基礎編 第1章 よく診る疾患,大事な疾患
4.副鼻腔炎
水野真介1),笠井正志2)
(兵庫県立こども病院 感染症内科1),兵庫県立こども病院 感染症内科2))
5歳6カ月男児,体重20 kg
特に既往歴はない.定期予防接種は年齢相当.薬剤アレルギーなし.来院前日から鼻汁,咳嗽,来院当日に発熱があったため救急外来を受診した.待合では母親と元気にお喋りしている.診察上,体温38.2℃,結膜充血なし,眼窩周囲の腫脹なし,口腔内粘膜疹なし,鼓膜所見正常,頸部リンパ節腫脹なし,肺胞呼吸音清,皮疹なし,項部硬直なし.
- ⓐ顔面・頭部の造影CT検査を行う
- ⓑアモキシシリン内服 1,800 mg/日 分2を処方する
- ⓒ入院のうえ,アンピシリン静注 1,000 mg/回 8時間ごとを開始する
- ⓓ自宅で経過観察とする
5歳6カ月男児,体重20 kg
3日後に外来を受診した.解熱はしているが,鼻閉と湿性咳嗽が遷延している.診察上,活気はあり,鼓膜所見正常,後鼻漏あり,肺胞呼吸音清,皮疹なし,項部硬直なし.副鼻腔エコー検査で両側の上顎洞に液体貯留所見が描出された.
- ⓐ顔面・頭部の造影CT検査を行う
- ⓑアモキシシリン内服 1,800 mg/日 分2を処方する
- ⓒ入院のうえ,アンピシリン静注 1,000 mg/回 6時間ごとを開始する
- ⓓ自宅で経過観察とする
1歳2カ月男児,体重10 kg
特に既往歴はない.定期予防接種は年齢相当.薬剤アレルギーなし.来院3日前から発熱と膿性鼻汁,来院当日に不機嫌,経口摂取低下があったため救急外来を受診した.診察上,体温39.6℃,ややぐったりしているが,飲水と少量の経口摂取は可能.結膜充血なし,眼窩周囲の腫脹なし,口腔内粘膜疹なし,後鼻漏あり,鼓膜所見正常,頸部リンパ節腫脹なし,肺胞呼吸音清,皮疹なし,項部硬直なし.
- ⓐ顔面・頭部の造影CT検査を行う
- ⓑアモキシシリン内服 900 mg/日 分2を処方し,外来フォローする
- ⓒ入院のうえ,セフォタキシム静注 500 mg/回 8時間ごとを開始する
- ⓓ自宅で経過観察とする
1歳2カ月男児,体重10 kg
3日後に外来を受診した.高熱が遷延し,右優位に両側眼窩周囲が腫れており開眼が困難.診察上,活気不良でしきりに目をこすっている,両側の眼球および眼瞼結膜の充血があり,外側への眼球突出あり.
- ⓐアレルギー性疾患を疑い,抗ヒスタミン薬を処方する
- ⓑセフジトレン ピボキシル内服 90 mg/日 分3を処方する
- ⓒアレルギー性疾患を疑い,プレドニゾロン静注 10 mg/回を開始する
- ⓓ顔面・頭部の造影CT検査を行い,必要であれば外科的なドレナージを施行する
12歳男児,体重40 kg
特に既往歴はない.定期予防接種は家庭の方針で行っていない.薬剤アレルギーなし.来院10日前から微熱と膿性鼻汁,湿性咳嗽,来院3日前に近医受診し,セフジトレン ピボキシルが3日間分処方された.その後,いったん症状が改善していたが,来院前日に発熱,前頭部痛,嘔気が出現し,来院当日にかけて増悪傾向となったため救急外来を受診した.診察上,体温39.2℃,頻脈と血圧低下,頻呼吸を認める.辻褄の合わない発語があり,左上眼瞼から前頭部にかけて発赤と腫脹,圧痛を認める.
