1980年代,患者中心の医療の方法が初めて概念化され研究と教育で使われ始めた時には,それは医学の周辺にありました(Brownら, 1986, 1989;Levensteinら, 1986;Stewartら, 1986,1989;Westonら,1989).実際,多くの教育者や研究者が患者中心の医療を「ソフト・サイエンス」だとみなしており,優しさや思いやりといった感情は人道的なケアを行う上で重要な側面であると認識されていたものの,科学的であることが重視される現代医学において,患者中心のコミュニケーションが果たす極めて重要な役割に気づいていた人はほとんどいませんでした.本書の初版では,患者中心の医療の方法を実際の臨床診療と医学教育の中核に位置づけるという目標をもって,私たちはそのすべてを記述しました(Stewartら,1995).…
Moira Stewart(カナダWestern大学家庭医療学研究センター 教授),Judith Belle Brown(カナダWestern大学(Ontario州London)Schulich 医学歯学校 家庭医療学講座 家庭医療学研究センター 教授/King’s University College ソーシャルワーク大学院 教授),W Wayne Weston(カナダWestern大学Schulich医学歯学校 家庭医療学 名誉教授),Thomas R Freeman(カナダWestern大学家庭医療学講座 元主任教授/London健康科学センター 教授/St. Joseph’s Health Care London 教授),Carol L McWilliam(カナダWestern大学 健康科学部Arthur Labatt Family 看護学大学院 教授)
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患者中心の医療の方法を体系的に学ぶための教科書!患者中心の医療の考え方から実践まで,豊富な事例で学べます!医学生や研修医への教育・指導方法も解説!家庭医療を志す医師必読のバイブル!
真の患者中心の医療を提供するために必要な医療技法を学べるバイブル
家庭医療学・総合診療医学の基盤となるコンセプトの1つである「患者中心の医療の方法」.そのバイブルとも言える本書の初版の訳書が2002年に発刊されてから実に19年.心待ちにしてきた最新第3版の訳書が満を持して発刊された.
医学部に入学したとき,多くの医学生は「患者さんの不安や困りごとに対応し寄り添える医師」,つまり患者中心の医療を提供できる医師をめざしている.しかし,医学部での医学生物学的な講義や実習,さらには臓器別診療科の講義と臨床実習をくり返すなかで,1人の患者を全人的にみるよりも,問題を抱えた臓器が示す検査値や画像の異常をどう評価し,そこに薬剤や手術治療をどう提供するか,といったことで頭がいっぱいになる.国家試験でもそこが問われる.
そのため,「患者中心の医療」は心構えや診療姿勢と捉えられ,患者の呼び名に「様」をつけることに象徴されるようなスタイルとして実践されることも多い.昨今の医療面接のトレーニングも,傾聴や共感に代表されるような<患者中心の診察スタイル>として形式的に教えられがちである.
だが,本書が示す「患者中心の医療の方法」はそのような心構えやスタイルとは一線を画し,あくまでも汎用性のある技法としてどのような患者にも適応できる診療モデルである.そして50年にわたって開発と実践,そして改良が重ねられるなかで,全世界の家庭医・総合診療医の診療の基盤と位置付けられるのみならず,海外の医学部の多くではすべての医学生が修得すべき科目として教育されてもいる.また,患者中心の医療の方法に関する臨床研究も全世界で行われ,診療に対する満足度の向上だけでなく,さまざまな健康問題を改善する効果があるというエビデンスも明らかになっている.つまり,実際に患者を健康にする力をもつ医療技法なのである.
本書では,まず,このモデルの要となる4つの構成要素がさまざまな症例提示と理論を織り交ぜ丁寧に解説される.生き生きとした患者と医師の会話を通じて,あたかも診察室で耳をそばだてているような気になるだろう.そして,学習者と指導者双方にとって重要な学習と指導の方法が示され,最後にチームによるアプローチと患者中心のケアに関する研究が説明される.初学者はまず前半をしっかり読み込んでほしい.また,指導者は後半を日々の教育に生かしてほしい.
最後に,多くの医学生・医師が本書を通じて真に患者中心の医療を提供できるよう期待したい.
草場鉄周(医療法人北海道家庭医療学センター 理事長/日本プライマリ・ケア連合学会 理事長)
Gノート2021年6月号掲載
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