がん抑制遺伝子として細胞増殖・老化・死など多彩な生命現象を司るp53.一方でがん促進的な側面も持つことが明らかに.p53の新たな機能と多様な働きを状況に応じて発揮する機序,さらに臨床応用をめざした研究の最前線をご紹介!
目次
特集
知られざるp53の肖像
がん抑制/促進の二面性からアイソフォームの機能、標的遺伝子の選択機構まで
企画/大木理恵子
概論─古くても,まだまだ新しい,最も有名ながん抑制遺伝子p53【大木理恵子】
おおよそ40年前に発見され,いまだに多くの研究者を惹きつけているがん抑制遺伝子p53.著者もp53に魅了された一人であり,20年にわたってp53研究に携わっているが,この多彩な機能をもつ遺伝子に飽きることはない.がん研究者ではなくとも,知らない人がほとんどいないほど有名な遺伝子であるが,p53の機能となると意外にきちんと理解している研究者は少ないのではないだろうか.概論ではp53の基本機能から,p53研究の歴史,そしてこれからのp53研究について紹介する.各論ではさらに広がるp53のがん抑制にとどまらない新たな機能と,p53の多彩な機能がいかに制御されているかについて,フォーラムでは臨床応用されているp53研究について解説する.
標的遺伝子の網羅的探索から見えてきたp53の新機能ーヒストンシトルリン化を介したクロマチン構造制御【谷川千津】
1979年にp53が発見されてから,これまでに報告された標的遺伝子は100を超える.一方現在もなお,新規標的遺伝子が次々と同定され,p53のがん抑制機能の全貌は拡大中である.本稿では,われわれの研究室で最近明らかとした新規p53標的遺伝子のなかから,細胞内鉄濃度の制御にかかわるISCUと,アルギニン生合成の制御に関わるASS1,さらにヒストンのシトルリン化によりアポトーシスの最終過程を促すはたらきを持つPADI4について概説する.
p53の新たな細胞保護・がん化促進経路ー腫瘍にとって有益な新規p53標的遺伝子IER5の同定と機能解析【川瀬竜也,大木理恵子】
がん抑制遺伝子p53の標的遺伝子として新たに同定されたIER5はHSF1とPP2Aの三者複合体を形成してHSF1の抑制性リン酸化修飾を脱リン酸化することによってHSF1を活性化し,HSPsを誘導することが明らかとなった.さらにIER5はさまざまな腫瘍で高発現が認められ,足場非依存性増殖に寄与することや,複数の腫瘍における予後不良因子であることなど,p53の標的遺伝子であるにもかかわらず,腫瘍にとって有益な役割をもつ遺伝子であることが明らかとなった.これらの最新知見に関して概説する.
p53はDNA損傷やがん遺伝子発現などさまざまなストレスによって活性化され,多彩な機能を発揮する.しかし,DNA損傷による急性活性型p53が必ずしもがん抑制機能をもたないことが,マウスの遺伝的研究から示唆されている.したがって,p53のがん抑制作用を理解するためには,細胞の状況・表現型に合致したp53機能の探索が重要である.われわれは,DNA損傷およびがん遺伝子ストレスによって誘導されるp53 を急性・慢性活性型という観点で分類し,慢性活性型p53 ターゲット遺伝子のデータベースを作成した.
細胞老化の誘導・維持におけるp53の機能【城村由和,中西 真】
ヒトの正常細胞を試験管のなかで培養するとある一定回数の分裂の後に増殖を停止するが,この現象を細胞老化とよぶ.老化した細胞は,試験管内で長期に生存することが可能であるが,いかなる刺激に対しても二度と増殖を再開することはない.細胞老化は個体において加齢性変化を誘導することや,発がん防御機構の1つとして機能することが提唱されている.しかしながら,これまで細胞老化誘導機構や,老化細胞の維持機構についてはほとんどわかっていなかった.本稿では,われわれの最近の知見を中心に,p53による細胞老化誘導・維持機構について紹介する.
p53 mRNAおよびp53アイソフォームの新たな機能【田村直紀,Marco M Candeias】
p53は,細胞の多能性,分化,分裂,細胞周期や細胞死,細胞ストレス,感染,疾患への応答などを制御し,生物における生殖,代謝,再生,加齢,寿命などのメカニズムを調節する.これらの生理機能において,full-length p53(全長p53,FLp53)だけではなく,p53 mRNAやp53アイソフォームの働きが不可欠であることが,近年解明されてきた.本稿では,p53 mRNAおよびp53アイソフォームの新たな機能に関する研究を概説し,おのおののp53アイソフォームに特異的な機能の解析手法やデータ解釈,今後の展望等について述べる.
世界最前線レポート−バイオ立国を目指すシンガポールでのp53 workshopー主催者の一人として参加して【板鼻康至】
【フォーラム】臨床応用されるp53研究―現状と今後の課題
血清p53抗体の測定によるがん診断の現状【島田英昭】
進化するp53遺伝子を用いたがんウイルス療法【藤原俊義】
核小体によるp53制御とがん治療薬開発の新展開【河原康一,古川龍彦】
野生型・変異型p53を標的とした抗がん剤の現状【滝川雅大,大木理恵子】
連載
News & Hot Paper Digest
ヒストンH3のメチル化抑制が脂質代謝を介して線虫を長寿にする【黒川理樹】
覚醒を促進する呼吸制御中枢のニューロン【宮道和成】
求む!キラーT細胞ー腫瘍内部へと導くメカニズム【柏木 哲】
GCリッチな反復配列を含むRNA分子の相転移が神経疾患の原因となる?【古久保哲朗】
CRISPR/Cas9技術を用いたハンチントン病治療の可能性をマウスモデルで実証【MSA Partners】
カレントトピックス
オーバーラッピングダイヌクレオソームの立体構造と形成機構【胡桃坂仁志,加藤大貴,越阪部晃永】
多能性幹細胞における,標的CpGアイランドへの新規DNAメチル化誘導【高橋悠太,Juan Carlos Izpisua Belmonte】
脳梗塞後の無菌的炎症とその収束のメカニズム【七田 崇,吉村昭彦】
シミュレーションによるゴルジ体の自己組織化的な形成過程【立川正志,望月敦史】
Trend Review
創薬に懸ける~日本発シーズ、咲くや?咲かざるや?
クローズアップ実験法
CD63-GFPトランスジェニックラットによるエクソソーム追跡【吉村 文,落谷孝広】
Update Review
予言するシミュレーション
神経細胞間の信号伝達効率:どのように制御されるのか?【市川一寿】
Campus & Conference 探訪記
食欲・食嗜好研究の世界動向を知る―キーストンシンポジアー食欲・代謝・体重の神経制御/代謝の消化管制御の分子細胞生物学【松居 翔】
ラボレポート留学編
新たな出会いが人生を変えていくーDepartment of Genetics, Albert Einstein College of Medicine【能丸寛子】
Opinion
“踊る”研究者をめざしてみませんか?ーダンスと科学研究の相互作用【Contu Viorica Raluca】
バイオでパズる!
関連情報
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