実験医学 2017年5月号 Vol.35 No.8

臓器老化の本質に迫るステムセルエイジング

幹細胞システムの変遷と加齢関連疾患のメカニズム

  • 西村栄美/企画
  • 2017年04月20日発行
  • B5判
  • 141ページ
  • ISBN 978-4-7581-0163-9
  • 2,200(本体2,000円+税)
  • 在庫:なし
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《企画者のことば》

現在の高齢社会において,健康寿命の延伸のため,「老化」の実体解明が強く望まれている.分子・細胞・個体レベルでの研究がなされているが,老化の本質的な理解に向けては,ライフステージの進行に伴って「組織」・「臓器」レベルでの恒常性の変遷とそのメカニズムの理解が不可欠である.近年,さまざまな臓器において組織幹細胞を頂点とした幹細胞システムが臓器の再生や恒常性維持を担うことが明らかにされてきた.特に組織幹細胞とニッチの加齢変化(ステムセルエイジング)に関する研究が急速に進みはじめたことで,臓器老化の実体解明に向けての新たな糸口となっている.そこで本特集では,ステムセルエイジングという切り口から,臓器の生理的老化と病的老化,加齢関連疾患の発症,そしてその克服に向けての研究の広がりと発展性について紹介したい.

組織・臓器の恒常性を維持する組織幹細胞は、歳をとる過程でどのように変化しているのか?この視点が臓器の老化現象の実体に迫る鍵でした。様々な臓器の機能が低下する機構と加齢に伴い増加する疾患の最新知見を紹介します。

目次

特集

臓器老化の本質に迫るステムセルエイジング
幹細胞システムの変遷と加齢関連疾患のメカニズム
企画/西村栄美
概論─ライフステージに伴う組織幹細胞システムの変遷と老化【西村栄美】
現在の高齢社会において,健康寿命の延伸のため,「老化」の実体解明が強く望まれている.分子・細胞・個体レベルでの研究がなされているが,老化の本質的な理解に向けては,ライフステージの進行に伴って「組織」・「臓器」レベルでの恒常性の変遷とそのメカニズムの理解が不可欠である.近年,さまざまな臓器において組織幹細胞を頂点とした幹細胞システムが臓器の再生や恒常性維持を担うことが明らかにされてきた.特に組織幹細胞とニッチの加齢変化(ステムセルエイジング)に関する研究が急速に進みはじめたことで,臓器老化の実体解明に向けての新たな糸口となっている.そこで本特集では,ステムセルエイジングという切り口から,臓器の生理的老化と病的老化,加齢関連疾患の発症,そしてその克服に向けての研究の広がりと発展性について紹介したい.
造血幹細胞のエイジングと疾患【田久保圭誉,岩間厚志】
すべての血液細胞へと分化する能力を有する造血幹細胞は,骨髄のニッチにとどまって自己複製しながら,加齢に伴い細胞数や性質を徐々に変容させていく.本稿ではこうした造血幹細胞とそのニッチのエイジングの特徴と分子機構についての知見を紹介し,さらに造血幹細胞エイジングによる加齢関連造血器腫瘍発症のメカニズムについても紹介する.
色素幹細胞,毛包幹細胞のエイジングと白髪・脱毛【西村栄美】
加齢に伴う白髪や脱毛は,典型的な老化現象として知られている.毛包内の毛包幹細胞と色素幹細胞は,皮膚全体のなかではごくわずかな細胞集団に過ぎないが,その周期的な再生によって多くの子孫細胞を生み出し,色素をもった毛を生やし続ける.最近の研究から,幹細胞が加齢によってその運命を変えはじめると,その子孫細胞における予想外にダイナミックな動態変化と組織構築の変化を経て,器官自体が消失してしまうことが明らかになった.臓器の老化プログラムの存在に加えて,幹細胞の制御による老化の予防や治療の可能性が示唆されるようになったので紹介する.
腸管上皮幹細胞のエイジングと発がん【佐藤俊朗】
小腸・大腸の腸管上皮は3〜5日のターンオーバーで新陳代謝をくり返し,体内において最も分裂速度の速い組織である.陰窩底部に存在する腸管上皮幹細胞はこのような新陳代謝の原動力となっており,幹細胞の自己複製とともに機能的な分化細胞を生み出す.腸管上皮幹細胞は,ヘイフリック限界によって分裂回数を制限されず,一生を通して分裂し続ける.陰窩という狭い空間のなかで複数の腸管上皮幹細胞は競合的に増殖し,幹細胞機能の低下した細胞が淘汰される一方,増殖機能亢進した幹細胞が選択的な増殖を示すようになる.このような腫瘍性増殖変化は,加齢とともに蓄積する遺伝子変異が原因とされてきたが,その詳細は不明であった.近年の幹細胞研究技術の向上により,腸管上皮幹細胞の加齢に伴うゲノム変化を直接的に解析し,幹細胞の加齢を定量的に捉えることが可能になった.また,腸管上皮オルガノイド培養とゲノム編集技術を融合したゲノム-形質研究が,ステムセルエイジングの疾患発症への洞察をもたらした.本総説では,体内で最も多く分裂する腸管上皮幹細胞が,加齢という長い時間軸においてどのような遺伝学的および形質的な変化を遂げるか,最新の知見とともに概説したい.
精子幹細胞の機能的寿命の維持機構【篠原美都,本田直樹,篠原隆司】
精巣には限られた数の精子幹細胞しか存在しないが,ほぼ一生にわたり毎日膨大な数の精子を産生する.精子幹細胞は分裂休止状態で温存される造血幹細胞と異なり,精巣内で活発に分裂している.分裂回数を重ねてもその精子形成活性が低下しない能力が,長期の精子形成を可能にしている.われわれは最近,クローナル標識した精子幹細胞の動態解析にて,一個の幹細胞の機能的寿命が非常に長いことや,その精子形成活性は造血幹細胞の分裂休止とは異なるメカニズムで周期的に変動することなどを明らかにした.本稿では最新の成果を紹介する.
筋衛星細胞による骨格筋の恒常性維持機構と筋再生療法【湯浅慎介】
成体骨格筋には幹細胞として筋衛星細胞が存在し,骨格筋損傷などの際の恒常性維持に働いている.老化により筋衛星細胞は機能的に変化し,骨格筋再生能力が低下することが知られている.われわれは,G-CSF受容体はマウス胎仔骨格筋前駆細胞や成体骨格筋再生過程に発現することを見出した.慢性骨格筋疾患である筋ジストロフィーにおいては,若年期のさかんな骨格筋再生が早期に骨格筋幹細胞を老化・疲弊させてしまい,再生能力が低下するが,G-CSF投与により骨格筋再生が促されることを見出した.本稿ではわれわれの発見した知見を中心に,骨格筋幹細胞と老化・再生に関して概説する.
胸腺上皮幹細胞の早期活性低下に伴う胸腺退縮と免疫老化【濵﨑洋子,湊 長博】
免疫系は感染源からの防御とその排除に必須の生体システムである.他方近年,代謝性疾患などさまざまな加齢関連疾患の発症や病態に,免疫系の加齢変化(免疫老化)が深く関与することが明らかになってきた.免疫担当細胞のなかで最も加齢変化の影響を受けるのは免疫システムの司令塔となるT細胞であり,その主たる要因の1つはT細胞の産生臓器である胸腺組織が早期退縮することにある.本稿では,われわれが最近明らかにした胸腺退縮の基礎をなす胸腺上皮幹細胞の早期活性低下とそれに伴い末梢で増加する老化関連T細胞について概説し,各種加齢関連疾患の発症に果たすその役割と制御の可能性について議論したい.

