医師1年目からの 100倍わかる! 胸部X線の読み方〜解剖の基本 ✕ 画像の見え方 ✕ 絶対に見逃せない頻出所見まで 臨床で本当に必要な知識を放射線診断専門医が厳選してまとめました

医師1年目からの 100倍わかる! 胸部X線の読み方

解剖の基本 ✕ 画像の見え方 ✕ 絶対に見逃せない頻出所見まで 臨床で本当に必要な知識を放射線診断専門医が厳選してまとめました

  • 田尻宏之,橋本 彩/著
  • 2024年10月25日発行
  • B5判
  • 376ページ
  • ISBN 978-4-7581-2407-2
  • 5,170(本体4,700円+税)
  • 在庫:あり
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総論

第5章 シルエットサイン

シルエットサインの定義

総論第2章「読影の基礎」で解説した,既存構造の辺縁により構成される「線」の応用がシルエットサインです.

シルエットサインは医師国家試験でも頻出の用語ですので,誰もが一度は聞いたことがあると思いますが,このサインがどんな意味をもつのかを正確に答えられる研修医はあまりいません.X線写真読影のために重要なサインですので,本章で詳しく解説したいと思います.

「シルエット」とはフランス語で影絵や輪郭を意味します.この言葉から示唆されるように,シルエットサインの定義は,心臓や横隔膜などの既存構造に,腫瘍や肺炎,無気肺,胸水など,X線透過性が近似する陰影が接することで,“正常のX線写真では見えるはずの既存構造の輪郭の「線」が消失する” ということです.「線」が消失すること(シルエットアウト)をシルエットサイン陽性,「線」が残る場合をシルエットサイン陰性と表現します.

「線」が消えるのにシルエットサインは陽性なんて,真逆な感じがして混乱するかもしれませんが,「画像所見が異常となる(本来見えるはずの構造が見えなくなる)=陽性」と捉えると理解しやすいのではないでしょうか.

  • シルエットサインとは,胸部X線写真で,心大血管や横隔膜などの既存構造に,X線透過性の近い病変が接する領域で「線」が消失すること
  • 「線」が消失する場合にシルエットサイン陽性という

シルエットサインの原理

まず,総論第2章「読影の基礎」でも学習した,X線写真で既存構造が構成する「線」が見えるための条件を再確認しましょう.

「線」が見えるための条件

① 対象となる構造に引いた接線とX線の入射角度が平行

② 対象となる構造と周囲構造とのコントラストが大

③ 対象となる構造と接線が接する範囲が5 mm以上

シルエットサインの原理,つまり既存構造の「線」の消失について考えるにあたり,ここでは「線」が見えるための条件②について深く掘り下げてみたいと思います.

まず図1A,Bを見てください.どちらも筆者の左手の写真で,水の入った容器に手を入れない状態(図1A)と,手を入れた状態(図1B)です.写真では手指の見え方にほとんど差はありません.

次にそれぞれのX線写真を撮影しました(図1A’,B’).2枚のX線写真には異なる点があります.図1A’では,指骨周囲の軟部陰影を示す淡い高濃度域や指の輪郭(つまり指の「線」)が同定できますが,図1B’では指骨は見えるものの,指骨周囲の軟部陰影や指の「線」が消失しています.またどちらも水に入っていない手首部分では骨周囲の軟部陰影が見えます.

なぜこのような違いが生じるのでしょうか?

それは,手の周りが空気なのか,水なのかによってコントラストに違いがあるからです(図2).

図2Aでは,手指の軟部組織(筋肉や脂肪など:胸部では縦隔や横隔膜などに相当)の周囲に空気(胸部では肺野に相当)が存在するため,両者のコントラストは大きいですが,図2Bでは手指の軟部組織の周囲にX線透過性が近似する水が存在するため,軟部組織とのコントラストが低下します.つまり条件②を満たさなくなるため,結果的に指の「線」が消失します.ちなみに指骨については,骨,軟部組織や水とのコントラストが大きいため,「線」は残存します.

このことから,X線写真は肉眼で見える色や形の情報ではなく,純粋にX線透過性だけを画像化しているということが理解できると思います.

  • X線写真は,純粋にX線透過性を反映した画像
  • 既存構造にX線透過性が近似する(コントラストが小さい)陰影が接すると,「線」は消失(シルエットサイン陽性)

胸部X線写真でみるシルエットサイン

原理がわかったところで,実際の症例と胸部X線写真を元にシルエットサインの解説をします.

1.シルエットサイン陽性

数日前からの咳,発熱を主訴に受診

まず胸部X線写真を撮影しました(図3A).左中下肺野の肺門部に,心臓左縁と重なる淡い肺野濃度上昇域を認めます(図3A右).これは2カ月前の胸部X線写真(図3B)ではみられなかった所見です.図3Bでは確認できる心臓左縁(いわゆる左第3〜4弓)の「線」が図3Aでは消失しており,心臓左縁に対するシルエットサインは陽性と判断できます.

これらの胸部X線写真から,左舌区(おそらくS5)領域主体に,心臓左縁に接する何らかの病変が存在することがわかります.質的診断は困難ですが,2カ月前にはみられない陰影ですので,原発性肺癌をはじめとする悪性腫瘍としては増大速度が速すぎます.そのため,まずは急性期肺炎を考えます.

詳細評価のため,胸部単純CTを施行しました(図4).CTでは心臓左縁に接する浸潤影(軟部組織陰影)を認め,胸部X線写真で推定した通りの所見です.CVポートが挿入されているように抗癌剤治療中であり,その後の精査で真菌感染症(日和見感染症)と診断しました.

2.シルエットサイン陰性

1カ月前からの咳,数日前からの血痰を主訴に受診

まず胸部X線写真を撮影しました(図5A).右肺門部に心臓と重なる腫瘤影を認めます(図5A右).3年前に施行された胸部X線写真(図5B)では,該当する病変はありません.

腫瘤影と重なる領域における心臓右縁(右第2弓)の「線」は明瞭であり (図5A右),心臓右縁に対するシルエットサインは陰性と判断します.X線写真上は重なって見えても,実際には心臓から離れた区域に存在している病変と推察されます.

次に胸部単純CTを施行しました(図6).右下葉S6の縦隔側に,胸椎に接する長径60 mm大の腫瘤性病変を認めます.右S6末梢には小葉間隔壁肥厚を伴う肺野濃度上昇がみられ,右中葉には小結節を伴います.原発性肺癌(癌性リンパ管症,閉塞性肺炎を合併),肺内転移と診断しました.胸部X線写真で推定したように,腫瘍は心臓右縁と接することなく,背側に位置することがわかります.

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  • 田尻宏之,橋本 彩/著
  • 5,170(本体4,700円+税)
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