第3章 状況ごとの診療のコツ,エキスパートが教えます!
2.どう鑑別する? Parkinson病とParkinson症候群
齊藤勇二
(東京都立神経病院 脳神経内科 医長,パーキンソン病・運動障害疾患センター長)
Point
- Parkinson病は患者数が急増している全身疾患である
- 病歴聴取と神経学的所見で障害部位を推理して,検査で確認する
- 運動症状と非運動症状は鑑別診断のキーワード集である
- 薬物療法だけでなく運動療法も積極的に勧める
はじめに
Parkinson病(Parkinson’s disease:PD)などの神経変性疾患は高齢化に伴い患者数が爆発的に増加している1).脳神経内科にすぐにコンサルテーションできる施設は限られており,一般内科診療でもPDの診療が求められている.神経症状以外にもさまざまな全身症状を呈し,Parkinson’s complexという包括的概念が提唱されている2).脳神経内科以外の診療科(内科以外も!)がPDの初療に携わることがあるため,初期研修の間に基本的な事項は身につけておくとよい.
症例
80歳代女性.
主 訴:両手のふるえ
現病歴:2年前から左手がふるえるようになり,1年前から右手もふるえるようになった.コロナ禍で運動量が減り,久しぶりに外出した際,歩くのが遅くなったことを自覚した.段差につまずいて転んだことがあった.心配になり内科を受診した.
既往歴:便秘,夜間頻尿で治療中
特記すべき薬剤歴・アレルギー歴:なし
家族歴:なし
一般身体所見:特記すべき異常なし.
神経学的所見:会話は可能.脳神経系では,上方視の軽度制限がある以外には異常はない.両手や顔に振戦を認め,四肢の筋トーヌスが左優位に亢進している.筋力低下はない.起立動作や歩行は緩慢である.姿勢保持障害はない.腱反射は正常で,病的反射は認めない.運動失調や感覚障害は認めない.
初診後経過:頭部CTでは異常は認めなかった.
1. PDか,Parkinson症候群か
Parkinson症候群とは,PDと同様のパーキンソニズムを呈するさまざまな疾患の総称である.
PDなどの神経変性疾患の鑑別では病歴聴取と神経学的所見が最も重要である.本症例は脳神経内科外来への紹介患者の典型例であるが,初診時カルテの記載だけではPDかParkinson症候群かの鑑別は難しい.しかし,PDとParkinson症候群では,起こりうる症状や進行速度,薬物治療への反応性に大きな違いがあるため,両者の鑑別は重要である.このカルテをもとに,ほんの少しだけ病歴・診察を加えることで鑑別診断に大きく近づくことができる(図1,2).また,PDと特に鑑別すべきParkinson症候群の背景疾患は,神経変性疾患では多系統萎縮症と進行性核上性麻痺,大脳皮質基底核変性症であり,症候性パーキンソニズムでは薬剤性パーキンソニズムや脳血管性パーキンソニズム,正常圧水頭症である(図3).
2. はじめに考えること
PDは古典的には振戦,筋強剛,運動緩慢をきたし,進行すると姿勢保持障害をきたす.パーキンソニズムは運動緩慢を必須項目とし,これに静止時振戦か筋強剛のどちらか1つまたは両方がみられるもの,と新しいPDの診断基準では定義されている3).姿勢保持障害は有名だが,PDでは初期にはみられず,この診断基準には含まれない.Parkinson症候群ではこれらに加え,小脳性運動失調,錐体路徴候,高度の自律神経障害(起立性低血圧や尿失禁),眼球運動障害を認めることが特徴である(表1).嚥下障害や姿勢保持障害,自律神経障害はPDでも認めるが,Parkinson症候群では比較的早期から認めることが特徴である.PDでは運動症状以外に非運動症状が好発し,診断のきっかけになることも多い4).
