第4章 風邪
風邪とは
「風邪」とは、主にウイルスに感染して起こる上気道(鼻や喉)の感染症のことです。通常、「ただの風邪」では発熱に加えて、鼻水・鼻づまり、咳、喉の痛みといった3つの症状がだいたい同じくらいのタイミングで、同じくらいの強さで現れま
ただし、「風邪」だと自己判断したなかには、肺炎や結核、脳梗塞など危険な病気がよく紛れ込んでい
すぐに病院受診を
- 呼吸が1分間に25回より多い(肺
炎 など) - 発熱と咳があって、1日中痰が出る、寝汗がひどい(肺
炎 など) - 咳で胸が痛む、痰に血が混じる、体重が減った(肺炎、結核)
- 座った状態でアゴが胸につかない、下を向きにくい(髄膜炎、くも膜下出
血 ) - 喉に痛みがあって、口を開けにくい(扁桃周囲膿瘍、喉頭蓋炎)
- 日に日に悪化している(重症化)
- 鼻水や喉の痛みといった症状がなく、咳だけがひどい(肺炎、結核、百日咳など)
- 鼻水や咳の症状がなく、喉の痛みだけがひどい(扁桃周囲膿瘍、A群溶血性レンサ球菌咽頭
炎 など) - (子どもの場合)反応が鈍い、水を十分に飲まない、肌の色が悪い、抱っこを嫌がるほどイライラしてい
る
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セルフメディケーションのポイント
どうしてもつらい症状は薬で抑えつつ、ゆっくり休もう
「風邪」は、ウイルスの感染を避けることで予防できます。そのため、外から帰ったときや何かを食べる前には石鹸で手をきれいに
もし風邪をひいてしまった場合には、休むのが基本です。休養の妨げになるようなつらい症状がある場合には、その症状を一時的に和らげる目的で薬を使うこともありますが、薬は風邪の根本的な治療にはならないこと、薬を飲んでも風邪が早く治るわけでは
病院でも、セルフメディケーションでも、できることは同じ
現在のところ、「風邪」の特効薬は存在しません。そのため、病院を受診しても、セルフメディケーションを選んでも、できる対処は “どうしてもつらい症状を薬で抑えつつ、ゆっくり休む” で全く同じです。その際、発熱やくしゃみ・鼻水、鼻づまり、咳、痰……といった風邪の症状に使われる薬も、医療用医薬品と市販薬とでほとんど違いはありません。病院を受診しなければ「抗菌薬(抗生物質)」は処方してもらえない、と思っている方もおられますが、基本的に風邪に抗菌薬を使う必要はありません(145ページ)。点滴にも、特別な薬は入っていません(136ページ)。
そのため、風邪のときに病院を受診する主な目的は、薬をもらうことではなく、「風邪のようで風邪でない危険な病気でないかどうか」を確認してもらうことにあります。このことから、 “危険な病気である可能性は低そう” “明らかに風邪らしい” 、ということが自分でも確認できれば、病院を受診しなくても問題ありません。
「手洗い」は原始的な感染対策なので、効果は期待できない?
「手洗い」は原始的な感染対策だとおろそかにされがちですが、実際に風邪やインフルエンザの発症を減らすことが確認されている、確実に効果のある感染対
また、抗菌の石鹸を使うメリットは特にな
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「うがい」は風邪の予防になる?
水道水による「うがい」で、風邪を防げるという報
また、緑茶による「うがい」も時々話題になりますが、水道水を大きく上回るような効果はなさそ
消毒薬や塩素系物質を噴霧すると、感染予防になる?
なりません。むしろ消毒液の空間中への噴霧は、効果が認められていないだけでなく人体に有害であるため、推奨されていませ
また、二酸化塩素によるウイルス除去や空間除菌をうたう雑貨も数多く販売されていますが、こうしたものには感染予防の効果はないという研究結
なお、こうした “雑貨” を「感染対策」として販売するのは、薬機法違反です。
ここが知りたい!
風邪薬を飲めば、風邪は早く治りますか?
症状を抑えることはできますが、風邪が早く治るわけではありません。
風邪の原因と風邪薬の成分
総合感冒薬(風邪薬)には、熱や痛み(頭痛や関節痛、筋肉痛、喉の痛み)に対する「解熱鎮痛薬」、くしゃみや鼻水に対する「抗ヒスタミン薬」、咳に対する「鎮咳薬」、鼻づまりに対する「血管収縮薬」、痰に対する「去痰薬」、息苦しさに対する「気管支拡張薬」など、症状を和らげるための成分がたくさん配合されていますが、風邪の原因ウイルスを退治できるような成分は配合されていません。そのため、総合感冒薬を飲んでも、風邪の根本的な治療とはなりませんし、風邪が早く治るわけでもありま
総合感冒薬の目的は、あくまで風邪に伴う不快な症状、つらい症状を和らげることです。つまり、風邪をひいたからといって必ず飲まないといけない、風邪をひいている間は飲み続けないといけない、といったものではなく、ゆっくりと休むのに支障があるようなつらい症状がある場合にだけ使うものだ、と覚えておきましょう(表1)。
「ビタミンC」は風邪の予防になる?
「ビタミンCを摂ると風邪をひきにくくなる」という俗説がありますが、実際に1日200ミリグラムのビタミンCをサプリメントで摂取している人は風邪の罹病期間が少し短い、という研究結果がありま
ただ、せっかくビタミンCを摂るのであれば、サプリメントよりも果物を食べる機会を増やした方が、季節や美味しさも味わえてお得かと思います。
風邪薬は、副作用も少ない安全な薬ですか?
たくさんの成分が配合されているので、副作用はむしろ多い、あまり安全ではない薬です。
配合されている成分が多い分、副作用も多い
日本ではテレビコマーシャルなどの影響で、総合感冒薬(風邪薬)を「安全な薬」だと考えている方も多
そもそも薬というものは、当てずっぽうでたくさん飲むものではありません。総合感冒薬に配合されている成分は、いずれも別々に単独の薬としても販売されています。可能な限り、自分の症状に合った薬だけを選んで使うようにしてください(表1)。
特に、後述の「注意が必要な人(147ページ)」の条件に当てはまる方は、総合感冒薬によって思わぬ副作用に見舞われる恐れがありますので、注意してください。
風邪薬は、どんなときに使うアイテムですか?
風邪による熱や痛み、くしゃみ・鼻水、咳などの症状をすべて薬で何とかしたい、個別に薬を選んでいる余裕がない、風邪薬の成分がハイリスク(147ページ)ではない、の3つの条件がそろった場合には、よい選択肢になります。
総合感冒薬(風邪薬)の長所と短所
「総合感冒薬」の最大の長所は、いろいろな成分が配合されているという便利さです。これ1つで熱や痛み、くしゃみ・鼻水、咳の症状すべてに対応できるため、これらの症状すべてに困っているときや、薬を細かく選んでいる余裕がないときには、非常に便利です。
一方で、いろいろな成分が配合されていることは短所にもなります。「総合感冒薬」を安易に選ぶと、熱は高くないのに解熱鎮痛薬を飲む、咳にはあまり困っていないのに鎮咳薬を飲むといったように、本来は自分に必要のない薬まで飲むことになります。場合によっては、自分にとってきわめてリスクの高い成分(147ページ)をうっかり飲んでしまう恐れもあります。できるだけ、自分にとって安全かつ必要な薬だけを選んで使うことをお勧めします(表2)。
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