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記事収録書籍

レジデントノート2018年7月号 Vol.20 No.6

血液ガスを各科でフレンドリーに使いこなす!

得られた値をどう読むか?病態を掴みとるためのコツをベストティーチャーが教えます!

古川力丸,丹正勝久/編

定価:2,200円(本体2,000円+税)

血液ガス

特集にあたって

〜とりあえず血ガスが読めるようになろう

古川力丸

はじめに

今回の特集は,「血液ガスを各科でフレンドリーに使いこなす!」をテーマに,各界の血ガスのエース・大御所の方々に執筆をお願いしました.「この人と血ガスについて語り合ってみたいな…」をカタチにしてみたらこんな布陣になってしまったのですが,他に類を見ない実践的な血ガス特集になったと自負しています.短い間ではありますが,ぜひ最後までお付き合いください.

さて,今回の特集では,

「血ガスって難解でとっつきにくい」

「上級医が何を見ているのかわからない」

「なぜこのタイミングで血ガス?」

「数式が覚えられませーん.そもそも必要なの?」

など,編集部にお寄せいただいた多くの疑問にお答えすべく,血ガス入門者の方々に,実践的で,わかりやすく,興味をもってもらえるような内容に仕上げました.難解で勉強中に眠くなることのないように,マニアックになりすぎず,数式は最小限に,臨床に直結する項目を重視して執筆いただいています.血ガスはすべての研修医が手足のごとく使いこなせなくてはならない最低限の必須スキルですし,誰もが容易にそうなれるハズのものです.全くもって難しくもないですし,難解そうにみえる数式たちも,その多くは臨床上必要性の低いものばかりです(失礼! 言い過ぎ?).かわいらしい数式たちは,血ガスに慣れ親しんできたら,後輩研修医に威厳をみせるための武器として勉強しましょう.なによりもまずは,血ガスを気軽に使いこなせるように,簡単な使い方と効果的なシチュエーションを押さえてください.研修医の皆さんの丁寧な病歴聴取や診察と組み合わせれば,最強タッグになること間違いなし!

血ガスに精通してくると,身体診察の質も自ずと向上します.例えば呼吸数と胸の上がりを見ただけで,CO2レベルが推測できるようになります.また,頻呼吸をみて代謝性アシドーシスの存在を疑い,ショックかも? といつもよりしっかりとフィジカルをとるようになります.そう,血ガスを勉強することの意義は,血ガスをとった患者さんのためだけではなく,血ガスをとらない患者さんでの評価や,血ガスをとるべき患者さんを見極めることにも役立つのです.山に登ってみないと見えない景色がある.そしてその山は,(今回の執筆陣のおかげで)思ったよりもだいぶん低い.さあ,勇気を出して登って(人によっては跨いで)みましょう.

血ガスの“簡単な”読み方

それでは,この先の特集を読み進める前に,血ガスの“簡単”な読み方について述べてみたいと思います.血ガスをパッとみて,ふつうに○○性○○ーシスと分類できる方は,以降は飛ばして次に進んでOKです.

血ガス検査は,主に以下の4つの役割(目的)があります.何を目的に検査をするのか,明らかにしておきましょう.

酸素化(O2

皆さんが,血ガス検査をみて真っ先に目が行ってしまう項目ですが,有用性は比較的低めです.PaO2(動脈血酸素分圧)は最も確からしい酸素化の指標ですが,日常臨床では酸素化の評価のために血ガスをとることは少ないです.なぜなら,PaO2との相関が確認され,かつ経時モニタリングのできるSpO2(動脈血酸素飽和度)がありふれて使用できるからです.ただしSpO2が拾えない場合や,SpO2が著しい異常値で信頼性に疑問がある場合には,PaO2での評価が必要です.PaO2は採取した瞬間の酸素化しか評価できない点に注意が必要で,採取直後に酸素化が激変することも少なくありません.

換気(CO2

呼吸の世界では,CO2のことを「換気」と表現します.呼吸管理の原則として,ガス交換には酸素化と換気があり,それぞれ分けて考えることが重要になります.呼吸とひとくくりにせずに,問題は酸素化なのか,換気なのかを判断しましょう.ちなみに,Ⅰ型呼吸不全とは酸素化の障害を,Ⅱ型呼吸不全とは換気の障害を指します.慣れてくれば呼吸回数と呼吸様式(胸郭挙上)である程度のPaCO2(動脈血二酸化炭素分圧)レベルが想定できるようになりますが,SpO2のように誰もが簡単に判断できないことが換気の問題点です.つまり,意図的に換気の異常がないかどうかを誰かが判断しなくてはなりません.