- ⓐ熱せん妄を疑い,アセトアミノフェン内服 400 mg/回,屯用のうえ,救急外来で経過観察する
- ⓑ丹毒を疑い,セファゾリン静注 2 g/回投与を開始する
- ⓒ循環動態を安定化させつつ,血液培養を採取する
- ⓓ脳炎・脳症を疑い頭部MRIを施行する
12歳男児,体重40 kg
救急外来で処置中にけいれん発作を起こした.抗けいれん薬の投与で,5分ほどでけいれんは止まった.頭部造影CT検査で左前頭洞の副鼻腔炎と前頭部硬膜下膿瘍を認めた.脳神経外科による開頭ドレナージ術と耳鼻咽喉科による経鼻内視鏡副鼻腔手術が施行された.術中の硬膜下膿瘍および副鼻腔排膿液検体をグラム染色で確認したところ,グラム陽性双球菌を認めた.
- ⓐアンピシリン・スルバクタム静注 3.0 g/回 6時間ごと
- ⓑセファゾリン静注 2.0 g/回 8時間ごと
- ⓒセフトリアキソン静注 2.0 g/回 12時間ごと+バンコマイシン点滴静注 1.2 gを1時間以上かけて初回投与後に目標血清値となるよう維持用量を調節
- ⓓクリンダマイシン点滴静注 600 mg/回 8時間ごと
解答
- 免疫不全のない,学童児の上気道炎症状であり,全身状態がよければ経過観察可能である1,2).急性上気道炎に対する抗菌薬治療の有効性は低く,消化器症状や薬疹,耐性菌の出現などの副作用が問題となる.
- 年少期では鼻腔と副鼻腔との交通がよい3).上気道炎症状が続く場合,画像上,副鼻腔に液体貯留所見を認める頻度は高く,必ずしも抗菌薬治療が必要な副鼻腔炎とは限らない.今回の症例では,初期評価で軽症であり,3日後の経過フォロー時点で臨床的改善を認めており,経過観察可能である1,2).
- 低年齢,初期評価で3日以上持続する高熱,膿性鼻汁,やや全身状態不良であり急性副鼻腔炎として治療を開始することは妥当である1,2).問題となる原因微生物は肺炎球菌やインフルエンザ桿菌,モラキセラであり,経口摂取が可能であれば高用量のアモキシシリンで大部分の患者は対応可能である1,2,4).
- 眼瞼腫脹に加えて,眼所見および強い全身症状を伴い,経過をみても篩骨洞の副鼻腔炎からの眼窩蜂窩織炎合併である.画像評価を行い,入院のうえ,第三世代セファロスポリンなどの広域抗菌薬投与に加えて,必要であれば眼窩除圧術や膿瘍のドレナージ術,副鼻腔の開放などを行う5).
- 症状が10日間以上持続し,二峰性に悪化している.呼吸および循環が不安定であり敗血症を疑う(基礎編 第1章17.敗血症参照).まずは輸液負荷と適切なタイミングでの循環作動薬の開始,必要であれば呼吸管理を含めた補助療法を行う.髄膜炎を含めた中枢神経感染症の合併が疑われるため,脳脊髄液検査も考慮する必要があるが,循環含め全身状態が悪く,血液培養採取が優先される.
- 前頭洞の副鼻腔炎からの硬膜下膿瘍合併である.原因微生物として肺炎球菌やインフルエンザ桿菌以外にもStreptococcus viridansグループや嫌気性細菌が多く,複数菌が関与する場合もある5).今回の症例では培養結果から肺炎球菌が原因菌として考えられ,ペニシリンおよび第三世代セファロスポリンの耐性を念頭に第三世代セファロスポリンにバンコマイシンを追加する.小児におけるデキサメタゾンの有効性については定まっていない.
解説
ポイント
【副鼻腔炎の鑑別と原因】
- 低年齢児,特に乳幼児期は副鼻腔の発達が未熟であり,鼻腔と副鼻腔との交通がよいため,臨床的に急性上気道炎(いわゆる感冒)と副鼻腔炎を区別することは難しい3).原因微生物も良質な検体採取が困難であり,これまでの報告も重症例や初期治療が失敗した患者に対して副鼻腔穿刺または副鼻腔内視鏡が施行された場合のデータに限られる1,2,4).これらの患者では肺炎球菌やインフルエンザ桿菌,モラキセラが原因微生物として多くみられる.しかし,多くの軽症から中等症患者ではウイルス感染またはアレルゲン曝露による炎症が原因である.
