脳神経科学がわかる、好きになる

脳神経科学がわかる、好きになる

  • 櫻井 武/著
  • 2020年09月15日発行
  • A5判
  • 292ページ
  • ISBN 978-4-7581-2098-2
  • 3,300(本体3,000円+税)
  • 在庫:あり
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Chapter6 中枢神経系の情報処理と機能

ここから先は中枢神経系の勉強となります。ここでは名前や場所を覚えるよりはむしろ基本ルール、情報処理のルールを理解することに重点を置いています。ヒトの脳を理解することを目的にしているので、なるべく簡単にまとめるために無理矢理こじつけたようなところもあります。それを頭に置いたうえで受講してください。

6-1 基本ルールを理解しよう

基本ルール1必ず「入力―情報処理―出力」になっています

情報処理部位の代表が大脳や脳幹網様体です。

基本ルール2進化の過程で古くからあった「入力―情報処理―出力」のモジュールに新たにモジュールが足されていきます

したがってそれをごっちゃにせずに、それぞれのモジュールについて基本型を探しましょう。

基本ルール3脊髄は分節構造をしています

基本ルール4脳幹は脊髄を背側で切って開いた形になっています

脳神経核は縦方向に成分ごとに整然と並んでいます。

基本ルール5出力は核(体性あるいは内臓性)を使います

ただし、中脳より前には脊索がなく、脊索に誘導される運動神経核(出力核)はつくられませんので、その部分での出力は以下の3通りになります。

  1. ① 下位の運動神経核あるいは情報統合系(=脳幹網様体、6-2-7で解説)に指令を降ろす。
  2. ② 神経調節系を通じて脳全体のトーンを変える(反応性を上げ下げする)。
  3. ③ 視床下部から自律神経系あるいはホルモンを通じて行う。

6-2 入力-情報処理-出力のセットで考えてみよう

6-1の基本ルールを念頭にいろいろな情報処理の基本型を古いモジュール、新しいモジュールを分けながらおさえてみましょう。

6-2-1まず反射系

入力が入り、脊髄などを介してダイレクトに出力(体性運動核)につながる形です。入力に対して、最適な運動を選んで(=情報処理)、出力する、単純な過程です。

6-2-2視覚、聴覚、体性感覚について

大脳皮質が発達する前の生物(例えばヤツメウナギ)を想定してみましょう。

  1. ① 視覚は上丘へ入力し、そこから運動制御系が下に降り体性運動核に入ります。この経路は2つ知られてます。
    • 視蓋脊髄路
    • 上丘→網様体→網様体脊髄路
  2. ② 聴覚は音源情報が下丘に入り、そこから下に降り体性運動核に入ります。
  3. ③ 体性感覚は脳幹を経て上丘のあたりに入り、そこで視覚と統合され下に降り体性運動核に入ります。

これらは外界がどうなっているかを感知してそれに対して反応する形になっています。

進化につれ(例えば哺乳類)、大脳皮質が発達し、視覚、聴覚、体性感覚が視床を通して大脳皮質に入り統合され、位置情報のマップ(外界に対する自己の位置)が形成され、マップにもとづいた指令が下に降りるようになります。

こうなると、外界に対して自分の位置をはめ込んで外界の様子と自分の内部の様子を統合して考えて反応するような形になります。

つまり、感覚の処理にかかわる部位は、例えば視覚の場合は上丘と大脳の視覚野などのように、新旧のモジュールがレイヤーを形成していて階層性があるということです。私たちは進化の過程で今まで存在していたものの上に新しいものを足していくので、逆に言うと古い系を無視できない形になっています。

6-2-3味覚について

味覚の認知にもいくつかのレイヤーがあります。

  1. ① 味覚は脳幹の孤束核に入り、そこからさらに脳幹網様体に入る(まずいものはすぐ吐き出せるように)。
  2. ② そこから上がると扁桃体に入る(「なんだ情報」)。
  3. ③ そこから視床下部に下ろして脳全体のトーンを変える。
  4. ④ さらに進化すると視床から大脳皮質の中でも古い島皮質に入る。

6-2-4嗅覚は視床を介さない

上記のように大脳皮質が発達すると感覚は視床を通じて脳皮質に入るようになりますが、嗅覚は最初から大脳皮質に入るため、視床を介しません。

大脳での情報処理の基本型がここにあります(辺縁系として残っています)。

  1. ① 嗅覚の情報は「なんだ情報」が扁桃体で処理され、自律神経系や手綱をへた調節系につながり、情動を司ります(腹側経路)。
  2. ② 他の感覚とも統合された「どこだ情報」は海馬で処理されます(背側経路)。
  3. ③ 「なんだ情報」と「どこだ情報」が統合され、中隔から手綱核に送られて、そこから出力が脳幹にある神経調節系に送られます。

この状態から大脳皮質が異様に発達し、古い部分の位置を大きく変化させて包みこんでしまいました(3-1-6)。それプラス大脳皮質からの運動制御系(皮質脊髄路)も発達します。この基本型については6-6で後述します。

6-2-5小脳について

小脳には運動に関係する情報が入り運動調節の情報を返します。進化的に3段階に分けて発達したと考えます。

  1. ① 前庭小脳:前庭神経核から体の位置情報と眼球の位置情報が入り、それを前庭系、眼球運動に戻します。
  2. ② 脊髄小脳:脊髄から体の姿勢、バランス情報が入り、それを脊髄への運動調節として戻します。
  3. ③ 大脳小脳:大脳から(運動)指令情報が入り、大脳に計算の結果を戻します。

この場合の基本型は次のようになります。

  1. ① 小脳に入る情報は小脳前核から入ります。小脳前核(橋核、下オリーブ核など)は小脳への入力核として発達しました。
  2. ② 小脳から出る情報は小脳核から出ます。
  3. ③ 赤核は小脳からの出力核として発達しました。
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