第3章 外来診療の質がグッとよくなるTips
1. 外来診療がうまくいく最適なコミュニケーションのTips
張 耀明
(新島村国民健康保険本村診療所)
Point
- 外来診療は診療前からはじまっている
- 患者さんの「真の受診理由」を探る
- 継続外来の強みを活かして,長期的目線で患者さんとかかわる
はじめに
外来診療は病棟とは違い,限られた時間や検査等で患者さんを診療する必要があり,工夫が必要です.本内容は主に定期外来を意識していますが,一期一会の救急外来や対人支援をされている方にも役立つ内容と思いますのでご参考までにお読みいただければと思います.
1. 外来診療をはじめる前に
「外来」は診療をはじめる前からはじまっている.
1外来当日までに意識すること
1)体調管理
外来診療に限らず,私達医療者自身の心身が健康であることがよい診療を行ううえで大切なことである.睡眠不足では診療の質が落ちてしまうため,外来前日の当直はなるべく外しておくことが大切である.また,HALT(Hungry:空腹,Angry:怒り,Late:遅延,Tired:疲労)の項目に当てはまるときは認知バイアス(思い込みなど,誤った認識による誤った行動)1)が起きやすいため注意が必要である.
2)外来予習
外来では予習が非常に重要である.私見では,予習で外来の6割は終わっていると考えてよい.予習では,前回の外来までに実施した検査結果が出ていれば確認し評価する.また,現在行っている診療について,エビデンスの確認をしたり,前回の外来で宿題としていた内容を確認する.外来に慣れてくれば,外来終了後に次回の外来の予習を行っておくと記憶が新しいため効率がよい.予習の際,カルテに外来診療で行うTo doリストを優先順位をつけて記載しておくとよいだろう(第3章-2参照).
ここがポイント
外来診療は予習が命!
2外来当日に意識すること
1)身だしなみのチェック
外来がはじまるまでに,身だしなみをチェックする.髪を整え,マスクを適切に着ける.医師の服装に関する患者の好みに関しては,白衣,スクラブ,カジュアルな服装のいずれが好まれるかは,患者さんの年齢や性別によるが2,3),いずれの服装でもしわがなく清潔にしておくことが大切である.自身の名札は胸の高い位置(第2〜3肋骨あたり)につけると,医師が前かがみになっても患者さんから名札が見えるのでよい.診察室に卓上ミラーを置いて,自身を客観的にチェックすることもおすすめである.
2)診察室の環境設定
外来がはじまる前に,患者さんが座る椅子に座ってみよう.空調は適切か,椅子の高さは適切か,モニター画面は患者さんから見えやすい位置か,医師の椅子との距離はどうかなどをチェックする.椅子の高さや背もたれがあった方がよいかは患者さんごとに調整するのがよいが,すべての患者さんにこのような調整は難しいため,特に配慮が必要な患者さんについては,その患者さんのカルテにメモ書きしておくとよい.また,患者さんにお渡しするパンフレットや血圧手帳,糖尿病手帳等が不足していないかなども事前にチェックしておくとよいだろう.
その他,小児の診察をする場合は玩具の用意をしたり,レインボーフラッグを患者さんから見えやすいところに置いておくとLGBTQの方へのメッセージになったり,といった患者さんごとの配慮があるとよいだろう(図1).
ここがポイント
患者さんの視点を知るために,患者さんの椅子に座ってみよう!
3)医師自身の聴く態度のチェック
家庭医がよく用いる技法である「患者中心の医療の方法」にも影響を与えた米国の臨床心理学者Carl Rogersは「傾聴」を提唱した人物だが,話を聴く態度として中核の3条件を挙げている.すなわち①受容,②共感,③一致4)である.この3条件を医師が満たしているとき,患者さんは「話を聞いてもらえている」と感じ,患者さん自身の内なる言葉との対話を促すのである.①受容とは,患者さん自身の言葉をよい悪いの判断をせずにそのまま受け止めること,②共感は,医師自身のロジックや価値観,感じ方ではなく,患者さんの価値観で物事を体験しているとしたらどうなるだろうかと想像しながら理解していくこと,③一致は,話を聴いている医師自身がリラックスして,自身のなかで起きている感覚に気づいている状態である.
