■序

　南の島の卒後研修病院で，覇気に満ちた研修医諸君の持参するX線写真を囲み，共に悩みながら十数年が過ぎた．彼ら彼女らはいずれ劣らず研修に意欲的で画像診断の習得にも熱心であったが，また一様に画像診断に専任できるローテーションの猶予を持たなかった．
　外科や内科，プライマリーケア科といった画像診断学を専攻としていない初学者が，自己学習によって臨床の現場で実際に活用できるCT読影術を会得することは可能であろうか？この無謀とも思える試みへの挑戦が本書であり，急性腹症に的を絞った実戦的なCT読影法の指南書を目指した．
　100症例という演習問題枠に収めた症例はバラエティーに富む症例集ではなく，虫垂炎や憩室炎といった市中病院救急外来で日常的に遭遇するありふれた疾患群を選抜し，それぞれに様相の異なる複数例を収載する方針とした．したがって『画像診断の物知り』には必要な有名な疾病であっても，実際に遭遇する機会が稀なものは割愛した．各項目の記述についても，『いかに詳細に多くを記載するか』ではなく，『いかに重要事項に絞り込んだ簡略な記述とするか』に腐心した．
　症例提示の方法は，従来の指導書のようにあらかじめ選別された画像の中から異常所見を抽出するのではなく，実際のCT検査と同様に提示された全腹部30〜50枚の横断画像の中から異常を見つけ出すプロセスをCT診断の出発点とした．このスタイルによる症例の提示はCD書籍の形をとることではじめて可能となったが，その幸運な機会は羊土社編集部の嶋田達哉氏に提供していただいた．また気まぐれとも言える著者の相次ぐ構成変更に根気よく付き合っていただいた北本陽介氏，さらに全くのパソコン素人の思いつきを具体化し素晴らしい機能とともにスマートにまとめていただいた染矢晋太郎氏にお礼を申し上げる．両氏の尽力なくしてはこのCD書籍は到底実現できるものではなかった．
　本来ならば専門分野別に共著とすべき量の内容ではあるが，読影のニュアンスを統一したいことや，何より記載事項の取捨選択の中にこそ本著の主張があると考えたため，遅々とした作業ながらひとりで著述の日々を重ねた．
　その長い道程の中では，本当に多くの方々のお世話になった．何よりも本書の礎となった沖縄県立中部病院での診療にかかわるすべての人々に最初にお礼を述べたい．資料室の片隅で分厚い診療録を繰りながら，紙面から伝わってくる日々の診療に対峙する研修医そして指導医の面々の真摯な篤い姿勢にはあらためて大きな感銘を受けた．緊迫した手術操作中にもかかわらず記録された膨大な術中写真の蓄積には，外科医の気概と医局の歴史を垣間見る思いで圧倒された．この貴重な資料の使用を快く許していただいた外科医諸兄に深謝を捧げたい．
　本書が診療の場で，そして研修医諸子の向学心を満たすささやかな糧として活用していただけるようであれば望外の喜びである．

梅雨空の合間に今年も夏の到来を確信した日に
堀　晃

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【本書名】連断腹部　連続断層画像ケーススタディ【腹部疾患】
【出版社名】羊土社

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