プロテオミクス解析は創薬研究になぜ有効?どう役立つ?飛躍的に進展する解析技術の効果的な活かし方を幅広く紹介.研究の流れがわかるフローチャート,研究の実例,解析のコツも多数掲載した実用性重視の一冊です.
『第I部 原理編 8.Selected Reaction Monitoring (SRM) を用いた定量的フォーカストプロテオミクス(上家潤一)』より抜粋
生命科学においてタンパク質発現量は,機能に直結する重要な情報である.また,バイオマーカー探索においては,候補タンパク質の検証法として,定量解析が必須である.タンパク質科学分野では,SRM を用いたタンパク質定量法が高感度な定量法として用いられてきた.従来SRM はタンパク質の個別定量法であったが,近年の三連四重極型質量分析計の発達により,定量プロテオミクスの有用なツールに発展した.本定量法は,バイオマーカー候補タンパク質の検証法としてだけでなく,ショットガン法では検出されない微量な標的タンパク質のスクリーニング法としても注目されている.本稿では,近年目覚ましい発達を遂げているSRM を用いた定量フォーカストプロテオミクスについて紹介する.
薬学領域では低分子化合物の定量法として,既知量の内部標準物質を試料に添加し, 三連四重極型質量分析計のSRM モードを用いて測定する手法が古くから用いられている.同様の発想で,安定同位体標識タンパク質を内部標準としてタンパク質の定量が行われている.従来SRM は個別のタンパク質定量法であったが,近年の三連四重極型質量分析計の発達によりSRM で同時分析できる分子数が数十〜数百へと飛躍的に増加し,多数のタンパク質を対象とする定量的フォーカストプロテオミクスが可能となった.質量特異的に標的ペプチドを検出するSRM は,生体試料における微量分子の解析に有用であり,ショットガン法では同定が困難であった微量タンパク質の大規模定量解析が実現している.
ショットガン法と異なり測定対象をあらかじめ決めて解析を行うSRM では,高感度なペプチドの選択が重要である.われわれを含めて複数の研究グループが高感度なペプチド配列の予測法の確立を行っており,標的タンパク質の遺伝子配列情報からSRM を用いた定量法を構築することが可能となっている.現行のペプチド選択法にはまだ課題も多い.しかし,配列情報からタンパク質定量法を構築する技術は簡便な定量プロテオミクスとして普及していくと考えられる.
図1 に三連四重極型質量分析計のSRM モードの原理を示した.3つの四重極のうちQ1 で特定質量の プリカーサーイオンを選択し,コリジョンセル中で解離し生成したプロダクトイオンのうち,さらに特定イオンのみをQ3 で選択し検出する.このモードでは二重の質量フィルターをかけることで大幅にノイズを低下させ,非常に高いS/N 比を実現している.夾雑物中の微量成分の検出に有効な測定法である.プリカーサーイオンと プロダクトイオンの組み合わせ( SRM transition)を高速に切り替えることで多分子測定を行う.
現在行われている質量分析を用いたタンパク質解析法では,タンパク質をトリプシン等の酵素で消化して得られるペプチド試料を解析対象としている.したがって,(大抵は微量な)標的タンパク質由来のペプチドを膨大な種類のタンパク質から生じたペプチド群の中から特異的に検出する必要がある.SRMの高い選択性を生体試料中のペプチド測定に応用することで,膨大なノイズ情報の中から対象ペプチドを検出することが可能である.
SRM は質量依存的に測定対象を絞るために夾雑物の影響が少なく,高感度定量解析に適した測定法である.図2 にSRM によるタンパク質定量法の概要を示した.質量分析法ではペプチドの種類によってイオン化効率が異なるために,スペクトルのシグナル強度のみから直接定量することは困難である.そのため,安定同位体標識ペプチドを内部標準とした定量法が用いられる.
前処理,LC 分離および質量分析の全過程において理想的な挙動を示す内部標準物質は,対象タンパク質と同配列の安定同位体標識タンパク質である.しかし現状では高純度な安定同位体標識タンパク質の大規模な合成が技術的,価格的に困難であり,一般的には対象タンパク質の酵素消化ペプチドが内部標準として用いられている.既知量の安定同位体ペプチドを試料に添加し,LC 保持時間と質量値から対象ペプチドのシグナルを同定し,シグナル強度の比から試料中の対象ペプチドを定量する.安定同位体標識ペプチドと非標識ペプチドセットをSRM で測定することで,複雑な生体試料中のタンパク質由来のペプチドを,f mol からp mol レベルで定量することが可能である.
ペプチドを内部標準とする場合,LC 分離直前の試料に内部標準を添加するために酵素消化効率および前処理ステップの吸着等による試料の損失が補正されないという課題がある.この課題を克服するために,酵素切断部位を含むリファレンスペプチドを前処理過程の最初の段階に添加して測定する等の工夫がなされている.
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