第2回 審査区分(応援分野)の選び方(2023.07.14更新)

 応募種目の選択とともに,審査区分(応募分野)の選択は非常に重要だ.平成30年度の公募から,それまでの審査で使われていた「系・分野・分科・細目名」といった審査分野の分け方ではなく,「小区分・中区分・大区分」で構成される新しい審査区分で審査が行われている.この「審査区分」はおおむね5年ごとに見直しが行われることになっている.令和5年度はその見直しの時期にあたり,令和4年3月に「審査区分表」が変更された.新しい「審査区分表」は令和5(2023)年度の科研費の応募から適応される.審査区分表は日本学術振興会ホームページの「科学研究費助成事業」→「メニュー」→「公募情報」→「審査区分表等」からダウンロードできる.

 審査区分は以下のように応募種目によって異なる.

基盤研究(B, C),若手研究:306の「小区分」

基盤研究(A),挑戦的研究(開拓・萌芽):65の「中区分」

基盤研究(S):11の「大区分」

 キーワードが記載された審査区分表を見ながら,申請書の内容にふさわしく,正確に審査してくれる領域に応募すること.自分の所属学会の領域,所属講座の分野に応募しなければいけないということはない.

審査区分を選ぶ際の注意点

 注意すべきことは,応募する研究内容に対して,いくつか異なる審査区分の候補があることだ.例えば,「ペプチド・ホルモンに関する研究」の内容で応募するときには,

①小区分:43030 「機能生物化学関連」生理活性物質

②小区分:54040 「代謝および内分泌学関連」内分泌学,神経内分泌学,生殖内分泌学

などの小区分が候補になるだろう.また,このペプチド・ホルモンの機能を調べる研究計画ならば,その他にも

③小区分:46010 「神経科学一般関連」神経化学

④小区分:46030 「神経機能学関連」神経生理,神経薬理,情報伝達

⑤小区分:47010 「薬系化学および創薬科学関連」医薬品探索,生体関連物質

⑥小区分:47040 「薬理学関連」薬理学,シグナル伝達

⑦小区分:47050 「環境および天然医薬資源学関連」天然活性物質

⑧小区分:48020 「生理学関連」一般生理学,環境生理学

⑨小区分:48030 「薬理学関連」分子細胞薬理,行動薬理,創薬薬理学

など多くの小区分を候補としてあげることができる.どの小区分に応募するか迷うことが多いが,申請書の研究計画の内容をよく検討して最適な審査区分を選ぶことだ.

 なお,将来的には区分の再編が行われて,より少ない区分数になるということが発表されている.自身の研究分野以外の審査委員も加わることになるので,異なる分野の審査委員にも理解してもらえるような申請書を作成することが,より必要になることだろう.

データベースを使って最適な審査区分を選ぼう

 最適な審査区分を選ぶには,「科学研究費助成事業データベース」を使って,応募しようとする審査区分でどのような研究課題が採択されているか,また自分の研究計画のキーワードで検索したときにヒットした採択課題がどの審査区分に応募したものであるのかを調べて,審査区分を決定するのがよい.科研費公募要領の審査区分表にある「内容の例」で審査区分を選んでもよいが,採択課題を調べて審査区分を選ぶ方が自分の研究課題にふさわしい区分がわかる.平成30年度の制度改革でこれまでの「応募分野」から「審査区分」という形になったが,内容自体はそれほど変わっていないので平成29年度公募以前のデータからも傾向をつかむことができる.

 また応募しようとする分野の過去の審査委員を調べて参考にするのもよい.自分の研究をよく知っている審査委員のいる分野は的確な審査が期待できる.

細目で異なる採択件数,採択率は30%前後

 平成30年度の公募から応募分野は審査区分とよばれるようになり,大区分→中区分→小区分と分かれているが,ここでは令和4年1月現在の時点で公開されている,令和3年度の細目ごとの応募件数と採択件数をみてみよう.

 日本学術振興会科学研究費助成事業のホームページのメニュー「関連データ」→「科研費データ」→「Ⅲ.科研費の配分状況」→「(1)研究種目別配分状況」の「②審査区分別配分状況」からデータをみることができる.ここに区分別,研究種目別の詳細な応募と採択状況の一覧表がある(表1には,新規採択課題の採択率上位30件を抜粋して示した).

