第2章 循環器の薬の使い分け
6. 抗血小板薬の使い分け
中妻賢志
(京都大学医学部附属病院 循環器内科)
Point
- 冠動脈ステント留置術後はステント血栓症を予防するため2剤の抗血小板薬が必要である.アスピリン+プラスグレルまたはクロピドグレルの作用機序の違う2剤併用療法を行う
- シロスタゾールは血管拡張作用があり,閉塞性動脈硬化症患者に用いることがある
- 抗血小板薬の2剤併用療法の期間に関しては患者の出血リスク・血栓リスクを考慮して決定する.その際に,日本版HBR評価基準を参考にする
はじめに
抗血小板薬は循環器内科領域で非常によく使用する薬剤である.主に血栓症を予防するために使用されるが,合併症としての出血の危険性もあるため,その使用方法には注意が必要である.
循環器領域で主に使用する疾患としては,狭心症・心筋梗塞などの冠動脈疾患,閉塞性動脈硬化症,経皮的大動脈弁置換術後,冠動脈バイパス術後,一部の弁膜症術後がある.
1. 薬の基礎知識
表1に循環器領域で使用する主な抗血小板薬をまとめた.
1アセチルサリチル酸(アスピリン)
アスピリンはシクロオキシゲナーゼ-1(COX-1)の働きを不可逆的に阻害することで血小板凝集を抑え抗血小板作用をもつ1).不可逆的な阻害であるため,完全に効果が消失するのに血小板寿命である約8日間かかる.具体的な薬剤としては,バファリン®配合錠A81,バイアスピリン®に加えて,プロトンポンプ阻害薬との合剤のタケルダ®配合錠(アスピリン/ランソプラゾール配合剤),キャブピリン®配合錠(アスピリン/ボノプラザンフマル酸塩配合剤)などがある.
アスピリンの主な副作用としては,胃潰瘍・十二指腸潰瘍などの胃粘膜障害を起こすことがあるため,H2受容体拮抗薬やプロトンポンプ阻害薬などを併用する.また,アスピリン喘息患者には使用できないことにも注意が必要である.

2ADP受容体拮抗薬(P2Y12受容体拮抗薬)
ADP受容体拮抗薬は,活性代謝物が血小板のADP受容体サブタイプP2Y12に作用し,ADPの結合を阻害することにより,血小板の活性化に基づく血小板凝集を抑制する.具体的な薬剤としては,クロピドグレル(プラビックス®),プラスグレル(エフィエント®),チカグレロル(ブリリンタ®)がある.
1) クロピドグレル(プラビックス®)
肝臓で代謝を受けて活性型に変わる.その代謝酵素のなかでCYP2C19が大きな役割を果たすが,日本人にはこの部位の遺伝子変異をもつ人が多いことがわかっている(両方のアレルに変異をもつpoor metabolizerは約20%)2).抗血小板効果がCYP2C19の遺伝子型に影響されることがクロピドグレルのデメリットである.一方で,比較的エビデンスが蓄積された薬剤であるため,心臓以外にも虚血性脳血管障害,閉塞性動脈硬化症にも適応がある点で幅広く現在でも使用されている薬剤である.
2) プラスグレル(エフィエント®)
CYP2C19遺伝子型に影響されない新世代のADP受容体拮抗薬である.クロピドグレルよりも抗血小板効果が強く,日本で採用された用量は欧米で採用されている用量よりも減量されている(日本3.75 mg/日,欧米10mg/日).また,クロピドグレルと比較して効果発現が速いことも特徴である.比較的新しい薬剤であり,閉塞性動脈硬化症には適応がない3).
3) チカグレロル(ブリリンタ®)
プラスグレルと同様に遺伝子多型の影響を受けず,効果もすみやかに発現する4).また,可逆的に抗血小板作用を発揮し,半減期が短いため,1日2回投与が必要であるが,非心臓手術術前の中止が比較的短期間でよいことがメリットである.アスピリンとの併用が必要であることや,アスピリンと併用するクロピドグレルやプラスグレルが副作用などで使用できない場合に限られるなどの制限がある.現在のところ本邦において実臨床で使用する場面は限られている.
3シロスタゾール
シロスタゾール(プレタール®など)は,ホスホジエステラーゼⅢ活性を選択的に阻害することで,血小板および血管平滑筋細胞内のcAMPを上昇させ,抗血小板作用や血管拡張を起こす5).また心筋細胞内のcAMPも上昇することにより脈拍が速まる.シロスタゾールの抗血小板作用は,アスピリンやADP受容体拮抗薬と比較してあまり強くないため,それらが使用できない患者に主に使用される.適応は慢性動脈閉塞症である.