これらを毎回の外来で意識することで,コミュニケーションの質が一気に上がるだろう.
2. いざ本番! 外来診療開始中に意識すること
ここまでで,外来の6割は終わっている.後はリラックスして外来診療に臨むだけである.
1患者さんの呼び入れ
可能であれば,患者さんを呼び入れるときに診察室の扉をこちらで開けて待つとよいだろう.患者さんの待合室での様子や歩行の様子を観察することができる.特に,杖歩行やシルバーカー歩行の患者さん,大きな荷物をもっている患者さんでは扉を開けて,「お荷物をお持ちしますよ」と声かけをする.はじめて会う患者さんやご家族の場合は自己紹介を行い,それぞれの方のお名前と関係性を確認する.椅子に座るまで雑談を行う.
2患者さんの声に耳を傾ける.
先に述べた聴く態度を意識して,はじめの1,2分はなるべく口をはさまず,カルテを見ずに患者さんのお話を聞く.そのなかで,患者さんの「真の受診理由」を探る.受診理由を探る質問モデルとして,ICE(Ideas:解釈,Concerns:心配事,Expectations:期待)やFIFE(Feelings:感情,Ideas:解釈,Function:影響,Expectations:期待)がある(表1,2).
ここがポイント
患者さんの真の受診理由を探る.
3配慮が必要な患者さん
ヘルスリテラシーとは,「健康情報を入手,理解,評価,活用する知識や能力」のことであり,このヘルスリテラシーが不十分だと病気や治療の知識が少ない,自分の心配を伝えにくい,慢性疾患の管理が不良,救急受診が多いなどの弊害がある.ヘルスリテラシーが「不十分」な人の特徴を表3にあげる.ヘルスリテラシーを意識したコミュニケーションには,わかりやすい用語を用いる,適度な速さではっきりと話す,重要なポイントに絞って伝える,図やイラストや模型を用いる,Teach back法を用いる(医療者から受けた説明内容を,患者さんの言葉で再現してもらう方法),質問しても恥ずかしくない環境をつくるなどがある5).
外来診療で多く出会う高齢者では視力低下,聴覚低下がある方が多数おられる.聴力低下がある方へはもしもしフォン®や集音器を利用して,ゆっくりはっきりとした声で話すとよい.また視力低下,聴力低下ともに有用なのがパソコンのメモ機能による筆談である.フォントを見やすいように大きくすることが可能であり,こちらが伝えたい内容を記載し,診察の最後に印刷してお渡しすることも可能である.
4時間管理
患者さんの待ち時間にも気を配りつつ,初診患者さんで15〜20分,再診患者さんでは5〜10分以内におさまるように意識する.また,なるべく予約患者さんは30分以上待たせないように時間感覚を持とう.外来の最後に患者さんから新しい訴え(ドアノブクエスチョン)が21%あると言われている6).この「最後の質問」が真の受診理由であることもあり,注意深く耳を傾ける必要がある.しかし,時間が足りなくなる場合もあり,医師側もあらかじめこの「最後の質問」が出やすいように,「ほかに何か心配なことはないですか?」と聞くとよい.また,その日の外来ですべて解決しようとせず,継続外来の強みを活かして,長期的目線に立って患者さんとかかわるとよいだろう.
ここがポイント
長期的目線で患者さんとかかわる.
3. 外来診療を終えた後で
外来診療が終わり,水分補給や空腹を満たしたら,記憶が新しいうちにその日の外来のカルテを記載し,次回の予習を行おう.また,アフターケアを行うことで,患者さんやご家族の満足度も上がる.さらに,医学的内容だけでなく,第1章-1の「外来診療の型」に基づいてコミュニケーションについての振り返りもできればよい.以下に示す内容は,皆さんだけが行う必要はなく看護師や医療事務の方々にもご協力いただけるとよいだろう.
