慢性肝炎の治療とマネジメントがよくわかる!肝硬変や肝癌を防ぐための外来フォロー,栄養管理についても,根拠や処方例を示して具体的に解説.豊富な図表で重要ポイントがわかりやすく,全ての臨床医におすすめ!
わが国には現在200 万とも300 万ともいわれる数の肝臓病患者がいる.そして,毎年4万人近くの患者が肝臓病で死亡している.先進国中この数は突出しており,したがってわが国において,肝臓病は専門領域を問わず日常診療でよく遭遇するcommon disease であるといえる.第2章までに述べられたように積極的な抗ウイルス療法の導入,あるいは肝庇護療法による病態進展の予防を行うことで肝硬変や肝臓癌の発生を抑制できる時代に突入している.
治療の多くは肝臓専門医によって行われているが,一方で,上述したように日常診療において肝臓病患者に遭遇する機会は多く,その際にこれを見逃さず,いかに必要な診療体系,あるいは治療システムにのせていくのかはかかりつけ医や肝臓病を専門としない医師の認識の差に依存するところが大きい.また,抗ウイルス療法などの治療以外の診療をかかりつけ医や肝臓病を専門としない医師が担当する機会も多く,より生活に密着した形で診療を行うこれらの医師にとって,慢性肝炎患者の指導は重要な役割のひとつと思われる.本稿では,これらの慢性肝炎患者をどのように指導するのかについて,日常生活上の注意事項を含めてまとめてみる.なお,食事についての詳細は第3章- 4)C 型慢性肝炎患者の食事指導を参照されたい.
慢性肝炎患者の多くは無症状であり,検診や他疾患で医療機関を受診した際に偶然ウイルス感染を発見されて紹介されることが多い.マスコミを中心にした啓発活動の成果もあって,治療が必要であるという認識が一般にも広まってきてはいるがまだ十分とはいえず,また診療ガイドラインは毎年改訂されており,他疾患のガイドラインにも目を通す必要のある一般臨床医にとって,これをキャッチアップしていくのは大変かもしれない.これらを考えると,慢性ウイルス性肝炎を診た場合は,今後のフォローアップ方針や治療の是非について,一度専門医を受診させた方がよい.専門医にて治療方針が決定された後はその方針にしたがって治療,もしくはフォローアップのスケジュールを設定する.
診療ガイドラインに沿って考えたときに,無症候性キャリアと判断されたものは,3~6カ月ごとのフォローアップを受けることになるが,このフォローアップが途切れないように配慮をすべきである.C 型肝炎については,肝機能が正常(ALT < 30 IU/L,血小板数 15 万以上)の患者でも,経過フォロー中にALT の上昇をみるものがほとんどであり,また,病態としても炎症が持続していることが多い.図1は当院で肝生検を施行したPNALT(persistent normal ALT)症例の生検結果の内訳であるが,90 %以上の患者については肝組織上,何らかの変化が現れており,これを裏付けている.抗ウイルス療法や肝庇護療法を継続している患者の場合,通院継続は至極当然であるが,キャリアとしてフォローする場合も途切れず受診を続けるように指導する.
さらに,治療が必要な患者については,治療の必要性についてよく説明し,専門医受診を勧める.治療に伴う経済的負担を不安視する患者もいるため,治療費助成制度による公的サポートの存在を伝える.また,最近は多くのメーカーから患者指導用の資料が作成,配布されており,これを利用することで患者の理解を深め,治療意欲をもたせるなどの工夫が可能である.
インターフェロン(IFN)治療を拒否したC 型慢性肝炎患者に対し,IFN 療法を行わず,肝細胞癌の早期発見の検査を怠った過失により死亡したとして,担当医が敗訴になるという判例がある.HCV 抗体陽性患者が存在したら,HCV RNA 検査によりウイルス感染の持続を確認したうえで,患者に治療を勧める,あるいは専門医への受診を勧告すべきである.また,このこれらの事柄についてカルテにきちんと記載しておくこと.
C 型慢性肝炎患者に抗ウイルス療法を勧める際に注意するのは,1回の診察ですべてを決めてしまわないことである.患者の病気の状態,推奨される治療,その効果と副作用,治療を行わないときの不利益について時間をかけて説明し,自宅に持ち帰ってよく考え,家族と相談する時間を与える.
一方で,抗ウイルス療法が奏効し,SVR を得た症例はどのようにすべきであろうか.抗ウイルス療法は明らかに病態の進行を抑制し,肝発癌を抑制するが,0になるわけではない.特に抗ウイルス療法開始時にすでに線維化が進行している症例や,高齢者の場合はウイルス排除に至っても発癌に至る可能性が高い.このため,抗ウイルス療法終了後も引き続き画像検査などで早期に肝癌を発見するためのサーベイランスを継続する必要があり,このことは治療中から患者に対してよく説明されるべきである.
