じた治療を開始し,ICU入院とする.EGDTプロトコルに準拠すれば,はじめの6時間に,3~4 Lの輸液を要することが多い.フォーカスの検索には,胸部X線,エコー,尿沈渣,造影CTを用いる.血液培養を含む培養検体を採取し,少しでも早くエンピリックな抗菌薬を開始する.貧血があれば,Hb10 g/dLを目標に輸血を行う.EGDTの有用性に否定的な報告2)もあるが,あくまでも1つの標準として理解していただきたい.
  • 甲状腺機能異常や副腎不全が関与していることも多い.甲状腺ホルモン値検査も考える.十分な治療をしても改善しない場合には,積極的にステロイド投与を開始する.
  • 患者の保温と加温が非常に重要である.しばしば忘れられるので,十分に留意していただきたい.
  • 本項では,主として非外傷性のショックを念頭に記した.外傷でも基本は変わらないが,圧倒的に出血が多く,緊張性気胸や心タンポナーデ,神経原性ショックも少なくないことに注意が必要である.

Disposition・Follow up

  • ICU入院とし,中心静脈圧・動脈圧モニター,その他モニターを行う.近年は肺動脈カテーテルの評価が下がり,比較的非侵襲的なモニターが多用されている.
  • 平均血圧65 mmHg,時間尿量0.5 mL/kg/時,ScvO2>70%を目標とする.
  • 輸液に対する反応をくり返し評価し,適応があればカテコラミンを投与する.
  • 敗血症性ショックにおけるカテコラミンは,ノルアドレナリンが第一選択である.ノルアドレナリンが無効なら,バソプレシン(ピトレシン®)を考慮する.
    1. ①ノルアドレナリン(1 mg/mL/A)5 A+生食45 mL 2〜20 mL/時
    2. ②バソプレシン(20単位/mL/A)2 A+生食48 mL(50単位/50 mL)1〜5 mL/時(保険適応外,ノルアドレナリンと併用する)
  • 輸液やカテコラミンに反応が悪い場合,相対的副腎不全も考え,少量のステロイド(コルチゾール:ヒドロコルチゾン 1日200 mg,4分割ないし持続投与)を考慮する.
  • 血液ガス分析もくり返す.回復傾向であれば,乳酸値は低下傾向を示すはずである.

注意点・Pitfall

  • 血圧に頼ってショックの認識が遅れてはならない.若年者では正常な血圧も,動脈硬化の進んだ高齢者では異常な低血圧であり得る.
  • 十分な輸液を行わずに,昇圧薬を投与してはいけない
  • 相対的副腎不全を見逃さない.ショックにおける相対的副腎不全の頻度は20%以上との報告もある.

文献

神経原性ショック

神経原性ショックは,血液分布異常性ショック(distributive shock)の1つで,高位の脊髄損傷で起こる.原因は交感神経幹の損傷である.血圧低下のほか徐脈を伴い,四肢末梢の皮膚はむしろ温かいことも多い.輸液の効果は少なく,外傷性のショックにおいて,カテコラミンが使われる例外的な病態である.徐脈に対してはアトロピンが用いられる.血圧低下は通常24~48時間で回復する.

なお,脊髄ショック(spinal shock)は,横断性の脊髄損傷に伴う神経症状であり,弛緩性麻痺,感覚脱失,尿閉からなる.神経原性ショックとは異なる病態なので注意が必要である.(樫山鉄矢)

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