1各所への連絡
1)離れた家族への連絡
患者さんの了承を得て,外来に同席できなかった家族,遠方の親族へ適宜,診療状況の報告をしておくと,患者さんが急遽入院になったときや状態が変わったときに話をしやすくなる.
2)関係各所への連絡
患者さんにとって必要な社会資源につなげるように地域の相談窓口に報告,相談する.具体的には,地域包括支援センター,地域保健センター,社会福祉協議会,各自治体の福祉課等に連絡する.
2書類作成
紹介状や診断書などの文書は外来終了後すみやかに記載しておこう.病院によっては,紹介状がないと受診予約ができなかったり,診断書を職場等に提出する必要があるためである.
3電話フォロー
気になった患者さんはチェックしておき,後日電話をしよう.その際に電話再診料をいただくかは事前に院内でルール決めをしておくとよいだろう.
以上,述べたようなコミュニケーションをベースに,動機づけ面接,認知行動療法,対人関係療法等の枠組みを用いると生活習慣の改善や心理社会的問題を扱いやすくなる.
おわりに
外来診療がうまくいくTipsは実際に診療しながら試行錯誤で見つかっていくものです.また,ほかの医師の診療を見たり,多職種のコミュニケーションの様子を見て,よいTipsがあったら,自分のなかにストックしておくとよいでしょう.
引用文献
- Croskerry P, et al:Cognitive debiasing 1:origins of bias and theory of debiasing. BMJ Qual Saf, 22 Suppl 2:ii58-ii64, 2013(PMID:23882089)
- Kurihara H, et al:Importance of physicians’ attire:factors influencing the impression it makes on patients, a cross-sectional study. Asia Pac Fam Med, 13:2, 2014(PMID:24397871)
- Matsuhisa T, et al:Effect of physician attire on patient perceptions of empathy in Japan:a quasi-randomized controlled trial in primary care. BMC Fam Pract, 22:59, 2021(PMID:33789572)
- 「カール・ロジャーズ カウンセリングの原点」(諸富祥彦/著),KADOKAWA, 2021
- 「ヘルスリテラシー--健康教育の新しいキーワード」(福田 洋,江口泰正/編著),大修館書店,2016
- White J, et al:“Oh, by the way ... ”:the closing moments of the medical visit. J Gen Intern Med, 9:24-28, 1994(PMID:8133347)
参考文献・もっと学びたい人のために
- 外来診療コミュニケーションが劇的に上手くなる方法」(岸本暢将,篠浦 丞/著),羊土社,2008
↑具体的な外来診療の進め方に関して,実際によく出会う場面ごとに,その対応が示されていて勉強になります. - Searight HR:Counseling Patients in Primary Care:Evidence-Based Strategies. Am Fam Physician, 98:719-728, 2018(PMID:30525356)
↑プライマリ・ケアで頻用するカウンセリングについてレビューです.各カウンセリング手法がまとまっています. - 「救急外来でコミュニケーションに困ったとき読む本」(舩越 拓/編著),中外医学社,2023
↑救急外来におけるコミュニケーションに焦点を当てた著書ですが,慢性疾患の外来診療にも十分役立つ内容です.事例ごとに丁寧に解説されています. - 「そのとき心療内科医ならこう考える かかりつけ医でもできる! 心療内科的診療術」(大武陽一),金芳堂,2023
↑慢性疾患を心身症として捉え,心療内科的なアプローチができれば,外来診療において非常に有用です. - 「動機づけ面接〈第3版〉上・下」(Miller WR, Rollnick S/著,原井宏明/監訳),星和書店,2019
↑動機づけ面接は,服薬遵守,体重コントロール,アルコール使用障害等に有用な面接技法です.上下巻で読むのが大変ですが,深く学びたい方はぜひお読みください.
著者プロフィール
張 耀明(Youmei Cho)
新島村国民健康保険本村診療所
今は,塗香(ずこう)に興味があります.心地よい香りで,外来診療前に香りを嗅ぐと落ち着きます.皆様も試してみてください.