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第4章 やや専門性の高い病気
9 骨粗鬆症
1骨粗鬆症の診断
1)スクリーニングの対象者
- 65歳以上の女性
- 65歳未満でステロイド治療を行う予定・行っている男女
- 転倒やふらつきのある男女
2)続発性骨粗鬆症の鑑別と検査
胸腰椎単純X線撮影,血算,生化学検査と一般検尿は実施することが望ましい.
3)骨粗鬆症の評価
3)-❶ 骨密度の測定
-
DXA※による骨密度の評価を行う.
腰椎(L1-L4,またはL2-L4)と大腿骨近位部の両者を測定し,日本では性別ごとの若年成人平均(YAM※:20〜44歳)と比較して何%かで表現する.Tスコア−2.5がYAM 70%に相当. - なお,骨密度を測定するときには,腰椎X線単純写真正側2方向で圧迫骨折がないか評価する.圧迫骨折があると骨密度が過大評価されるからである.
3)-❷ FRAX®※によるスクリーニング
- FRAX®はWHOによって開発された骨折リスク評価ツール.疫学的に同定された12個の骨折危険因子を評価することで,10年以内の大腿骨折近位部骨折と骨粗鬆症骨折のリスク(発症率)を予測する.
3)-❸ 治療対象者
- ①骨粗鬆症性骨折の既往がある人
- ②骨密度(DXA測定)がTスコア−2.5(YAM 70%)未満の人
- ③骨密度(DXA測定)がTスコア−1.0〜2.5で,FRAX®で10年以内の骨粗鬆症性骨折のリスクが15%以上の人
- ④ステロイド長期全身投与を行っている,または行う予定がある人
3)-❹ その他
2骨代謝マーカー測定
3骨粗鬆症治療薬の特徴と使い分け
- 骨粗鬆症の治療の目的は骨折の予防である.その目的達成のためには正しく診断し,骨折抑制効果の確かな薬物を適切に用いることが重要である.骨折抑制効果は短期間の治療で得られるものではない.特に,大腿骨近位部骨折の予防には,長期にわたる治療の継続が求められる.
- 骨折の一次予防(既存骨折なし)は,活性型ビタミンD3薬ないし選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)が第1選択薬,二次予防(既存骨折あり)はビスホスホネート薬(BP),デノスマブ(Dmab)が第1選択薬となる.さらに高齢で複数の骨折を有する重症骨粗鬆症例では,テリパラチド(TPT)あるいはロモソズマブ(Rmab)の選択が考えられる.
- ビスホスホネート薬治療開始前に,口腔内の管理状態を確認し,必要に応じて歯科検査を受け,侵襲的な歯科処置をできる限り済ませておくこと,治療開始後も口腔内を清潔に保ち,定期的な歯科検査を受けることが,薬剤関連顎骨壊死の予防に重要である.
《治療目標》
- ①治療期間に骨折発生がなく,かつ骨密度Tスコアが-2.5(YAM 70%)よりも高値
- ②目標達成後の休薬はBPのみ可能
- ③2〜3年おきに,骨密度・骨代謝マーカーで評価する
1)骨吸収抑制薬
1)-❶ 選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM※)
- SERMは子宮や乳腺においては,エストロゲンと拮抗する作用をもち,骨や脂質代謝に関してはエストロゲンと類似の作用を有する.
- 不動時の静脈血栓症のリスクを除くと,長期投与に伴う問題の報告は乏しい.
- 比較的若年で既存骨折がなく,低骨密度のみが診断根拠となるような患者の早期治療に適している.活性型ビタミンD3薬を併用する.
- SERMは,他の治療で良好な治療効果が保たれた場合の切り替え療法の選択肢となる.
- ビビアント®は,骨密度低下が軽度で椎体骨折抑制効果が確認されている.
1)-❷ ビスホスホネート薬(BP※)
- 経口薬は腸管からの吸収は悪いが,いったん吸収されると特異的に骨組織に取り込まれる.
- 治療開始前に歯科受診し抜歯,インプラントの治療を済ませておくこと.
- 顎骨壊死症は,感染症である骨髄炎が治療せずに腐骨が形成される現象で,口腔内を衛生的に保つことが重要.骨粗鬆症に用いられている用量では頻度は少ない.
- 椎体骨折抑制効果は投与開始後半年から1年くらいで認められる.大腿骨近位部骨折の抑制効果を得るには,少なくとも1年半の継続が必要.
- ビスホスホネート薬の作用機序は,性や年齢に依存しないと考えられる.男性においても効果が期待できると推測される.
