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記事収録書籍

レジデントノート2021年7月号 Vol.23 No.6

絶対に見逃してはいけない画像診断8疾患

致死的な疾患を見抜くために、正常解剖と典型的な異常所見を押さえる!

藪田 実/編

定価:2,200円(本体2,000円+税)

画像診断

特集にあたって

藪田 実

当直明けにこんな連絡が…

皆さん,救急当直明けにこんな連絡をもらったことはないでしょうか.

放射線科医「先生,昨晩撮影された腹痛の患者さんのCTを見ました.カルテには“CT上では異常なし”って書いていて,患者さんを帰宅させたようですが,急性虫垂炎の所見がありました.すぐに患者さんに連絡してください」

もちろん昨晩も穴があくくらいしっかりとCTを見たはずなのに….もし,くも膜下出血や大動脈解離などの致死的な疾患を見逃してしまったらと考えると本当にゾッとします.患者さんが高齢者で,症状の表出が不十分であったり,身体所見がとりにくかったりすると,致死的な疾患を想定すらしない状況もあるでしょう.当直明けでウトウトしているときにそんな連絡をもらうと,まさに「寝耳に水」です.

どのようにしてこの“見逃し”を防げばよいのでしょうか.以前,私の編集したレジデントノート増刊1)では,下記のような方策をあげました.

① 検査目的・検査依頼を適切に記載する

② 関心領域外に予期せぬ病変が潜んでいることを常に意識する

③ 画像を1 回目に見る場合は検査目的がどのようなものであっても,ルーティンの見方ですべてをチェックする

④ 画像診断レポートは必ずチェックする

ここに1つ追加するなら,「知らないものは見えないことがある」ということです.視覚的には同じものが見えているにもかかわらず,異常所見に気づけるか気づけないかの違いの原因の1つに「知っているか,知らないか」があると思います.非常に大きな所見や派手な所見は異常所見だと認識することができると思いますが,大人しい顔つきをしているのに,実は非常に危険な異常所見だったということもあるのです.

このような「知らないもの」を異常と認識するためには「知らないもの」を「知っているもの」に変える必要があり,その作業こそが日々の診療での経験の積み重ねであったり,教科書などでの勉強なのだと思います.つまり画像診断力はやればやるだけ伸びるのです.

読影レポートは必ず確認しよう

報道などで見聞きしたことがあると思いますが,読影レポートに記載されていたにもかかわらず,依頼医がそれを認識することなく放置され,その後進行してしまった状態で悪性腫瘍などが発見される事案が頻発しています.原因の多くは読影レポートの“見逃し”です.その対策として,当院では電話やメールなどでの緊急連絡に加えて,CTについては全例でカルテレビューを行い,読影レポートが正しく診療に反映されているかをチェックし,正しく認識されていない場合は依頼医にフィードバックしています.当院の対策はとても有効なものであると思いますが,かなりの人的リソースを割いており,どの病院でも行える方法とは限らないのが現状です.やはり基本は,画像診断をオーダーしたら,必ず読影レポートをチェックすることだと思います.これは医療安全的に重要であるだけではなく,自身の画像診断能力を向上させるための近道なのです.

またわれわれ放射線科医は,読影レポートを作成するときには可能な限り簡潔な記載を心がけていますが,実際は解剖や疾患の知識と長年培った読影のコツを有機的に結合させながら画像を見ています.このような読影レポートには書いていない画像診断のエッセンスを身につけるために,興味深い症例については放射線科医とディスカッションをすることが望ましく,そのために読影室に足を運んでみることをオススメします.

おわりに

どんな画像診断の達人でも“見逃し”は必ず起こります.いわんや初学者をや,です.私も初期研修医だったころ,“見逃し”の恐怖と闘いながら単純X線写真やCTを見ていました.そして冒頭のような連絡を何度もいただきました.この“見逃し”が起こった場合,ときに患者さんだけでなく,見逃したあなたも大きなダメージを受けることがあります.今回の特集では“絶対に見逃してはいけない”疾患を8つ取り上げ,正常解剖と比較しながら押さえておくべき読影ポイントを解説しました.今回の特集が,患者さんだけでなく皆さんの安全・安心に役立つことを切に願っています.

引用文献

1) 藪田 実:序 ~画像診断の心得~.「レジデントノート増刊 Vol.22 No.2 画像診断ドリル」(藪田 実,篠塚 健/編),pp189-191,羊土社,2020

藪田 実(Minoru Yabuta)
聖路加国際病院 放射線科
当院のレジデントと話していると,医師歴16年を迎えた私のなかの“creative”が枯れつつあることを気づかされることが多いのですが,このcross-talkこそが最強のアンチエイジングではないかとも感じています.もう少し頑張らないと…

※本サービスに記載の診断法・治療法,ならびに著者プロフィール・所属機関等の情報は,レジデントノート2021年7月号の発行時点のものとなります.引用している診療ガイドライン等の改訂については,ガイドライン発行元学会等の最新情報を確認していただく必要があります.