小区分応募件数採択件数採択率(%)
02080:英語学関連893134.83
02030:英文学および英語圏文学関連2077033.82
02020:中国文学関連511733.33
05050:刑事法学関連702332.86
01010:哲学および倫理学関連1374532.85
02010:日本文学関連1825932.42
02070:日本語学関連682232.35
02040:ヨーロッパ文学関連1304232.31
03010:史学一般関連591932.20
05060:民事法学関連1665331.93
02100:外国語教育関連50816231.89
07100:会計学関連1705431.76
09040:教科教育学および初等中等教育学関連60819331.74
01040:思想史関連792531.65
01050:美学および芸術論関連1173731.62
02060:言語学関連2267131.42
11020:幾何学関連1605031.25
12010:基礎解析学関連1284031.25
01080:科学社会学および科学技術史関連611931.15
06010:政治学関連1675231.14
05040:社会法学関連451431.11
05020:公法学関連1193731.09
09030:子ども学および保育学関連33810531.07
02090:日本語教育関連1615031.06
09050:高等教育学関連1845730.98
05070:新領域法学関連842630.95
07060:金融およびファイナンス関連1263930.95
12020:数理解析学関連973030.93
12040:応用数学および統計数学関連1073330.84
58050:基礎看護学関連45414030.84
表1 令和3年度基盤研究(C)の新規採択課題の採択率上位30件
「日本学術振興会公表の令和3年度(2021)年度配分結果集計表(審査区分別)」をもとに作成.新規採択率は応募区分によって10%もの差がある.特に人文社会学系の区分で採択率が高い傾向にある.なお医学系・基礎医学系の小区分に限ると,47位に「臨床看護学関連」(30.33%),59位に「高齢者看護学および地域看護学関連」(30.00%),61位に「生涯発達看護学関連」(29.94%),78位に「臨床心理学関連」(28.98%),81位に「スポーツ科学関連」(28.83%),84位に「認知科学関連」(28.79%),88位に「医療管理学および医療系社会学関連」(28.57%),93位に「リハビリテーション科学関連」(28.43%)となっている.

 この一覧表を見ていくと,応募件数と採択件数は審査区分ごとにかなり違っていることがわかる.科研費の審査区分別採択件数は,区分ごとの応募件数にほぼ比例して決まってくる(表2).そのため科研費の区分別の採択件数は,必ずしもその区分の現時点での重要性によるのではない.もちろんその研究分野が活発であれば研究者が多く,応募件数も多いだろうから,採択件数も多いだろう.所属の学会から,その区分への科研費応募件数を増やそうというキャンペーンを働きかけられたことはないだろうか? これは応募件数を多くして,その区分の採択件数を増やすのが目的だ.

基盤研究(B)基盤研究(C)若手研究合計
小区分応募件数採択件数応募件数採択件数応募件数採択件数応募件数採択件数採択率(%)
52040:放射線科学関連712066718524410198230631.16
59040:栄養学および健康科学関連139436361761676594228430.15
59010:リハビリテーション科学関連92265981702339492329031.42
58080:高齢者看護学および地域看護学関連7427670201984284227032.07
53010:消化器内科学関連56175261392469982825530.80
59020:スポーツ科学関連90265481581887682626031.48
56020:整形外科学関連51165311441927877423830.75
55020:消化器外科学関連54175001331937774722730.39
09040:教科教育学および初等中等教育学関連6022608193703173824633.33
53020:循環器内科学関連48144551242219072422831.49
52050:胎児医学および小児成育学関連471451713914356707 209 29.56
57060:外科系歯学関連45134311171737164920130.97 
02100:外国語教育関連4516508162783663121433.91 
56040:産婦人科学関連32104251161636562019130.81
09070:教育工学関連6623468139532258718431.35
58010:医療管理学および医療系社会学関連7022406116994357518131.48
58070:生涯発達看護学関連3513481144552557118231.87
58060:臨床看護学関連4617455138632756418232.27
58050:基礎看護学関連4214454140532454917832.42
50020:腫瘍診断および治療学関連6922321861556354517131.38
56050:耳鼻咽喉科学関連319409112973953716029.80
56010:脳神経外科学関連3193841041154753016030.19
08010:社会学関連64253621101014452717933.97
07080:経営学関連5119379114874051717333.46
08020:社会福祉学関連3413417128653051617133.14
50010:腫瘍生物学関連5617292781676751516231.46
52010:内科学一般関連4414362100863549214930.28
56030:泌尿器科学関連278368100933648814429.51
56060:眼科学関連217335921184947414831.22
52030:精神神経科学関連3812301851305146914831.56
表2 令和3年度小区分で審査される種目(新規分)の応募件数上位30位
「日本学術振興会公表の令和3(2021)年度配分結果集計表(審査区分別)」をもとに作成.小区分で審査される「基盤研究(B,C)」「若手研究」の3種目の集計.