【副鼻腔炎の治療】
- 一般的に抗菌薬が適応となるのは,①症状が長期持続する場合,②症状がいったん改善後に二峰性に悪化する場合,③初期評価で重症な場合があげられる1,2).
- 治療の目的は症状改善や治癒促進,化膿性合併症の予防,慢性副鼻腔炎の予防である.確実な細菌性副鼻腔炎の診断であれば症状改善効果は比較的高いが,化膿性合併症の予防効果は乏しいことが報告されている.一般的に,治療開始3日後も臨床的効果がみられない場合に治療失敗と定義される1,2).化膿性合併症として眼窩蜂窩織炎や硬膜下膿瘍,脳膿瘍,海綿静脈洞血栓症などの重篤な疾患もあり,適切な経過観察と診断,外科的介入を含めた治療戦略について十分に理解しておく必要がある5).
副鼻腔炎症状の持続,再燃の見分け方6,7)
急性副鼻腔炎に関する各国のガイドラインにも,抗菌薬の適応として症状が遷延する場合と二峰性に増悪する場合の記載がある.しかし,そもそも小児の感冒は,成人と比較して罹患期間が長く,1週間以上持続しても自然経過の範囲内である.また,小児は成人と比較して頻繁に感冒を発症しており,治りかけに別のウイルスによる上気道炎を発症することも稀ではない.
抗菌薬適正使用の観点からも,可能な限り病歴と身体所見から細菌性によるものかを見分ける必要がある.細菌感染症の一般的な特徴として,適切な治療がなされなければ通常は悪化傾向(日にち単位,化膿性合併症がある場合は時間単位)をたどること,経過とともに感染部位が局在化(左右差のある顔面痛など)していくことがあげられる.これらの特徴があり,症状が持続または再増悪する場合は抗菌薬の適応としてよいと考える.
副鼻腔炎に対する薬物療法
- 1st Line
- アモキシシリン(サワシリン®,パセトシン®)内服 90 mg/kg/日 分2.投与期間は5~7日間
- 2nd Line(ペニシリンアレルギー)
- クリンダマイシン(ダラシン®)点滴静注10 mg/kg/回 8時間ごと.投与期間は10~14日間(インフルエンザ桿菌,モラキセラは耐性と理解したうえで使用)
- 2nd Line(治療失敗時*)
- クラブラン酸カリウム・アモキシシリン(クラバモックス,オーグメンチン)内服 90 mg/kg/日 分2.投与期間は10~14日間
*治療失敗の原因として耐性菌以外に,副鼻腔口の閉鎖や非感染性疾患によるものを評価し,副鼻腔穿刺または副鼻腔内視鏡による検体採取を考慮する.
引用文献
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- Chow AW, et al:IDSA clinical practice guideline for acute bacterial rhinosinusitis in children and adults. Clin Infect Dis, 54:e72-e112, 2012(PMID:22438350)
- Kristo A, et al:Paranasal sinus findings in children during respiratory infection evaluated with magnetic resonance imaging. Pediatrics, 111:e586-e589, 2003(PMID:12728114)
- Wald ER:Staphylococcus aureus:is it a pathogen of acute bacterial sinusitis in children and adults? Clin Infect Dis, 54:826-831, 2012(PMID:22198792)
- Pelletier J, et al:High risk and low prevalence diseases:Orbital cellulitis. Am J Emerg Med, 68:1-9, 2023(PMID:36893591)
- Hay AD, et al:The duration of acute cough in pre-school children presenting to primary care:a prospective cohort study. Fam Pract, 20:696-705, 2003(PMID:14701895)
- Libman H, et al:Should We Prescribe Antibiotics to This Patient With Persistent Upper Respiratory Symptoms?:Grand Rounds Discussion From Beth Israel Deaconess Medical Center. Ann Intern Med, 166:201-208, 2017(PMID:28166559)