偶発症や感染の予防・対処法など,安全管理の必須知識がこの1冊で効率よく学べる!豊富な写真と図表で,重要ポイントが一目でわかり,すぐに現場に活かせる実践書.内視鏡を扱う全てのスタッフにおすすめ!
内視鏡的逆行性胆膵管造影法(endoscopic retrograde cholangiopancreatography:ERCP)は消化器内視鏡検査のなかで最も熟練を要し,偶発症の頻度も高い検査である.しかし胆膵疾患の確定診断にはいまだERCPが不可欠な症例も多く,また関連手技による治療的役割はますます重要となってきている.ERCPの偶発症には膵炎,出血,穿孔,胆道感染などがあるが,術者の技量と注意により予防できるものと,患者側の要因により避けられないものとがある.ERCPを施行する際は,適応症例に十分なインフォームドコンセントを得たうえで行うこと,偶発症の危険因子を十分に理解しておくこと,できうる予防処置は行っておくことが重要である.
—中略—
ESTに伴う出血は術中出血と3~5日後に起こる後出血がある.ほかの消化管出血に比べると,乳頭部出血は良好な視野を確保しにくいため止血処置に難渋する症例が多い.また止血処置に伴う膵炎・穿孔を併発することもある.できるだけ出血させないESTの技術を習得するとともに,術前に抗血栓療法薬内服の有無や出血凝固能をチェックしておかなければならない.特に急性閉塞性化膿性胆管炎合併例では播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation:DIC)やショックにより出血凝固能異常をきたしていることも多く,そのような症例ではESTをせず胆道ドレナージに留めることも重要である.
在ESTはICC200(ERBE社製)によるエンドカットモード,ESG100(OLYMPUS社製)によるパルスカットモードを使用している施設が多い.エンドカットは切開が自動制御されるためジッパー現象が少なく,切開時の出血も少ない.しかし後出血の頻度は低下しておらず,過通電は凝固電流による膵炎を惹起しかねない.最近の高周波装置〔PSD60(OLYMPUS社製)のオートカット,VIO 300D(ERBE社製)のドライカット〕は,エフェクトを上げることにより切開波でも出血しにくく,ESTにも有用なモードである.
ESTによる出血は切開速度が速すぎたり,切開方向が正中から左右にずれたりする場合に起こりやすい.Stolteの乳頭動脈叢理論によれば,乳頭へ向かう動脈は後壁側に多く,口側隆起正中は一番血管が少ない.切開方向がわからなくなった場合は,口側隆起頂部をゆっくり切っていくのが安全である.
術中に動脈性出血をきたすことは稀であり,にじみ出る(oozing)レベルの静脈性出血のことが多い.多少の出血がみられても処置に支障をきたさなければ続行可能であり,大半は終了時に止血していることが多い.
止血処置の順番としては,①エピネフリン加生理食塩水の散布,②バルーンカテーテルによる圧迫止血(図3),③高張エピネフリン加生理食塩水の局注,④ヒートプローブ,⑤クリッピング,⑥純エタノール局注であるが,⑤,⑥は止血処置による膵炎・穿孔をきたすこともあり,実施にあたっては十分注意しなければならない.
後出血の頻度は少ないが,ひとたび出血すると吐下血やショックをきたすことがあり,また止血術に難渋することが多い.止血処置方法は術中出血に準ずるが,高張エピネフリン加生理食塩水局注かクリッピングが選択されることが多い.
止血処置の基本は出血点を十分に確認することである.上部消化管止血の際に用いる送水機能付き直視型スコープ Q260J(OLYMPUS社製)の先端にアタッチメントを装着することにより,止血点の確認が容易になることが多い.また同スコープは鉗子起上装置を有さないためクリッピング操作も後方斜視型十二指腸スコープTJF(OLYMPUS社製)より容易なことが多い(図4).
穿孔は大別すると,①スコープ挿入による十二指腸球部~下行部の穿孔,②ESTによる後腹膜穿孔,③EST後の処置具挿入に伴う胆管穿孔がある.特に傍乳頭憩室症例や出血で開口部確認が不十分な症例では胆管穿孔をきたしやすい.
後腹膜穿孔の早期診断には,術中右腎周囲に不自然なガス像が出現しないか注意することが重要である.消化管内のガス像は経時的に動くが,後腹膜のガス像は移動せず,徐々に明瞭になることで鑑別可能である.胆管穿孔に伴う胆管周囲のガス像の認識は困難であるが,胆管周囲に線状の造影剤漏出を認めることで気づくことが多い.
市販されているバスケットカテーテルやバルーンカテーテルの一部は,先端が硬く直線的なデバイスがあり,これらを挿入する際は特に胆管穿孔をきたしやすいので注意を要する.
スコープ挿入による穿孔の多くは緊急手術を要するが,症例によってはクリッピングで改善する症例もみられる(図5).
一方,ESTおよび処置具挿入に伴う後腹膜穿孔・胆管穿孔は保存的治療により軽快する症例が多い.術中後腹膜穿孔が判明したら経鼻胆管ドレナージ(endoscopic nasobiliary drainage:ENBD)ないし胆管ステントを留置し,3~7日間絶食,抗生物質投与の保存的治療を行う(図6).しかし保存的治療で改善傾向がみられない症例,腹腔内や後腹膜腔への液体貯留,著明な腹膜刺激症状を伴う症例,膿瘍が疑われる症例では時期を逃さず,緊急外科手術に踏み切らなければならない.
スコープ挿入に際しては,ブラインド操作を避け,十二指腸管腔を確実に見ながら挿入することが重要である.またESTに際しては,胆管方向に沿って少しずつ切開すること,大切開を避けることで穿孔のリスクは軽減する.ESTが不十分な症例,内視鏡的乳頭バルーン拡張術(endoscopic papillary balloon dilatation:EPBD)施行例,傍乳頭憩室症例では,ガイドワイヤー誘導式の切石デバイスを用いるのが安全である.
バスケット嵌頓は稀に起こる偶発症であり,対処法としてエンドトリプターが有用である(図7).通常は大結石,硬い結石,小切開で起こりやすいとされているが,単発,10mm未満,大切開症例でも膵内胆管でバスケット嵌頓をきたすことがある.胆管炎合併例では胆管造影を少量に留めることが多く,膵内胆管が細いことに気づかない症例も多い.結石除去に際しては常に胆管径と結石径のバランスに注意する必要がある.
胆管切開方向はよく「11時」といわれているが,はたしてそうであろうか?ガイドワイヤー式パピロトームを用いたESTで注意深く観察するとわかるが,開口部から口側隆起中程までは11~12時方向,口側隆起上縁付近は12~1時方向に向かうことがわかる.したがってESTも単に「11時方向に切る」というのではなく,「胆管方向に切る」という言い方が正しいのではないかと思う.
—後略—
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