あなたが当直中 ，病棟対応で印象に残っているのはどのような状況だろうか? 私の場合は血液内科で化学療法中の男性が震えているというcallである．当時，研修医だった私は発熱性好中球減少症に早急な対応が必要であることを知っていた．だが，患者さんを目の前にすると頭が真っ白になり何もできなかった．その時，私たちに求められるのは，知識だけではなく，目の前で起こっていることを適切に理解し，考え，判断する力なのだと強く感じた．その力を身につけるには，当直後に本書を使って振り返りを行うのが最適であろう．本書でえられるのは，ただの知識ではない．知識をもとに考え行動するための力である．

本書の特色を3つ紹介させていただく． 1つ目は考えながら動けるために生み出されたコール対応早見ガイドである．急変対応は考えながら動くことが求められるが，実際には経験と訓練が必要になる．コール対応早見ガイドをみれば一連の流れを頭に入れることができ，いつの間にか考えながら動くことができるようになるであろう．病棟へ行く前に一瞥して直行するのもよいが，対応後には振り返りに使うこともお勧めする．

2つ目は病態へのこだわりである．症候に対する鑑別疾患や対応は，覚えやすい mnemonicsとして随所に紹介されている．本書を読むことで何をすればよいかだけではなく，なぜそれを行うかもわかるようになる．つまり本書はただのHow to本ではないのだ．例えば，ショックの本質を酸素供給量の式を用いた解説を行い，病態を普段の臨床に応用できるようになっている．当直中はリソースも時間も限られており，診断が確定しないことも多い．疾患ではなく病態にアプローチすることで，どんな場面でも冷静に対応できるようになるであろう．

3つ目は振り返りの重要性である．研修医とチーフレジデントの会話は実際の話し声が聞こえてくるかのようなリアリティがあり，振り返りやフィードバックが苦手な医師はぜひ参考にしていただきたい．著者である 藤野医師は「心は熱く！頭は冷静に！」という本書に出てくるチーフレジデントそのものである．多くの研修医を育て，人としての成⻑を見守ってきた藤野医師だからこそ，振り返りの重要性を人一倍理解されているのであろう．

成功も失敗も経験したからこそえられるものであり，その経験を次に生かすことができるのが，振り返りの力である．ぜひ，本書を手にとり病棟対応の振り返りを行なってみてはどうだろうか．