連載

News & Hot Paper Digest
運動性線毛群が示すメタクロナールウェーブの伝播メカニズム【岩楯好昭】
単一細胞RNAseqが開く新しい世界ー刷り込み型X染色体不活性化とXist【中川真一】
細胞表層の流動によるアクチン線維の整列と細胞質分裂【木村 暁,木村健二】
最大寿命―人口動態学と細胞生物学の整合性【杉本正信】
米連邦議会議員ら,製薬企業による希少疾患薬開発支援プログラム悪用の可能性を指摘【MSA Partners】
カレントトピックス
Cre-loxPシステムを用いたゲノムの光操作技術【佐藤守俊】
体内時計によるADAR2を介したリズミックなA-to-I RNA編集はRNAリズムを制御する【寺嶋秀騎,深田吉孝】
Hippo経路の阻害は腫瘍免疫を増強することにより腫瘍を破壊する【諸石寿朗】
異種キメラ体内に多能性幹細胞由来の機能的な膵島を作製【佐藤秀征,山口智之,中内啓光】
呼吸のパターンはメカノセンサータンパク質Piezo2により調節される【野々村恵子,Ardem Patapoutian】
Update Review
亜鉛シグナリング研究Up-to-Date【原 貴史,高岸照久,深田俊幸】
クローズアップ実験法
オートファジー活性の簡便かつ定量的な測定法【森下英晃,濱 祐太郎,水島 昇】
挑戦する人
留学とMBAから始まった医療版IoTへの挑戦!【猪俣武範】
つながる、産と学の手
新たな連携①ーオープンイノベーションプラットフォーム:LINK-Jによる新たなライフサイエンス産業の創造【岡野栄之】
予防医学の扉を開く 食品に秘められたサイエンス
ビタミンによる脳機能制御【喜田 聡】
ラボで実践! コミュニケーション術
「教員になったのですが,学生とうまくいきません…」【竹本佳弘】
Campus & Conference 探訪記
同じ釜の飯を食おう!!ー第28回さんわか(産学官若手交流会)セミナー【石丸喜朗】
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サンフランシスコ研究留学―出産・育児も経験してーUniversity of California, San Francisco【磯部紀子】
Opinion
研究費獲得にクラウドファンディングという選択肢を【池田明加,川出野絵】

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