第7章 膀胱の歩き方
- 膀胱全体の形態を確認し,尿管開口部や頂部にも目を配ろう
- Check Points:壁肥厚/隆起性病変,サイズ,内容物,尿膜管遺残の有無
膀胱の解剖
膀胱は腹腔外臓器で,骨盤腔内の恥骨結合背側に位置する.頭側から頂部,体部,底部,頸部に分かれる.体部前壁は腹膜に覆われず,恥骨との間にRetzius腔という脂肪と静脈叢を含む組織がある(図1A).底部には膀胱三角部があり,両側尿管口と内尿道口を結ぶ二等辺三角形を指す(図1B).男性では前立腺が尿道をとり囲むように存在し,膀胱背側には精嚢と直腸がある.女性では子宮と直腸が位置する.
膀胱の目線map
目の動かし方を以下に示す.
① 膀胱全体の壁および内腔にくまなく目を通す.
② 尿管開口部や膀胱頂部にも留意する.
また排尿後で膀胱内容が少ない場合は頭尾方向に薄く水平断像での評価では不十分なことがあり,その場合は矢状断・冠状断像も用いる.
壁肥厚/隆起性病変は?
サイズは?
内容物は?
尿膜管遺残はないか?
壁肥厚/隆起性病変
膀胱はその内容量によって伸縮し,拡張時は壁が薄く,虚脱時は均一に壁が厚くなる.したがって壁の評価は膀胱内容量を加味しなくてはならない.
びまん性
慢性膀胱炎
びまん性で比較的均一な壁肥厚は慢性膀胱炎をはじめとする炎症性疾患を疑う所見である.ただし炎症性疾患は画像では指摘できないことも多く,疑わしい場合は画像検査よりも尿所見を優先すべきである.
膀胱内容量がある程度認められるにもかかわらず,膀胱壁がびまん性に肥厚している場合は,まず慢性膀胱炎を考える(図3).原因としては,膀胱癌の治療に用いられるBCG注入療法や放射線照射などがあげられる.
局所(腫瘤)性
膀胱壁から内腔に突出する隆起性病変や局所性の壁肥厚を認める場合,膀胱癌を含めた悪性腫瘍を疑うが,増殖性膀胱炎や結核などの炎症性疾患や膀胱子宮内膜症なども鑑別にあがる.
膀胱病変の質的画像評価にはMRIが望ましい場合が多く,また診断は主に膀胱鏡やその際の生検で行われるため,CTで存在が疑われた場合はすみやかに泌尿器科へのコンサルトを勧める.
膀胱癌
膀胱癌は泌尿生殖器系で最多の悪性腫瘍である.膀胱三角部に好発し,喫煙,膀胱結石,膀胱憩室,慢性刺激などが危険因子となる.
膀胱壁から内腔に突出する隆起性病変を見たら膀胱癌を疑う.大きなものは単純CTでも指摘が可能で,造影では腎実質相(60〜80秒後)で強い造影増強効果を有し,小病変の検出に有用である(図4).深達度評価にはMRIが適している.
膀胱憩室
膀胱憩室は筋層から外方に粘膜が突出したもので,ほかよりも薄い壁を有する箇所として認識される.先天性と後天性があり,後天性の頻度が高い.後天性は尿閉などに伴って生じることが多く,肉柱形成や壁の肥厚を伴い,憩室は多発しやすい(図5).
サイズ
何らかの理由による排尿困難により膀胱内に尿が多量に貯留した状態を尿閉といい,著明に拡張した膀胱が認められる.原因として膀胱,尿道,前立腺,子宮病変などによる下部尿路閉塞のほかに,神経因性膀胱があげられる.
神経因性膀胱
脳,脊髄,末梢神経といった神経病変や心因性に起因する排尿障害を指す.排尿時に膀胱内圧上昇が起こり,慢性的な膀胱の変形や壁肥厚・肉柱形成を生じることがある.尿管に逆流すると水腎症をきたしうる.
膀胱造影では垂直方向に伸びた膀胱と肉柱形成による不整な輪郭を「クリスマスツリー様」,「松傘様」膀胱と表現する.CTでも同様の所見として頭尾方向の著明な拡大と膀胱壁の肉柱形成を認める(図6).
内容物
高吸収貯留物
膀胱結石
慢性膀胱炎,下部尿路閉塞,膀胱カテーテルなどの長期留置などが原因で膀胱結石を生じることがある.尿管結石が排石される過程で膀胱内の結石として確認できることもあるが,自然排泄されることが多い.結石は重力により膀胱背側に認められ(図7),腹側などに認めた場合は壁病変の石灰化などを疑う.
出血
膀胱内に出血を認めた場合,背側優位に貯留し,尿より高吸収な液体として認識できる.原因として,放射線障害やシクロホスファミド治療後にみられる出血性膀胱炎や(図8),腎外傷による尿管内への出血がある.
造影剤の膀胱内排泄
造影CTで用いられるヨード造影剤は血管内投与後,主に腎臓を介して尿中に排泄される.そのため,撮像タイミングによっては腎盂・尿管・膀胱に貯留している様子が観察される.膀胱内への貯留は投与後5~10分程度で認めることが多いが,腎機能や体格,造影剤の投与量などさまざまな因子により変動する.健常成人では投与後24時間以内にほぼ全てが膀胱から体外に排泄される.
撮影タイミングによっては尿管から膀胱内に向かって高吸収な線状構造を認めることがある(図9A).また,膀胱内に排泄された造影剤は尿に混入するが,重力方向に貯留し液面形成を認めることもある(図9B).いずれも膀胱内の高吸収域として認識でき,結石や出血などと間違えないためにも覚えておく必要がある.
ガス
気腫性膀胱炎
ガス産生菌による膀胱炎で,高齢者やコントロール不良な糖尿病患者など免疫能が低下した患者に多い.ガスは粘膜下に貯留するため膀胱壁内に沿ったガス像を認め(図10),膀胱内腔にガスが移行する場合もある.
医原性のガス貯留
膀胱留置カテーテル挿入・抜去後(図11)や導尿後,膀胱洗浄後などに,ガスが残存していることがよくある.
ただし,重度の感染や悪性腫瘍で結腸や膣と膀胱が瘻孔を形成する場合や,外傷などで膀胱内ガス貯留が生じることもあり,病歴の確認が重要である.