 そしてこの一覧表で重要な点は,採択率はどの小区分においても30%前後であるが,理系種目では低く文系種目では高い傾向にあることだ.例えば基盤研究(C)において採択率の一番高い「英語学関連」の34.83%と,一番低い「プラズマ応用科学関連」や「基盤脳科学関連」などの25.00%とでは実に9.83%もの違いがある.これは種目ごとに応募件数あたりの総配分額がまず決められ,そのなかで採択課題が決定されるのだが,1採択課題あたりの配分額が低めの文系種目の方が採択件数が多くなり,配分額が高めの理系種目の方が採択件数が少なくなるためと考えられる.また審査において「人文学,社会科学の研究の振興のための調整」も行われることも理由の1つであろう.つまり,語弊があるかもしれないが,文系種目の方が理系種目よりも採択されやすいということだ.実際に令和3年度の新規採択課題において,採択率上位30件の中で理系種目は5種目だけである(表1).

 ホットな研究分野は当然,応募件数も多いと予想されるが,令和3年度の小区分の種目〔基盤研究(B)と(C),若手研究〕の合計において応募件数が多い上位10件は(表2),「放射線科学関連」(982件),「栄養学および健康科学関連」(942件),「リハビリテーション科学関連」(923件),「高齢者看護学および地域看護学関連」(842件),「消化器内科学関連」(828件),「スポーツ科学関連」(826件),「整形外科学関連」(774件),「消化器外科学関連」(747件),「教科教育学および初等中等教育学関連」(738件),「循環器内科学関連」(724件)となっている.

 もちろんこれらの区分でも,応募件数が多くなるほど,採択件数が多くなっている.

異分野への応募

 ストレートに自分の研究分野で勝負するのもいいが,関連があるが少しだけ離れた審査区分に応募するのも1つの戦略だ.ともかく,申請内容の研究テーマを考えて最適の審査区分に応募するのがよい.たとえ自分には異分野で知り合いがいなくても,内容がしっかりしてさえいれば大丈夫だし,かえってその審査区分では新鮮なテーマに映るのか,案外採択されることが多いのだ.

 例えば私は「内因性の成長ホルモン分泌促進因子グレリンはドーピングの禁止薬物の対象となるか?」という研究課題で,「スポーツ科学」分野(平成30年度の公募より前の公募にあった)で採択されたことがある.これは,私にとってはまったく知り合いもいない異分野であるが,内容を十分に理解してくれると考えてこの分野に応募し採択された.私のまわりにも,科研費をずっと出していたけれど採択されず,内容はほとんど同じだが審査区分を変更しただけで採択されたという例が少なからずある.

 また,医学博士(MD)でない研究者でも,臨床医学分野に応募して採択されることも十分に可能だ.例としてあげると,知り合いのHくんはMDではないが,骨形成タンパク質を研究していて,当初基礎研究の分野に応募していたが採択されず,整形外科分野に応募先を変更して採択され,以後継続して循環器内科学,内分泌学などの臨床医学分野で採択されている.

 くれぐれも申請内容からよく考えて審査区分を検討しよう.

※本コーナーは『科研費獲得の方法とコツ 改訂第8版』(2022年7月発行)から一部抜粋・改変し,掲載したものです.記載内容は発行時点における最新の情報に基づき,正確を期するよう,最善の努力を払っております.しかし,本記事をご覧になる時点において記載内容が予告なく変更されている場合もございますのでご了承ください.

科研費獲得のための応募戦略:目次

児島 将康

(久留米大学客員教授,ジーラント株式会社代表取締役)

書籍「科研費獲得の方法とコツ」「科研費申請書の赤ペン添削ハンドブック」著者.毎年の科研費公募シーズン前後に20件近くの科研費セミナーで講演し,理系・文系を問わず申請書の添削指導を行っている.令和6年4月より研究者を支援するジーラント株式会社(https://g-rant.org/)を立ち上げ,活動している.

科研費に関する書籍・ウェビナーや制度の変更点など,科研費申請に役立つ情報を発信しております.
研究生活の役に立つ書籍なども少しご紹介しています.