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がん医療において,病名を伝えることが一般的になるとともに,コミュニケーションの問題が注目されるようになった.わが国においても,がん患者の意向を尊重したコミュニケーションが求められており,厚生労働省のがん対策推進基本計画においても「がん医療における告知等の際には,がん患者に対する特段の配慮が必要であることから,医師のコミュニケーション技術の向上に努める」ことが謳われている.本稿では,患者の意向を尊重したBad Newsの伝え方,予後の話し合い方について論じる.
Bad News(悪い知らせ)は「患者の将来への見通しを根底から否定的に変えてしまう知らせ」と定義されている.Bad Newsの例として,難治がんの診断や再発,抗がん治療の中止などが挙げられる.Bad Newsの際には,診断や病状だけでなく,今後の治療や予想される病気の経過,すなわち予後についても話し合われることが一般的である.
しかし,Bad Newsにより精神的に強い衝撃を受け,頭が真っ白になり,Bad Newsの後に,何を話し合ったか覚えていないという患者は少なくない.すなわち,Bad Newsは患者にとって大きなストレスであり,Bad Newsを伝える医師のコミュニケーションが患者の不安や心理的適応に影響する.そのため,Bad Newsを伝える際には,患者の心理的状態に十分配慮することが求められており,そのようなコミュニケーションを実践することにより,提供された医学情報に対する十分な理解と,その後の治療へのコンプライアンスが期待される.
コミュニケーションの語源は「共有する」という意味のラテン語communicareであるといわれている.患者―医師間の望ましいコミュニケーションの成立には,双方向の円滑な情報交換に加え,表情や姿勢,身振りといった非言語的なメッセージが大きな役割を果たす.
コミュニケーションというと,言語的コミュニケーションに目が向きがちである.そのため,医学的情報を「言った」「言わない」といった議論に終始したり,患者の発言を「言葉通り」に受け取りってしまうことがある.しかし,例えば診療中に,目の前の患者が辛そうな表情で「大丈夫です」と言ったとしても,言葉どおり「大丈夫」とは判断しないように,Bad Newsを伝える面談などの,感情が伴うコミュニケーションの際には,特に非言語的な情報にも注目することが重要である.
がん医療にかかわらず,患者―医師間のコミュニケーションにおいて重要なことは基本的なコミュニケーション技術である(表1).これらは,医療者としてというよりも,1人の人間として,他者とのコミュニケーションにおいて求められるものである.
このような基本的コミュニケーションを踏まえ,Bad Newsを伝え,予後を話し合う際には,患者の意向に沿ったコミュニケーションの重要性が指摘されている.わが国のがん患者がBad Newsを伝えられる際に医師に対して望むコミュニケーションは,「Supportive environment(支持的な環境の設定)」,「How to deliver the bad news(Bad Newsの伝え方)」,「Additional information(付加的な情報の提供)」,「Reassurance and Emotional support(安心感と情緒的サポートの提供)」という4つの要素であり,その頭文字からSHAREとしてまとめられている(表2).
SHAREの各要素を実際の面談でどのように使用するかに関して時間軸に沿って面談を起承転結に分けて簡単にまとめたものを以下に示す.これらの技術は,文脈を考慮せずに字面だけで表出するのではなく,個々のコミュニケーション行動の意味を理解したうえで,他者に認識されるように適切に表出されなければ意味がない.
―中略―
医療者が対応に苦慮するコミュニケーションと対応例をいくつか提示する.
医療者は正確な医学的な情報を提供することが誠実な対応であると考え,5年生存率といった統計値を示したり,返答に窮することを恐れ患者に話す余地を与えないといった対応となることがある.このような質問への対応としては,まず質問の意図を探ることから始める.例えば,「…(沈黙の時間を十分にとりながら,ゆっくりと)どうしてそのように思われるのかもう少し詳しくお話していただけますか」と聞いてみる.先の見通しが不確実なことから生じた漠然とした不安を解消しようと質問している場合には,不安や心配を共有し,共感を示す.強い不安であると考えられた場合には,精神保健の専門家に相談することが求められる.
また,何か具体的な計画を実行可能かどうか心配している場合には,予想される生存期間を提示するよりも,身体状態などを考慮し,計画が実行可能かどうか,どうしたら実行可能となるかについて話し合うことが求められる.余命を聞きたいと考えている患者は全体の約半数にとどまることが報告されていることを考慮すると,すべての患者に余命を伝えることは得策とはいえない.
多くの医療者は患者や家族の強い感情への対処法を有していない.涙を流す患者に対して「泣かせてしまった」といった罪責の念を感じたり,怒りを示す患者に対して逆に怒りを感じてしまったり,「距離を置いたほうがよい」と合理化してしまったりといった反応がみられることがある.医療者は,まず涙を流すことのよい面(例:信頼関係が出来ているからこそ泣けること)を伝え,患者の涙から逃げないことが大切であり,何も言わず,側に寄り添うだけで共感を示すことが可能であることを憶えておきたい.
怒りを示す患者への対応としては,怒りの背景を考察することである.やり場のない怒りが目の前の医療者に向いている場合には,怒りの背景(例:やり残したことができない無念さや悔しさ)に対して共感を示し,医療者として安定したかかわり(例:毎日同じ時間に訪室するなど)を維持することが大切である.
医療者のコミュニケーション技術の学習方法として,知識を学習するための講義と行動変容を目指したロール・プレイやその観察(モデリング),グループ・ディスカッション(特に,ポジティブ・フィードバック)を組み合わせたコミュニケーション技術トレーニングの有効性が報告されている.
医療者のコミュニケーション技術の学習においては,医学的知識はすでに十分有している一方で,患者の置かれている状況や意向を想像したり,探索する技術,信頼関係を構築する技術を学習する機会が少ないため,このような点を中心に学習することをお勧めする.
―後略―
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