まとめ抗菌薬 表とリストで一覧・比較できる、特徴と使い方

まとめ抗菌薬 表とリストで一覧・比較できる、特徴と使い方

  • 山口浩樹/著,佐藤弘明/編
  • 2024年02月29日発行
  • A5判
  • 302ページ
  • ISBN 978-4-7581-2413-3
  • 3,960(本体3,600円+税)
  • 在庫:あり
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第3章 抗菌薬の使い方まとめてみました

1 ペニシリン系

  1. 殺菌性で、有効性の高いβラクタム薬の一種。多くの細菌感染症の第一選択薬
  2. アンピシリン/スルバクタム(ABPC/SBT)、アモキシシリン/クラブラン酸(AMPC/CVA)、ピペラシリン/タゾバクタム(PIPC/TAZ)はペニシリナーゼ産生メチシリン感性黄色ブドウ球菌(MSSA)とバクテロイデスに抗菌活性を示す
  3. ピペラシリン(PIPC)とPIPC/TAZは抗緑膿菌活性を示す
  4. ペニシリンG(PCG)とアンピシリン(ABPC)、PIPCは髄膜炎に使用できる
  5. ABPCはリステリアと、感受性を有する腸球菌の第一選択薬
  6. スルバクタム(SBT)がアシネトバクターに感受性を示す

作用機序と耐性機序

ペニシリン系抗菌薬はβラクタム環を有するβラクタム薬の一種で、多くの細菌感染症の第一選択薬です。細菌の細胞壁を合成する酵素であるペニシリン結合タンパク(PBP)に結合し、細胞壁合成を阻害することで殺菌的作用を示します

ペニシリン系抗菌薬を加水分解できるβラクタマーゼであるペニシリナーゼを産生するメチシリン感性黄色ブドウ球菌(MSSA)や一部のインフルエンザ菌、モラキセラ、バクテロイデスはペニシリン系薬を分解します。このようなβラクタマーゼ産生菌はβラクタマーゼを阻害するスルバクタム(SBT)やクラブラン酸(CVA)、タゾバクタム(TAZ)が配合されたABPC/SBT、AMPC/CVA、PIPC/TAZといった合剤で治療します※1

※1:βラクタマーゼ阻害薬が配合されたことで、ABPCやAMPC単剤と異なり腸管内の偏性嫌気性菌に効いてしまいます。腸管内の常在菌である偏性嫌気性菌が減少することで、下痢やカンジダの定着が起こりえます。

メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)やメチシリン耐性ブドウ球菌(MRS)のように、PBPの構造が変化しβラクタム薬がPBPに結合できなくなると、細胞壁合成を阻害できずすべてのβラクタム薬は抗菌活性を失います。MRSAやMRSは主にバンコマイシンに代表される抗MRSA薬(3章参照)で治療します。

1ペニシリンG(PCG)

特徴

ペニシリンG(PCG)は抗菌スペクトルは狭いですが、抗菌活性※2は高く、第一に使い方を覚えるべき抗菌薬です。半減期が約30分と短く時間依存性※3の抗菌薬であり、1日4~6回の頻回投与または1日必要量を2~3分割して持続投与を行います。PCG 100万単位を重さに換算すると約0.6 gとなります。最大用量である2,400万単位=14.4 gと概算すると投与量をイメージしやすいと思います。

※2:抗菌薬による細菌増殖を抑制する効果を「抗菌活性」と呼びます。抗菌活性は以下の2つに分かれます。
・殺菌作用(bactericidal):細菌の細胞死を誘導する作用
・静菌作用(bacteriostatic):細菌の増殖や複製を抑制する作用
殺菌作用は最小殺菌濃度(MBC:minimum bactericidal concentration、18~24時間以内に99.9%以上の細菌を殺菌できる抗菌薬濃度)の大小で評価をしますが、煩雑さのため一般的に測定されません。
殺菌作用と静菌作用の違いで臨床効果に明らかな差はなく、原則使い分ける必要はありませんが、感染性心内膜炎や髄膜炎に限れば殺菌性の抗菌薬を推奨する専門家もいます。