- 食道・胃粘膜に対して刺激が強い薬で,逆流性食道炎や食道潰瘍を起こすことがある.BP製剤内服時には,コップ1杯(約180 mL)の水とともに服用し,飲んでからアレンドロン酸,リセドロン酸は30分間,イバンドロン酸は60分間は横にならないこと.頻回に服用せずに済む製剤(週1回服用,月1回服用あるいは点滴静注)を選択する.
- BP製剤の初期の数年間の使用以降は骨折予防効果がない可能性,3年以上の使用が非定型大腿骨骨折を増やす可能性(FDAの報告)を考慮すると,BP製剤の使用は3〜5年間にとどめることを勧める.
1)-❸ 抗RANKL抗体薬(デノスマブ:Dmab)
- 治療開始前に歯科受診を勧める.
- 骨折防止効果に一貫性あり,皮質骨の骨密度増加効果は従来の薬剤にない特性.
- 初回投与後は,早期に低カルシウム血症に陥っていないことを確認すること.
2)骨形成促進薬
●副甲状腺ホルモン薬(PTH※)
- 骨形成を促進することで骨折リスクを低下.
- 転移性骨腫瘍,原発性骨腫瘍,原発性副甲状腺機能亢進症ではないことを確認する.
- 治療後は高カルシウム血症,高尿酸血症,骨機能の悪化に注意する.
- 副甲状腺ホルモン薬(PTH)投与後に無治療で経過すると,急激に骨密度の低下を認める.投与期間はテリパラチド(TPT※)は2年,アバロパラチド(APT※)は3年に限られており,本薬投与終了後はビスホスホネート薬やデノスマブなど骨吸収抑制薬に切り替えて治療を継続することが推奨される.
- PTHは骨形成を含めて骨代謝を活性化することから,骨折治癒の促進効果が期待される.骨折後や骨折手術後に治療が開始されることが多い.
3)骨吸収抑制薬+骨形成促進薬(デュアル・エフェクト)
●ヒト抗スクレロスチン抗体(ロモソズマブ:Rmab)
- 骨折の危険性の高い骨粗鬆症に.
- 低カルシウム血症が発現しやすいため慎重投与.
4)併用療法
- 骨粗鬆症の治療の前提として,ビタミンDおよび,カルシウムが充足していることが必要条件である.
4)-❶ 活性型ビタミンD3薬
- カルシウム代謝改善効果に加え,BP製剤やSERMに匹敵する骨代謝改善効果をもつ.
- エルデカルシトール投与により,中等度の骨吸収マーカー抑制が認められ,カルシドールに比べて骨密度上昇効果と椎体骨折の抑制効果に優れる.
4)-❷ カルシウム薬(L-アスパラギン酸カルシウム)
- カルシウムは可能な限り食物から摂取するのが望ましい.乳類不耐症などで十分なカルシウム摂取が困難な場合はカルシウム薬の投与を検証する.
- 1回のカルシウム経口薬が500 mgを超えないように配慮する.
4)-❸ カルシウム/天然型ビタミンD3/マグネシウム配合剤
- RANKL阻害薬(デノスマブ)投与に伴う低カルシウム血症の治療および予防に使用可能.
- 嚙み砕くか,口中で溶かして服用するように指導する.
4)-❹ カルシトニン薬
- カルシトニンは破骨細胞に直接作用し,骨吸収活性を抑制する.骨密度増加効果は少ないが,セロトニン神経系を介した鎮静作用があり骨粗鬆症による疼痛に効果がある.
5)遂次療法
4主な副作用
文献
- 「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版」(骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン作成委員会/編),ライフサイエンス出版,2015
- 「骨粗鬆症 検診・保健指導マニュアル 第2版」(骨粗鬆症財団/企画,折茂 肇/監,細井孝之,曽根照喜/編),ライフサイエンス出版,2014
- 「日本内科学会雑誌 Vol.111 No.4 慢性疾患としての骨粗鬆症-内科的管理と多職種連携-」(鈴木敦詞/企画),日本内科学会,2022
- 「Gノート Vol.4 No.1 なんとなくDoしていませんか?骨粗鬆症マネジメント」(南郷栄秀,岡田 悟/編),羊土社,2017
- 倉林 工:骨代謝マーカーの適切な使い方.日本医師会雑誌,146:2013-2016,2018
- 井上大輔:骨代謝マーカー測定の意義と実践.週刊日本医事新報,4663:47-52,2013
- 「日本医師会雑誌 Vol.146 No.10 骨粗鬆症の診断と治療update」(田中 栄,横手幸太郎/企画,監),日本医師会,2018
- 「週刊日本医事新報 No.5055 骨粗鬆症治療薬の特徴と使いわけ」(萩野 浩/著),日本医事新報社,2021
- 「週刊日本医事新報 No.4719 進化する骨粗鬆症治療」(竹内靖博/監),日本医事新報社,2014