救急・当直必携!頼れる整形外傷ポケットマニュアル〜症例で学ぶ、初期診療の基本からコンサルトまで

救急・当直必携!頼れる整形外傷ポケットマニュアル

症例で学ぶ、初期診療の基本からコンサルトまで

  • 野田知之/編
  • 2022年04月20日発行
  • B6変型判
  • 279ページ
  • ISBN 978-4-7581-2390-7
  • 4,400(本体4,000円+税)
  • 在庫:あり
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6 下腿・足関節・足部

③ 足関節骨折

横尾 賢
(岡山医療センター整形外科)

症例
  • 55歳男性
  • 既往歴:高血圧,糖尿病
  • 現病歴:仕事中に右足関節を捻転し受傷した.痛みが強く歩行困難となり救急外来を受診した.
  • 所見と経過:右足関節に腫脹があり,同部位の疼痛と圧痛もあった.単純X線では脛骨遠位部骨折(後果骨折)があったため(図10)下腿シーネ固定を行い,後日整形外科外来受診を指示した.荷重制限については指示しておらず,帰宅後は患肢荷重を行っていた.6日後に整形外科外来を受診したが,右足関節骨折および腓骨近位部骨折の診断となり(図11),緊急で創外固定手術を行った.

解説

足関節骨折とは

  • 足関節は回旋による介達外力による損傷を受けやすく,靱帯断裂または距骨転位により骨折が発生する(図12).
  • 距腿関節の安定性は,骨形態と骨靱帯構造に依存している.
  • 足関節周囲は軟部組織損傷をきたしやすく,治療決定に重要な因子となる.
  • 腓骨と脛骨間にある骨間膜は非常に強靱な組織であるが,足関節を捻転することで損傷が近位に及ぶ場合がある(図13).非常に不安定性が高く,また足関節から離れている部位であるため見逃されやすい
  • 単純X線撮影で下腿と距骨の位置関係が正常であっても,一度脱臼している場合もあり,不安定性が強い可能性もあることを認識しておく必要がある.
1)身体所見
  • 足関節の腫脹,疼痛,変形が主な所見である.皮膚の変色がないかも観察しておく.
  • 痛みの部位を詳細に問診することも重要である.足関節を捻転している場合,下腿骨幹部や腓骨近位部なども圧痛がないか確かめておく
2)画像検査
  • 単純X線検査では患側4方向(正面・側面・両斜位)および健側2方向(正面・側面)撮影を行う.
  • 脛骨遠位部骨折があり腓骨遠位部骨折がない場合や,腓骨骨幹部に圧痛を伴う場合,患側下腿2方向(正面・側面)を追加し骨折の有無を確認する
  • 疼痛が強く骨折を疑うが,単純X線で明らかな骨折がない場合はCT撮影も考慮する.

治療方針

足関節骨折の治療

  • 足関節周囲は骨と靱帯組織による安定性が重要であり,骨折型により靱帯損傷を推測し治療方針について決定する.足関節周囲骨折は手術加療となることが多い.
  • 足関節脱臼骨折は,軟部組織損傷により一期的に手術ができないこともあるため,創外固定手術を行うこともある(図14A).軟部組織が落ち着いた後,内固定手術を行う(図14B).
症例のまとめ

診察時は脛骨遠位部骨折のみと診断し,転位も小さいため外固定のみ行い荷重制限を指示せず帰宅させてしまい,軟部組織の状態が悪化してしまった.本症例は腓骨近位部骨折を合併した不安定性が大きい骨折型であったため,軟部組織保護のため入院安静加療が望ましい症例である.

疼痛部位をしっかり確認し,骨折の見逃しがないかを注意深く観察することが重要である.また,足関節骨折は下腿骨幹部に損傷が及ぶこともあることを知っておく必要がある

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