酸塩基平衡

酸塩基平衡の評価は血ガスがもつ唯一無二のアイデンティティーであり,血ガスでしかわかりえません.酸塩基平衡は人体のホメオスタシス(恒常性)の主たるものです.本来であれば,Na,K,Clレベルで,ルーチンに評価をすべき項目です(と確信しています).実際,海外では救急の患者さんの場合,Na,K,Clに続けてpH,HCO3(国により総CO2)と酸塩基平衡に関する項目を評価する国もあります.酸塩基平衡は静脈血でもスクリーニングが行えますので,ぜひ積極的に評価するクセをつけましょう.

その他の項目

最近の血ガス分析装置は進歩しており,機種にもよりますがNa,K,Cl,Caなどの電解質のほか,血糖,乳酸,CO-Hb,Cr,BUN(もはや普通の採血じゃん!)など多岐にわたる項目を測定できます.血ガス検査は迅速性に優れており,これらの項目を迅速に使用したい場合や,採血量が限られる場合などで有用に活用することができます.

Dr.力丸の酸塩基平衡の判断3ステップ

それでは,「前述③酸塩基平衡」を判読する方法についてお伝えいたします.血ガスに関しては,世の中に幾多の判読法があり,いろいろな派閥があります.ここでは,間違いなく,最も簡便で臨床的な,Dr.力丸の3ステップ法をご紹介したいと思います(自画自賛).簡便性と臨床現場での有用度,重要度を重視して開発されたものであり,数式が極端に苦手な方向けの方法ですのでぜひ抵抗感なくお付き合いください.

Step1 pHを7.4でぶった切る!

pH 7.4未満をアシデミア,7.4以上をアルカレミアといいます.病態を表す,血ガスの分類であるアシドーシス,アルカローシスとは似て非なる言葉ですが,とりあえず言葉の意味はわからなくてもOKです.

Step2 アシデミア・アルカレミアの原因が呼吸性かどうか,PaCO2をみて判定する!

ここで呼吸性かどうかを判断するために大切な血ガス4分割表(表1)を示します.Step1でアシデミアだった場合はアシドーシスの列を,アルカレミアだった場合にはアルカローシスの列をみます.Step2では,アシデミアあるいはアルカレミアの原因が呼吸性によるものかどうか,PaCO2をみて判断します.アシデミアでは,PaCO2が上がっていれば(40 Torr以上),呼吸性となります.逆に,アルカレミアではPaCO2が下がっていれば(40 Torr以下),呼吸性となります.酸塩基平衡は【呼吸性・代謝性】×【アシドーシス・アルカローシス】の分類ですので,Step2で呼吸性でなければ,代謝性の異常であることがわかります.

表1 血液ガスの4分割表
呼吸性・代謝性×アシドーシス・アルカローシスにおけるHCO3,PaCO2のそれぞれの変化を示す.呼吸性とは肺で調節されるPaCO2の異常に伴う酸塩基平衡異常を指し,それに対してHCO3がサポート(代償)を行う.代謝性とは腎臓で調節されるHCO3の異常に伴う酸塩基平衡異常を指し,それに対してPaCO2がサポート(代償)を行う.代償は生理的な反応であり,無意識かつ,自動的に行われる.なお,腎臓でのHCO3の代償機構は,尿中へHCO3排泄増加・再吸収で調節するため,フルサポートとなるまでは数日~1週間程度を要するとされる.

Step3 HCO3をみて,予想が当たっているか判断する!

Step2までの段階で,○○性○○ーシスとあたりがつくことになりますが,Step3ではこの予想が正しいかどうか,HCO3をみて判断します.このときのHCO3は正常値のど真ん中である24 mEq/Lを軸に判断しましょう.多くの場合,Step3で矛盾はなく,はれてStep2での予想が正しかったとわかります.ときに,Step3でHCO3値が予想に反して上下している場合があります.これを混合性の酸塩基平衡異常といい,○○性○○ーシスと○○性○○ーシスが混合して存在していることを意味します.混合性の酸塩基平衡異常であった場合,Step2で明らかになった酸塩基平衡異常を優先して是正すると,次に隠れた酸塩基平衡異常が姿を現すことになります.

