書 評
初学者にぜひ通読してもらいたい1冊
渡邉嘉之
(滋賀医科大学放射線医学講座 教授)
多くの教科書では,疾患ごとに所見や画像が記載されていますが,読影法を詳細に説明しているものは少ない.本書は腹部CTの読影法に焦点を当てた著作であり,研修医や学生の皆さんにぜひ読んでいただき,明日からの診療に実践していただきたい内容となっています.
インターネットが普及する前の海外旅行で「地球の歩き方」がガイドブックとしてよく利用されていました.このガイドブックでは,各地の見どころが主要な駅などから整理されており,短時間で効率よく観光するには欠かせないものでした.本書では,旅行ガイドブックに沿った形で専門医が行っている読影アプローチを解説しています.
腹部には多くの臓器が存在しており,それらを順番に確認しながら読影することが原則です.まずは本書の推奨に沿ってチェックポイントをクリアすることからはじめてください.慣れてくると,自分なりの効果的な視線の動かし方がわかるようになりますので,さまざまなベテランの先生方にアドバイスを求めるのも参考になります.
日常診療での腹部CTでは,観光とは異なり見逃しが許されません.観光ならば翌日や次回の訪問時に再び訪れるチャンスがありますが,特に救急疾患の場合は,翌日に気づいたのでは遅すぎることがあります.また,依頼医が特定の疾患を疑って検査を行う場合や経過観察でCTを施行するときは,注目している臓器に集中しがちで,他部位に異常があっても気づかないこともあり,注意が必要です.そのため,系統的な読影法で画像全体を観る習慣を身につけることが必須であり,本書は大いに参考になると思います.
本書に記載されているピットフォールや金言も,意味深いものであり,楽しんで読んでいただきたい.付録として造影剤やCT装置についても記述されており,これらは日常診療においても重要な内容ですので,興味をもって読んでいただければと思います.
本書を手にした皆さんが腹部CTの歩き方に興味をもち,画像診断の奥深さを感じていただけたら幸いです.