さらに,何らかの理由で抗ウイルス療法が行えなかった症例,あるいは抗ウイルス療法によってもウイルス排除が得られなかった症例については,肝庇護療法にて積極的に肝機能の安定化を目指すが,これらは多くの場合長期間・頻回の注射,外来通院を要する.これらの治療の必要性についてよく説明し,また定期的な画像検査受診の必要性を説明する.
B 型肝炎患者については,核酸アナログなどの抗ウイルス療法を受けている患者については,治療の中断による肝炎の再燃などのリスクについてよく伝え,通院を継続することの必要性を強調する.また,無症候性キャリアのうち,HBV DNA が低値であり,HBe 抗体が陽性の症例でも経過観察中にウイルス量の増加,肝炎の再燃をみることを経験するため,これらの比較的low risk と思われるキャリアでも,6カ月に1回程度の受診を継続するように指導する.
病識に乏しく,専門医受診を勧めてもなかなか受診しない者がいる一方,患者によっては,非常に病識の高い者も多く,自分でインターネットを調べたり,いろいろな本を読んだりし,治療法に関しても積極的に考える者が増えてきている.ただし,この場合に逆に知識が増えすぎてしまって自分自身で整理ができなくなってきていることがあり,この交通整理をするのも医師の役割であるといえる.
以上のように,慢性肝炎患者に関しては,現在安定しているからといって「問題なし」との判断を容易に与えると,患者によっては「通院は不要」と解釈する者もあることから,定期的な通院の必要性について説明し,自分の専門外であるならば,専門医(消化器内科医,肝臓専門医)への紹介を促し,適切なフォローアップ,治療へと結びつけるようにすることが重要である.
慢性肝疾患患者の運動量について具体的な運動強度についての設定について根拠をもって示された報告はない.慢性肝炎と一言でいっても,病態的にはかなりの幅があり,ほとんど肝機能には影響のない無症候性キャリアから,代償性肝硬変に近い状態のものまでさまざまであるため,一様には運動量について決められない.しかし,おおむね以下のような内容で指導を行う.患者に肝疾患の状態について把握をさせることが重要である.
運動制限の必要はない.近年の研究の結果,特にC 型慢性肝炎と内臓脂肪,肝脂肪化の関連について知られるようになった.軽度の運動やカロリー制限による内臓脂肪の減少は肝機能データの改善につながることが示されており,むしろこの状況では積極的に運動を勧めてよい.
特に強い運動制限は行わないが,翌日などに強い疲労感が残るような激しい運動を避ける.
仕事についてもほぼ上記と同様に考えてよく,デスクワーク主体の仕事の場合には特に業務を中止,あるいは短縮させる必要はない.肉体労働を伴う場合,内容の強度によっては制限させる必要が出てくるが,これはケースバイケースである.中等度以上の肝硬変患者の場合,通勤ラッシュなどにおいて立ちっぱなしでいることは避け,座るようにした方がよい.
高度に進行した肝硬変患者の場合,食後20 ~30 分ほどは横臥した方がよいとされているが,慢性肝炎,あるいは軽度の肝硬変の患者については食後すぐ動くのではなく,20 ~30 分程度安静にしてリラックスする時間をとるとよい.入浴に関しては高度進行肝硬変患者以外では特に制限はないが,熱い湯に長湯をしないことが望ましい.
代償性肝硬変患者や,比較的線維化の進行した慢性肝炎患者のなかには,夜間などに下腿を中心にした筋肉の痙攣(=こむら返り)を経験するものがいる.一般的にこむら返りは,多量発汗,下痢,脱水などによって誘発される,高ナトリウム血症,低カリウム血症,低カルシウム血症などの電解質異常や,ビタミンB1欠乏状態の際に神経や筋肉が興奮しやすくなるため起こるとされている.
また,運動負荷により筋肉内に蓄積した乳酸とアンモニアによる筋肉細胞の酸性化により,神経筋接合部での膜不安定化が起こり,興奮性が増す結果とも考えられている.肝疾患患者にこれが多く起きる理由は明らかになっていないが,われわれは肝疾患モデルラットを使った実験から,運動負荷によりこれらのラット筋肉中のBCAA濃度,タウリン濃度の低下が起こることを明らかにした1).さらに,ラットにタウリンの投与を行うことにより筋疲労が改善することを示した2).これらの基礎的データに基づき,こむら返りを呈する肝硬変患者12名に1日6gのタウリン投与を行ったところ,8名の患者について,こむら返りの消失,症状軽減をみた3).BCAA製剤の投与についても同様の報告があるが,BCAA顆粒は保険診療上肝硬変患者のみの適応という制限があり,処方には難があるが,市販品として購入可能なBCAA richな栄養剤も販売されており,これらを薦めてもよいだろう.強いこむら返りには芍薬甘草湯が効果があることが知られているが,同薬剤は甘草の作用による偽アルドステロン症による高血圧などの副作用が知られており,短期間の投与にとどめるべきである.
いずれにしても,これらの患者に対しては,過度の筋疲労を避けるよう生活指導がなされるべきである.
—後略—
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