〈Pai MP, et al:Pharmacokinetics and Pharmacodynamics of Antiinfective Agents. 「Mandell, Douglas, and Bennett’s Principles and Practice of Infectious Diseases, 9th ed」(Bennett JE, et al),
p243, Elsevier, 2019〉

※3:抗菌薬濃度がMIC(最小発育阻止濃度)を超えている時間が長いほど、高い有効性を示す抗菌薬(1章原則⑤参照)。頻回投与や持続投与を行う。

感受性を示す代表微生物は以下のとおりです。

  1. β溶血性レンサ鎖球菌やα溶血性レンサ球菌、その他のレンサ球菌
  2. 感受性のある肺炎球菌
  3. 感受性のある髄膜炎菌
  4. ペニシリナーゼを産生しないMSSA
  5. クロストリジウム属であるC. perfringensや破傷風菌(C. tetani
  6. 横隔膜より上の偏性嫌気性菌
  7. 梅毒やレプトスピラといったスピロヘータ

多くのMSSAはペニシリナーゼを産生しますが、一部ペニシリナーゼを産生しないMSSAが存在します。PCG zone edge test※4といった確認試験でペニシリナーゼの産生がなければMSSAをPCGで治療できます。

※4:MSSAのペニシリナーゼ産生能を評価する検査です。この検査が陰性であればペニシリナーゼ産生能のないMSSAとわかります。

肺炎球菌をPCGで治療する場合、髄膜炎と非髄膜炎で感受性の基準値であるブレイクポイント※5が変わります。非髄膜炎の場合、MIC 2μg/mL以下でPCG感受性と判定されるため、ペニシリン耐性の肺炎球菌は極めて稀です。一方髄膜炎の場合、MIC 0.06μg/mL以下でPCG感受性と判定され、0.12μg/mL以上は耐性※6と判定されるため、PCG耐性とされる肺炎球菌(PRSP)が多いです。

そのため、例えば肺炎球菌による肺炎であれば初期治療でPCGを選択できますが、髄膜炎であれば肺炎球菌の感受性がわかるまでPCGを初期治療薬として選択できない点は注意しましょう。

※5:抗菌薬の感性と耐性を分ける基準値のことをブレイクポイントと呼びます。主にアメリカ臨床検査標準委員会(CLSI:clinical & Laboratory Standards Institute)で抗菌薬ごとに設定されたものを用いることが多いです。
使用する抗菌薬に対するMICが感性(S:susceptible)の基準値=ブレイクポイント以下であれば、感受性ありと判定できます。
逆に使用する抗菌薬に対するMICが中間耐性(I:intermediate)や耐性(R:resistant)のブレイクポイント以上であれば、その抗菌薬に対する感受性はなく臨床的に使用できません。MICが中間耐性の濃度であっても、抗菌薬の種類によっては投与量を増やし投与時間を延長すれば臨床的に使用可能な場合もあります。
※6:抗菌薬は0.06、0.12、0.25、0.5、1、2、4、8、16、32、64、128μg/mLの濃度で測定されます。なので、0.06μg/mL以下でなかった場合は0.12μg/mL以上となります。

特徴的な副作用や薬物相互作用

高K血症と血管痛:PCG100万単位中カリウムが1.53 mEq含まれるため末梢点滴から投与する場合、カリウム濃度と投与速度に注意が必要です。また高用量を投与すると血管痛や静脈炎が生じやすいため、溶解液量を増やす(例えば通常1回投与あたり100 mLの溶解液を250 mLに増量する、または500 mLに溶かし持続投与にする)、長時間(例えば2時間以上)かけて投与するとよいでしょう。

Jarisch-Herxheimer反応:梅毒などスピロヘータをPCGで治療すると、放出された菌体成分に反応しサイトカインが産生されます。産生されたサイトカインによって、発熱や悪寒、頭痛といった症状が出現し約1日続くため、例えば梅毒をPCGで治療する場合、このような反応が起こりうることを認識しておき、投与前に説明しておくとよいと思います。症状が強ければNSAIDsやプレドニゾロン投与を行う場合もあります1)

文献

  • Wilson APR:Sparing carbapenem usage. J Antimicrob Chemother, 72:2410-2417, 2017
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