いかがでしょうか.なんとなく,読める気になりましたか? ぜひ明日(場合によっては今からでも)血ガスを読んでみましょう.難なく,4分割に分類できるハズ.あとは練習あるのみ.最初のうちは,数分間かかるかもしれませんが,慣れれば数秒で判断ができるようになります.ぜひ積極的に活用してください.

おわりに

今回は,最も簡便でわかりやすい方法として3ステップ法をお伝えしました.臨床上はこれで十分なことがほとんどだと思いますが,もっと血ガス道を突き進みたい方は,ぜひ成書に進んでみてください2〜4).きっともっと難解に,でも奥深い道を指示してくれるはず.ちまたのもっと複雑な判読法や予測式(表2)の多くは,いかに隠れた混合性の酸塩基平衡異常を一度に判読するか,に重点が置かれています.これらの予測式は,「このくらいの呼吸性○○ーシスだった場合には,HCO3はこのくらいのハズ」,「このくらいの代謝性〇〇ーシスなら,このくらいのPaCO2レベルのハズ」という代償機能を予測するものです.正常な人体の生理的機能であれば,このくらいに代償されていることを意味するものであり,この予測範囲から逸脱した場合には,その他の酸塩基平衡異常が隠れていることを意味します.日常臨床で毎回計算することはないと思いますが,エキスパートの「あれ? 代償が低すぎる・高すぎるな??」を数値化したものだと考えてください.あえて1つ選ぶなら,代謝性アシドーシスの際の予測式は押さえておくとよいかもしれません(表2の赤文字参照).気管挿管,人工呼吸の適応の判断に役立つことがあります〔「救急医的血ガス」参照〕.

表2 より詳しく知りたい方向けのやや難しい予測式

血ガス道を究めると,血ガスだけで,サリチル酸中毒を見極めたり,敗血症ショックで間違いがないハズなどと言い切れちゃったりします.そんな血ガスエキスパートをみると,カッコイイと尊敬はしますが,「でも現病歴にサリチル酸たくさん飲んだって書いてあるしなー」と心では(小声で)つぶやいています.そう,ぼくらは血ガスだけで戦うわけではなく,あくまで血ガスは武器の1つなのです.そんなわけで,もちろん一度に全部判明するに越したことはありませんが,日常臨床では3ステップ法で十分ではないかと思っています.

いかがでしたでしょうか.とりあえず,なんとなくでもよいので血ガスが読めるようになった気がしませんか? 血ガスは,とりあえず読めるようになってからがスタートライン.ここからが非常に大事でおもしろく,有用なのです.読めるようになるところには,あまり労力をかけ過ぎずに,使いこなすことに慣れていってください.それでは,各科でどのように使いこなしているのかを楽しみに,先を読み進めてみてください.

文献

1) 「世界でいちばん簡単に血ガスがわかる,使いこなせる本」(古川力丸/著),メディカ出版, 2016

2) 「SHORT SEMINARS 水・電解質と酸塩基平衡 改訂第2版」(黒川 清/著),南江堂,2004

3) 「血液ガス・酸塩基平衡教室―呼吸尾崎塾 おもしろいほどスラスラわかって臨床につかえる!」(尾﨑孝平/著),メディカ出版,2009

4) 「竜馬先生の血液ガス白熱講義150分」(田中竜馬/著),中外医学社,2017

古川力丸(Rikimaru Kogawa)
弘仁会板倉病院 救急診療部 部長
レジデントノートでの編集担当はこれで2回目.血ガス,人工呼吸,集中治療,救急とキーワードのつく書籍は,絶版モノも含めてほぼすべて入手&読破している筆者ならではの,独特な特集に仕上げてみました.血ガスの万能性,普遍性,利便性について痛感してみてください.

※本サービスに記載の診断法・治療法,ならびに著者プロフィール・所属機関等の情報は,レジデントノート2018年7月号の発行時点のものとなります.引用している診療ガイドライン等の改訂については,ガイドライン発行元学会等の最新情報を確認していただく必要があります.