主な副作用としては,全身の血管拡張により頭痛やほてり,頻脈や動悸が出現することがある.この副作用を逆手にとって,実臨床では抗血小板薬が必要でかつ洞性徐脈の患者にシロスタゾールを投与することもあるが,徐脈性不整脈に対する保険適用はないことには注意する.
2.抗血小板薬2剤併用療法とその期間
経皮的冠動脈形成術(PCI)後はステント血栓症を予防するため,抗血栓薬が必要となる.抗血栓薬としては,主に抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)を行う.基本的にはアスピリン+プラスグレル(またはクロピドグレル)の組み合わせとなる.以前よりもステントの性能が向上したため,DAPTの推奨期間が短縮している.
DAPT期間に関しては患者の高出血リスク(high bleeding risk:HBR)や血栓リスクを考慮して決める.HBRに関しては,日本版HBR評価基準を参考にする(表2)6).この表で少なくとも主要項目を1つ,副次項目を2つ満たした場合にHBRと定義する.血栓リスクに関しては,DAPTスコアやPARISスコアがあり7,8),日本人データをもとに作成されたCREDO-Kyotoリスクスコアも参考になる9).主なステント血栓症のリスク因子としては,ステント血栓症の既往,第一世代の薬剤溶出性ステント留置,急性心筋梗塞,複雑なPCI治療,糖尿病合併,慢性腎臓病などがある10〜12).特に,欧米人と比較して日本人は血栓リスクよりも出血リスクが高いことが知られており,ガイドラインにおいても,まずHBRのあり・なしで,その期間が決まる6).
HBRありの場合は,抗凝固薬内服中であれば,抗血小板薬2剤併用は入院中の2週間以内とし,以後はPCI後1年間は抗凝固薬に加えてクロピドグレルまたはプラスグレル単剤とし,1年以後は抗血小板薬は中止して抗凝固薬のみとする.HBRありかつ抗凝固薬内服がない場合は,1カ月~3カ月のDAPTを行い以後は抗血小板薬単剤とする.その場合の抗血小板薬としては,以前はアスピリンがメインで使用されていたが,最近は特に血栓リスクが高い症例においてより抗血小板作用が強いとされるプラスグレル単剤が推奨されている.
HBRなしの場合は,血栓リスクを考慮してDAPT期間を決定する.急性冠症候群などの血栓リスクが高い症例はDAPTは3〜12カ月間継続し,その後,単剤に減量する.一方で,血栓リスクの低い患者はDAPT期間は1〜3カ月とし,以後は抗血小板薬単剤とする.

3.急性心筋梗塞の場合の考え方
症例
高血圧症,糖尿病,脂質異常症のある65歳男性.6時間前からの前胸部絞扼感を認め,救急搬送.12誘導心電図でⅡ,Ⅲ,aVFのST上昇を認め,ST上昇型急性心筋梗塞の診断で緊急心臓カテーテル検査の方針となった.体重70kg,活動性の悪性腫瘍はなく,消化管出血・脳出血や肝硬変の既往もなし.eGFR 75 mL/分/1.73 m2,Hb 13 g/dL,Plt 16万/μL
1研修医の疑問
ST上昇型急性心筋梗塞(STEMI)の患者には,どのタイミングで,どの抗血小板薬を内服してもらえばよいのだろうか? また,入院中,退院後に抗血小板薬はどうすればよいだろうか?
2薬の使い方のコツ 〜この症例ではこう考える
STEMIの場合は,血栓が大きく病態にかかわっており,なるべく早期に抗血小板薬内服を開始する.心臓カテーテル検査を待つ間に,ヘパリン静脈注射に追加して,バイアスピリン® 100 mgを2錠噛み砕いて内服,さらにエフィエント®20mgを内服したうえで,心臓カテーテル検査へと向かう(なお,STEMI以外の非ST上昇型急性心筋梗塞や不安定狭心症の場合は,アスピリンのみカテーテル前に内服し,プラスグレルはカテーテル室でPCI決定時に追加内服することがし推奨されている)6).無事,PCIが終わった後は,翌日朝からバイアスピリン®100mgとエフィエント® 3.75mgのDAPTを開始する.本患者の退院後のDAPT継続の計画としては,比較的若くHBRはなく,一方,急性心筋梗塞のため血栓リスクは高いため,6カ月間のDAPTの方針とした.6カ月以降はエフィエント®単剤を継続する.
