われわれの身体を構成する細胞は,異常を感知すると細胞分裂を停止する安全装置を備えている.細胞老化はこの安全装置の一つであり,長い間がん化の危険がある異常細胞の増殖を防ぐがん抑制機構として働いていると考えられてきた.2003年に本誌で細胞老化の特集を企画した際には細胞老化のがん抑制機構としての作用を中心に概説した.しかし,あれから16年,細胞老化研究は大きく発展し,単に細胞分裂を停止する現象としてだけではなく,さまざまな生理活性物質を分泌するSASPという現象を起こすことが明らかになってきた.SASPを介して個体発生,組織修復,免疫制御など生体の恒常性維持に寄与する反面,過度なSASPは慢性炎症を惹起して生体機能の低下やがんなどの加齢性疾患の発症を促進する副作用があることも明らかになってきた.本特集では,細胞老化のより完全な理解とその創薬応用に向けた可能性について概説する.
原 英二(大阪大学微生物病研究所遺伝子生物学分野/大阪大学免疫学フロンティア研究センター老化生物学)
老化細胞の生理機能や臓器の老化に与える影響が明らかとなってきました.メカニズムの理解から,がんや動脈硬化などの加齢性疾患に対して老化細胞を標的とする新たな治療法創出の現状を紹介します.
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