第1部 「関節炎」を鑑別しよう
3)各関節炎グループの鑑別
①関節炎の発症様式
関節炎の4つの発症様式
関節炎の患者が来院したら,まず「その関節炎が急に起こったのか,それとも慢性的に続いているのか」,「関節炎が1カ所だけなのか,それとも複数の関節が罹患しているのか」という2つのシンプルな問診を行います.それにより,関節炎を4つの発症様式(急性単関節炎/急性多関節炎/慢性単関節炎/慢性多関節炎)に分類することができます.
それでは,第1部-2で述べた7つの関節炎グループが4つの発症様式のどの区分に分類されやすいかを,順に考えていきましょう.
関節リウマチ(RA)
RAは,慢性多関節炎の発症様式をとる関節炎の代表例です.四肢末梢の小関節または大関節に多発性に起こり,しかも慢性に持続します.もちろん,発症早期には「急性多関節炎」として認識される場合もあるでしょう.しかし,発症してまだ数週間しか経っていない急性多関節炎の場合は,後述するようにウイルス性関節炎などの他の関節炎疾患を除外する必要があります.「慢性単関節炎」でRAと診断されることはほとんどありませんが,抗CCP抗体が陽性で,滑膜生検でもRAに特徴的な病理学的所見(滑膜増生とリンパ濾胞の発達など)を認めた場合などは,RAと診断されるときもあります.しかし,基本的には,RAの発症様式は慢性多関節炎です.
- RAは慢性多関節炎の代表例である.
変形性関節症(OA)
OAの発症様式は,慢性単関節炎または慢性多関節炎です.「慢性単関節炎」の例としては,例えば膝関節のOAを思い浮かべるとよいでしょう.「慢性多関節炎」の例は,例えば手指の複数のDIP関節が腫れるへバーデン結節,あるいは,複数のPIP関節が腫れるブシャール結節です(第1部-3-2 図3参照).OAが「急性関節炎」に分類されることはなく,OA患者のある関節が急に腫れて「急性単関節炎」をきたした場合には,後述する結晶性関節炎や細菌性関節炎など,他の関節炎疾患の合併を考慮する必要があります.
- OA は慢性単関節炎または慢性多関節炎をきたす.
脊椎関節炎(SpA)
SpAの発症様式は,慢性多発関節炎です.したがって,発症様式からはSpAとRAとは区別することができません.ただし,RAが典型的な多関節炎(poly-arthritis)を示すのに対して,SpAでは罹患関節数がそれに比べてやや少ないため,少関節炎(oligo-arthritis)と呼ばれることもあります.また,SpAでは,罹患関節が少ないために罹患関節が非対称性にみえることも多いです.そのため,RAでは対称性の多関節炎(symmetrical poly-arthritis)であるのに対し,SpAでは非対称性の少関節炎(asymmetrical oligo-arthritis)で発症するとの考え方もあります.すなわち,どちらも同じ「慢性多関節炎」ですが,RAとSpAとでは罹患関節の数や対称性が異なっているのです.
- SpAの方がRAよりも罹患関節数が少なく非対称である.
結合組織疾患(CTD)
CTD,すなわちRA以外の膠原病に伴う関節炎は,慢性多関節炎を呈します.もちろん発症早期は「急性多関節炎」にみえる場合がありますが,その場合はウイルス性関節炎など他の可能性を除外する必要があります.慢性多関節炎という発症様式からは,CTDとRA・SpAは区別することはできません.ただし,関節炎の性状においては,RAでは著明な関節腫脹を伴うのに対し,CTDでは関節圧痛はあってもRAよりは腫脹に乏しい,という特徴があります(第1部-3-2).また,関節炎の部位特徴からも,RAでは小関節も大関節も同様に罹患しますが,CTDでは手指の小関節に炎症が起きることが多いです.つまり,RAとCTDとでは,発症様式は同じでもその性状や分布が異なっているのです.
ご覧ください