また,制吐剤や抗精神病薬などの薬剤,脳血管障害や正常圧水頭症などによる症候性パーキンソニズムは治療可能なパーキンソニズムとして鑑別が重要である.振戦だけで運動緩慢を欠く場合は正確にはパーキンソニズムとはしないが,その場合には本態性振戦や甲状腺機能亢進症を鑑別する.
ドパミン補充療法はPDでは著明な改善を示す一方,Parkinson症候群での治療効果は限定的であり,ドパミン補充療法を開始してもパーキンソニズムの改善が乏しい場合には診断を再考する.
3. 見逃してはいけない鑑別疾患
本症例の主訴は振戦である.鑑別すべき疾患としては,PD,Parkinson症候群(多系統萎縮症,進行性核上性麻痺,大脳皮質基底核症候群),症候性パーキンソニズム(正常圧水頭症,薬剤性パーキンソニズム,脳血管性パーキンソニズム),本態性振戦,甲状腺機能亢進症があげられる.
4. ここに注目! 病歴で聴くべきこと,行いたい神経診察
1PDの神経症候
脳神経内科での病歴(図1,2),神経診察(図4)をもとに解説する.振戦はリズミカルな不随意運動であり,PDでは静止時(安静時)に出現する振戦が特徴である(後述).運動緩慢は必須の症状であり,歩行などの大きな動作だけでなく,日常生活での洗髪や洗顔,米とぎなど,すばやい動作であらわれやすく,左右差も出やすいため丁寧に聴取する.転倒や嚥下障害はPDでは初期ではあまりみられないが,進行性核上性麻痺では発症早期から進行性にみられるため,頻度まで聴取する.
2PDの非運動症状
PDにみられる非運動症状のうち,便秘や嗅覚低下,抑うつなどはパーキンソニズムが出現する前から起こりうる4).また,レム睡眠行動異常症は睡眠中の体動や奇声を発する睡眠時随伴症であり,PDや多系統萎縮症などのαシヌクレインが蓄積する疾患であるαシヌクレイノパチーに高頻度にみられ,本人だけでなく家族にもその有無を確認する.高度の立ちくらみや失禁をきたすほどの排尿障害は初期のPDでは稀で,多系統萎縮症を考える.また薬剤歴のうち,精神科から処方される抗精神病薬による錐体外路症状は重要であるが,スルピリドやメトクロプラミドは消化器症状の緩和のために多くの診療科で頻用されるため注意する.
3パーキンソニズムの神経診察
神経診察ではパーキンソニズムの振戦,筋強剛,運動緩慢とその左右差を見出す.
1)左右差
PDではほぼ左右差を認めるが,大脳皮質基底核変性症を除いたParkinson症候群では左右差が少ないことが多い.
2)振戦
静止時振戦はPDに特徴的で,手指のそれは“pill-rolling tremor”と称される.また,随意運動中には静止時振戦は軽減・消失するのも特徴である.本態性振戦では姿勢時振戦がみられるが,PDでは一定の姿勢をしばらくとっていると振戦が増強するre-emergent tremorがみられ,鑑別の一助になる.顔を左右に振るno-no tremorは本態性振戦に,縦に振るyes-yes tremorはPDにみられることが多い.
3)筋強剛
筋強剛は他動的に関節を屈曲・伸展させて検出するが,診察するほかの四肢で随意運動をさせると筋強剛が増強されるため,軽微な筋強剛の検出に有用である.歯車様の筋強剛はPDに特徴的だが,鉛管様の筋強剛がみられることも多い.四肢に比べて頸部に強い筋強剛は進行性核上性麻痺の特徴である.
4)運動緩慢
運動緩慢は親指と人差し指をすばやくタッピングさせたり,つま先で地面をすばやくタッピングさせたりすると検出しやすい.
