第3章 医療現場に活かす
4 診療にChatGPTを活かすには
はじめに
普段の診療でChatGPTを活かすには、ということをまとめています。鑑別診断や診療方針の相談を除き、実際の外来診療で生成AIを有効に使うためには、電子カルテのPC上で生成AIサービスが使えるようになっている必要があります。電子カルテベンダー含め、医療機関向けに生成AIサービスを提供している会社は増えてきており、現場での使用例は今後増えてくるものと考えられます。
1.会話からカルテを作成してもらう
マイクがあれば、診察室の会話を文字起こしして、カルテの記載形式(SOAPなど)に落とし込むことが可能です。マイクがあること、電子カルテと生成AIサービスが同じPCで使える必要があります。また、カルテ記載のために利用していいのかの患者の同意を取得することが必要です。
プロンプトを例示します(プロンプト6)。記載の仕方をさらに好みに合わせたい場合には、出力形式をいじっていただくことに加えて、「### 出力例」という項目を足して、実際に記載したカルテを複数例プロンプトに含めることが勧められます。
プロンプト
### 概要
あなたはカルテ記載補助を行う医療事務クラークです。診療のやりとりを元に出力形式に合わせてカルテの記載を行ってください
### 出力形式
【S】
[主な症状や、診察に至った経緯。時系列に沿って整理された現病歴。]
【O】
【身体所見】
【血液検査】
[血液検査結果]
【A&P】
[# 病名
治療方針
の形で記載する。病名が複数ある場合は#病名1 #病名2と分けて記載する。]
### 診療のやりとり
(ここに文字起こししたテキストを入力する)
2.鑑別診断をあげてもらう
GPT-3.5の時は正直あまり賢くなかったのですが、GPT-4になってからはとても賢く、症状や年齢などを入力し、「考えられる疾患は?」と入力するだけでも、一般的に考えられる疾患をかなり網羅的に返してくれます。症例報告をベースにした症例問題集においては、ChatGPT-4では、鑑別診断リストを生成してもらったところTOP10以内に正答が含まれていた割合は83%、TOP5以内で81%で、TOP(1位)にあがった鑑別リストが正答だった割合も60%であったとの報告もあります1)。
また、2024年9月に発表された「o1」モデルでは、複雑な状況で順序だてて考えることに優れており、入力可能な症例の情報が多い場合にはo1モデルを使うことが鑑別診断を考える上で役に立つのではと考えます。
またプロンプトの工夫としては「XXX科の専門家として答えてください」などと書くことも効果的です。特に難しい場合には、NEJMの診断困難症例で優秀な正解率を納めたプロンプトなども参考になります(プロンプト7)2)。
3.診療方針を考えてもらうことはできるのか
第3章-6「医療現場で使われている生成AIサービスの例」で紹介するGlass AIのように診療方針を考えることを目指した生成AIはすでに出てきています。
プロンプト
以下の症例に対して、鑑別疾患、追加で行うべき検査、治療などの方針について考えてください。
### 症例
ただ、生成AIの欠点として、細かい数字などの正確性に欠ける・最新の情報を学習しているわけではないなどの点があり、複雑でない症例のおおまかな方針の見直しに使う分には許容されると思いますが、複雑なケースや、正確な治療方針について当てにすることは2024年12月の段階ではできない印象です。
4.紹介状や退院サマリなどの書類を作成してもらう
電子カルテの経過記録を入力することで、紹介状や退院サマリのたたき台を作成してもらうことが可能です。
プロンプトを例示します(プロンプト8)。記載の仕方をさらに好みに合わせたい場合には、出力形式をいじっていただくことに加えて、「### 出力例」という項目を足して、実際に記載したカルテを複数例プロンプトに含めることが勧められます。なお、退院サマリのプロンプト例は第2章-4を参照してください。
プロンプト
### 前提
あなたは病院に勤務する優秀な医師です。
以下の作成要件・紹介状サンプル・紹介状例・診療記録をもとに、最高の診療情報提供書(紹介状)を作成して下さい。診療情報提供書(紹介状)とは、医師が他の医師、あるいは医療機関へ患者を紹介する場合に発行する書類です。
### 作成要件
・400字以内で作成してください
・紹介した理由が紹介先の医師に伝わるようにしてください。
・疾患名・診断名を認識して、「{疾患名}について継続加療をお願いいたします」と記載ください。
・書いてあること以外は記載しないようにしてください。
### 紹介状サンプル:""""""""""""
{ここに、一番出力形式としてふさわしい形の紹介状の例を入力}""""""""""""
### 紹介状例
{ここに、今まで作成したほかの紹介状の例を入力}
### 診療記録
{ここに、作成の元にしたい経過記録を入力}
まとめ
診断や診療方針について、現状のChatGPTの状況についてまとめてみました。診療に先立って論文やガイドラインを確認する、ということについては第3章-1「手持ちの資料検索を加速するNotebookLM」や、第5章をご参照ください。基本的には、GPT-4以降のモデルは優秀ですが、大きく精度が向上するプロンプトはそこまでみつかっていない、という印象です。カジュアルに聞いてみて、自身の考えに見落としがないか、確認するために使うとよいと考えます。
ご覧ください
文献
- Hirosawa T, et al:ChatGPT-Generated Differential Diagnosis Lists for Complex Case-Derived Clinical Vignettes: Diagnostic Accuracy Evaluation. JMIR Med Inform, 11:e48808, 2023(PMID:37812468)
- Kanjee Z, et al:Accuracy of a Generative Artificial Intelligence Model in a Complex Diagnostic Challenge. JAMA, 330:78-80, 2023(PMID:37318797)