書 評
井上善文
(大阪大学国際医工情報センター 栄養ディバイス未来医工学共同研究部門)
私が書きたかった本を先に書かれてしまった,と思いながら読んでみた.1回目:私が書いたらここまで親切な内容にはならなかった,2回目:確かに1年目からの医師にわかりやすく書かれている,3回目:きちんとした栄養学と生化学の基礎のうえに書かれている,と実感した.略歴には記載されていないが,著者の栗山先生は徳島大学医学部栄養学科を卒業した管理栄養士でもある.栄養に関する基本を土台として,医師として臨床栄養学を極めた,栄養療法の真のエキスパートである.「本物の臨床栄養学の専門家が書いた本である」,まずはこれを「この本を推奨する理由」とする.
私は,現在,日本の臨床栄養の領域で最もよく使われている「静脈経腸栄養ガイドライン第3版」の編集責任者で,栗山先生も作成メンバーであった.きちんとした原稿を書いていただき,ガイドライン作成に対する気合の入り方が違うと感じていた.このガイドラインの後継書として出版した「静脈経腸栄養ナビゲータ」では8項を執筆していただいた.福井県立病院での延べ50,000症例の経験だけでなく,学術的知識に裏付けされた信頼できる内容で書いていただけると確信していたからである.
本書「医師1年目からのわかる、できる! 栄養療法」は本当に実践的な内容で,経腸栄養法では実際に使用している経腸栄養剤の組成,投与量などを具体的に解説してくれているし,静脈栄養法では,TPNキット製剤を使えばいい,そんな雰囲気の現状に対し,TPNキット製剤の組成を考慮して体重別の使用方法を解説している,ここは非常に重要なポイントである.記載されている方法をそのまま実施すれば,適正な栄養管理が実施できるはずである.
提示されている症例はご自身の経験に基づいているため,浮ついた,単なる解説書ではないことがわかる.最後のページの〔おわりに〕に「この1冊を読み終えた医師に担当される患者さんは,きっと幸せです」と書かれているが,私もそう思う.間違いない.本気で読み切ってください.