5)その他の神経症候
立位姿勢も重要で,早期から高度な側屈などの姿勢異常を伴う場合は多系統萎縮症を考える.歩行は小幅,すり足歩行が重要だが,初期から高度のすくみがある場合は進行性核上性麻痺を,開脚位で小幅歩行がみられる場合は正常圧水頭症や脳血管性パーキンソニズムを疑うとよい.姿勢保持障害は進行性核上性麻痺では早期から認めるものの,早期PDではみられない.病的反射などの明らかな錐体路徴候や運動失調はPDでは認めず,Parkinson症候群を考える.垂直方向の眼球運動制限は進行性核上性麻痺で有名だが,軽度の上方視制限は高齢者では一般にみられるため,他の神経所見と併せて病的意義を判断する.診察時に指示した動作がうまくできない場合は失行などの高次脳機能障害の存在を疑い,大脳皮質基底核症候群を考慮する.
5. 脳神経内科へのコンサルトのポイント
運動緩慢に加えて振戦や筋強剛を認めた場合や,これらの有無に迷う場合はコンサルトするとよい.特に,嗅覚低下や睡眠時の異常行動などの非運動症状が併発している場合や,多角的な評価が必要なParkinson症候群が疑われる場合は積極的にコンサルトするのがよい.
6. 次の一手! 行うべき検査
1)頭部MRI
PDでは特定の部位の萎縮や異常信号を認めない.つまり,頭部MRIはPD以外の疾患を除外するための検査である.被殻や脳幹,小脳の萎縮や異常信号を認めた場合や左右差の強い大脳萎縮を認めた場合はParkinson症候群を考える.その他,脳室拡大や多発性の脳虚血性変化の有無を見逃さないようにする(表1).
2)MIBG心筋シンチグラフィ(図5)
PDでは集積が低下するが,それ以外のParkinson症候群などでは集積が保たれるため鑑別診断にきわめて重要である5).
3)脳ドパミントランスポーターシンチグラフィ(DAT SPECT)(図6)
大脳基底核(線条体)のドパミントランスポ―ターの機能を可視化する6).PD以外のParkinson症候群でも低下するため両者の鑑別はできない.脳血管性パーキンソニズムや正常圧水頭症でも低下しうる点に注意.
4)脳血流SPECT
PDでは後頭葉の血流低下が特徴的とされるが,初期には認めない例も多く,費用対効果を考慮すると検査の優先順位は低い.
●処方例:
「パーキンソン病診療ガイドライン2018」では早期PDの治療としてレボドパ,ドパミンアゴニスト,MAOB(モノアミン酸化酵素)阻害薬の3種類が提案されている7).効果の発現・強さの点ではレボドパが使いやすく,高齢者や症状が重い,転倒リスクが高い,症状を改善させる必要度が高い等の場合はL-ドパを用いる.
レボドパ・カルビドパ配合剤またはレボドパ・ベンセラジド配合剤(各社あり)1回50 mg 1日2回,朝・昼または朝・夕食後から開始し,効果をみながら1回100 mg 1日3回まで増量する.効果が乏しく,それ以上の増量が必要な場合はコンサルトする.嘔気を伴うことがあり,ドンペリドンを一時的に併用するとよい.
ここがポイント
PDを疑う症状・検査結果
- ①緩徐進行性の経過
- ②左右差のあるパーキンソニズム(運動緩慢,静止時振戦,筋強剛)
- ③非運動症状の存在(便秘や嗅覚障害,レム睡眠行動異常症,排尿障害)
- ④Parkinson症候群でみられる症状や神経所見,画像所見を欠く
- ⑤MIBG心筋シンチグラフィ,DAT SPECTの異常な集積低下
7. 提示症例の経過
本症例はPD(Hoehn-Yahr分類2度=両側性のパーキンソニズムがあり,姿勢保持障害がない)が考えられた.高齢者であり,レボドパでの治療を開始した.レボドパ・カルビドパ配合剤1回100 mg 1日3回まで増量したところで振戦は消失した.筋強剛やすり足歩行も改善した.コロナ禍での運動量減少による廃用の併存も考えられ,介護保険制度によるリハビリテーションを導入したところ,意欲も出て一人で散歩できるようになり家族ともども喜んでいる.
