書 評
青木洋介
(佐賀大学医学部附属病院感染制御部 部長)
本書「まとめ抗菌薬」は、樹木に例えるならば、枝葉のように時節に応じて入れ替わる最新の知識ではなく、長期にわたり全体を支え続ける根と幹に相当する「一般感染症診療のエッセンス」が、わかりやすく記載されたテキストである。例えば薬剤の種類が最も多いβラクタム系薬剤の各項では同一のスペクトル表が繰り返し使用されており、各薬剤の抗菌スペクトルの理解に留まらず、各薬剤間でスペクトルの広さが比較しやすく、学習者の理解を助ける構成になっている。アミノグリコシド、キノロン、マクロライド、テトラサイクリンの各系でも、それぞれプロトタイプとなる薬剤が取り上げられ、これに加え、抗嫌気性菌薬、ST合剤、抗MRSA薬、および抗真菌薬についてもエッセンシャルな各論を学ぶことができる。
巻末には頻度の高い感染症の診療アプローチが要所を漏らすことなく丁寧に記載されており、若手医師のみならず、専門科診療から一般診療へのリカレントを目指すベテラン医にも役立つテキストである。装丁は比較的シンプルながら、本書を開くと、正しく樹木そのもの、フォレストグリーンを基調とする見出しがアクセントとなり、目にも優しい。
2012年の春、長崎市で開催された日本感染症学会総会のシンポジウムで「感染症専門医のロールモデル」について述べた私の考えが、島根大学医学部を卒業後、地元鹿児島での初期臨床研修を終え、いずれ感染症診療に従事したいと考えていた当時の山口医師の波長とマッチしたらしい。学会後しばらくして、当部門への見学願いをいただいたことが彼と私の縁の始まりとなった。その後、鹿児島から佐賀まで月に1回のcase conferenceに日帰りで出席すること数回、翌2013年の春から2年間をご家族と共に佐賀で過ごしていただいた。
山口先生は、とにかく勉強熱心。新しく学んだことを素直に喜び、時に驚き、あるいは健全に疑うことができる。その学習プロセスを研修医とも密に共有するので、すぐに後輩医師の間で人気者となった。現在、X(旧Twitter)で18,000人にフォローされる新米IDによる「まとめ抗菌薬」は、このような山口医師の自他に対する真摯な教育活動の所産に他ならない。
鹿児島の新米ID・山口浩樹医師には臨床医として更なる研鑽をお積みいただき、後日再び、われわれにそのエッセンスを還元してくれる良書の誕生を願いながら、本テキスト刊行の祝辞とさせていただきたい。