3研修医の陥りやすいピットフォール
- 心臓カテーテル検査前のバイアスピリン® 100mgは噛み砕いて内服しないとすぐに効果がでないので注意.
- バイアスピリン® 100 mg等のアスピリンを処方する際には,胃粘膜保護のためプロトンポンプ阻害薬などを合わせて処方することを忘れないようにする.
●薬剤の処方(DAPT)
バイアスピリン®1回100mg 1日1回
エフィエント®1回3.75mg 1日1回
(上記に加えて,胃潰瘍予防にプロトンポンプ阻害薬などの胃薬を併用する)
Advanced Lecture
抗血小板薬のデエスカレーション
抗血小板薬のデエスカレーションという考えかたもあり,急性冠症候群の急性期のみアスピリンとプラスグレルを使用し,その後は,プラスグレルをクロピドグレルにスイッチする戦略も検討されている.小規模な研究ではあるが,1年後の虚血イベントは増加せず,出血イベントが減ったという報告がある13).
おわりに
抗血小板薬は循環器疾患治療に非常に大切な薬であり,種類は少ないが,その違いや使い方を理解することが大切である.
引用文献
- バイアスピリン 添付文書(2022年5月 第3版)
- プラビックス®錠 添付文書(2023年1月 第5版)
- エフィエント 添付文書(2021年12月 第3版,効能変更,用法変更)
- ブリリンタ 添付文書(2023年10月 第4版)
- プレタール®CD錠 添付文書(2023年2月 第3版)
- 日本循環器学会:2020年JCSガイドラインフォーカスアップデート版冠動脈疾患患者における抗血栓療法.(2024年10月閲覧)
- Costa F, et al:Derivation and validation of the predicting bleeding complications in patients undergoing stent implantation and subsequent dual antiplatelet therapy(PRECISE-DAPT)score:a pooled analysis of individual-patient datasets from clinical trials. Lancet, 389:1025-1034, 2017(PMID:28290994)
- Baber U, et al:Coronary Thrombosis and Major Bleeding After PCI With Drug-Eluting Stents:Risk Scores From PARIS. J Am Coll Cardiol, 67:2224-2234, 2016(PMID:27079334)
- Natsuaki M, et al:Prediction of Thrombotic and Bleeding Events After Percutaneous Coronary Intervention:CREDO-Kyoto Thrombotic and Bleeding Risk Scores. J Am Heart Assoc, 7:e008708, 2018(PMID:29789335)
- Valgimigli M, et al:2017 ESC focused update on dual antiplatelet therapy in coronary artery disease developed in collaboration with EACTS:The Task Force for dual antiplatelet therapy in coronary artery disease of the European Society of Cardiology(ESC)and of the European Association for Cardio-Thoracic Surgery(EACTS). Eur Heart J, 39:213-260, 2018(PMID:28886622)
- Roffi M, et al:2015 ESC Guidelines for the management of acute coronary syndromes in patients presenting without persistent ST-segment elevation:Task Force for the Management of Acute Coronary Syndromes in Patients Presenting without Persistent ST-Segment Elevation of the European Society of Cardiology(ESC). Eur Heart J, 37:267-315, 2016(PMID:26320110)
- Giustino G, et al:Efficacy and Safety of Dual Antiplatelet Therapy After Complex PCI. J Am Coll Cardiol, 68:1851-1864, 2016(PMID:27595509)
- Cuisset T, et al:Benefit of switching dual antiplatelet therapy after acute coronary syndrome:the TOPIC(timing of platelet inhibition after acute coronary syndrome)randomized study. Eur Heart J, 38:3070-3078, 2017(PMID:28510646)
著者プロフィール
中妻賢志(Kenji Nakatsuma)
京都大学医学部附属病院 循環器内科
2008年 高知大学医学部医学科卒業
2008年〜2013年 洛和会音羽病院 初期研修・後期研修(心臓内科)
2014年〜2017年 京都大学医学部医学研究科博士課程(循環器内科学)
2017年〜2024年 三菱京都病院(心臓内科)
2024年4月〜 京都大学医学部附属病院(循環器内科)特定病院助教
虚血やSHDのカテーテル治療を専門にしています.京大循環器内科の医局はとても働きやすく,働き方改革も進んでいます.最近の趣味は家族でプロバスケ観戦(たまに趣味でプレー)です.京大循環器内科に興味があれば,いつでも見学に来てくださいね.お待ちしています.