Advanced Lecture
PD治療の要はドパミン欠乏という病態にもとづいたドパミン補充療法である.しかし,発症早期から患者本人の能力を最大限に引き出してくれるリハビリテーション治療も不可欠な治療法である.しかし,患者一人での運動療法は長続きしないことが多いため,筆者はできるだけ早い時期に介護保険サービスによるリハビリテーションを導入するように心がけている(初診時に申請を促すことも多い!).
おわりに
PDとパーキンソン症候群の鑑別には病歴聴取と診察が最重要と述べたが,忙しい外来ではそれがいかに難しいかは想像に難くない.本稿で提示したような内容をまとめた自身の「PD病歴聴取・診察セット」を電子カルテに用意しておくと便利である.画像検査はあくまでも補助的検査であり,結果のみを一人歩きさせないようにしてほしい.PDは治療可能な神経難病であり,患者さんに大変感謝されて医師冥利を感じることが多い.本稿がPD診療はもちろん,医師としてのやりがいを感じるきっかけになれば幸いである.
引用文献
- Dorsey ER & Bloem BR:The Parkinson Pandemic-A Call to Action. JAMA Neurol, 75:9-10, 2018(PMID:29131880)
↑今後ますますPD患者が増えていきます. - Langston JW:The Parkinson’s complex:parkinsonism is just the tip of the iceberg. Ann Neurol, 59:591-596, 2006(PMID:16566021)
↑PDは脳神経内科が初療を担当するとは限りません. - Postuma RB, et al:MDS clinical diagnostic criteria for Parkinson’s disease. Mov Disord, 30:1591-1601, 2015(PMID:26474316)
↑新しいPDの診断基準です. - Schapira AHV, et al:Non-motor features of Parkinson disease. Nat Rev Neurosci, 18:435-450, 2017(PMID:28592904)
↑運動症状以外の非運動症状が注目されています. - 織茂智之:MIBG心筋シンチグラフィの現状.神経内科, 82:173-181,2015
↑世界に誇れる日本発のエビデンスです. - 「イオフルパン診療ガイドライン第2版」(日本核医学会,日本脳神経核医学研究会/編), 2017
↑DAT SPECTの概説です. - 「パーキンソン病診療ガイドライン2018」(日本神経学会/監,「パーキンソン病診療ガイドライン」作成委員会/編),医学書院, 2018
↑最新の国内PDガイドラインです.
参考文献・もっと学びたい人へ
- 齊藤勇二:パーキンソン病の治療の最前線. The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine,56:180-184,2019
↑他種職向けのPD全般の概説です(オープンアクセスで誰でも読めます). - 「神経症候学を学ぶ人のために」(岩田 誠/著),医学書院, 1994.
- 「ベッドサイドの神経の診かた 改訂18版」(田崎義昭,他/著),南江堂, 2016
↑2,3)いずれも時代を超えた名著です.今でも愛読書です. - Fox SH, et al:International Parkinson and movement disorder society evidence-based medicine review:Update on treatments for the motor symptoms of Parkinson’s disease. Mov Disord, 33:1248-1266, 2018(PMID:29570866)
↑PDの運動症状に対する治療のエビデンスのレビューです. - Seppi K, et al:Update on treatments for nonmotor symptoms of Parkinson’s disease-an evidence-based medicine review. Mov Disord, 34:180-198, 2019(PMID:30653247)
↑PDの非運動症状に対する治療のエビデンスのレビューです.
著者プロフィール
齊藤勇二(Yuji Saitoh)
東京都立神経病院 脳神経内科 医長,パーキンソン病・運動障害疾患センター長
「明るく楽しく前向きに」をモットーに,Parkinson病関連疾患などの神経難病を中心に日夜診療しています.神経難病は慢性疾患であり,長く患者さんと接することができる醍醐味があります.神経細胞内というミクロの視点と,地域医療などのマクロの視点のもつNeurologistをめざす,という志をいつまでも持ち続けていたいです.