「楽しんで思いやりを持ちながら,仕事を追究しましょう」が,医局の雰囲気です.同門会のテーマでもありますように,まさに“和究”の精神です.
研究面においては,消化管粘膜傷害や粘膜の修復機構における分子機序までの解析を従来から脈々と継続して取り組んできており,今では食道から胃,小腸,大腸に至るまで対象とする臓器を広げてきています.近年注目されているアスピリン・NSAIDsなどによる消化管粘膜傷害に対する機序解明に現在力を注いでいます.一方逆流性食道炎の動物モデルに関しても,教室内においてすでに確立されており,発症メカニズムから治療・予防法,さらにはアレルギー病態との関連性などに関しての知見を得られすでに報告してきています.さらに,下部消化管においても,難治性疾患とされる炎症性腸疾患に対する病態解明の一環として,臨床からフィードバックした抗炎症さらには粘膜修復に至るまでの基礎解析に着手し,多くの報告を行ってきています.
臨床面においては,カプセル内視鏡やダブルバルーン小腸内視鏡(DBE)など最先端医療を駆使し,今まで難航を極めていた小腸の診断・治療では,多数例を経験する本邦有数の施設だと思います.また,胃食道逆流症に対する内科的治療に関しても,インピーダンス検査や内圧検査などを用いた病態解析から治療においても特徴を出すとともに,新規臨床試験などにおいても積極的に取り組んでいます.治療困難な胃静脈瘤は,放射線科IVRチームと共同で治療を行い,炎症性腸疾患でも有数の基幹病院となっています.これらの先進医療を求めて,他府県からも患者さんが紹介されてきています.内視鏡件数も年間1万件を超え,そのなかでも早期がんに対する内視鏡治療(粘膜下層剥離術;ESD)については,特に積極的に行っています.そのほか,胆道膵管系を含めすべての消化器疾患を網羅しています.消化管出血などの緊急例にも時間外オンコール体制で臨んでいます.また,がん死亡数の3分の1を占める消化器がんの化学療法も手がけている一方で,先進的医療に埋没することなく,患者さんの目線に立ったこころ豊かな医療を心がけています.
2010年の年間外来患者数は約20,456人,入院患者数14,752人,病床数は41床で常に満床に近い状態です.入院患者に占める消化器疾患患者は24.95%を占めていることも特徴のひとつです.2010年の内視鏡総件数は9,174件で,そのうち治療件数は995件.内訳は上部消化管5,757件,下部消化管件2,327,ERCP 215件,カプセル内視鏡151件,DB小腸内視鏡236件,超音波内視鏡443件でありました.
食道・胃・大腸の早期がんに対する内視鏡的粘膜下剥離術(ESD)は,年間236件に達しています.進行がんに対しては化学療法を,一部放射線科と協力し放射線化学療法を行っています.食道静脈瘤は,2010年には142例に内視鏡的硬化療法または内視鏡的結紮術を行い,再発予防のためアルゴンプラズマ凝固療法(APC)を追加し,良好な成績を得ています.胃食道逆流症に対しては,インピーダンス法,24時間pH・ビリルビンモニタリング,マノメーターによる内圧・運動機能,食道内酸還流による知覚過敏の測定を行い,病態把握に努めています.アカラシアで薬物療法に抵抗する場合は,内視鏡的バルーン拡張術を実施しています.胃・十二指腸疾患の静脈瘤の頻度は少ないですが,カラードプラー超音波内視鏡を用いて予防的治療の必要性を判定し,放射線科IVRチームと協力してBRTO(バルーン閉塞下逆行性経静脈閉塞術)やPTO(経皮経肝的食道静脈瘤塞栓術)などを行っています.
消化性潰瘍はピロリ菌除菌療法の普及で減少しましたが,NSAIDs潰瘍は高齢化によりかえって増えています.内視鏡センターでは,24時間オンコール体制で臨んでおり,2009年では238例に止血術などの緊急内視鏡を実施しました.機能性ディスペプシアは,致命的な疾患ではありませんがQOLを著しく損ねることが知られています.24時間心拍モニタリングや胃排出シンチグラフィーを駆使し病態把握に努めています.
当科では積極的に漢方薬を用いて良好な治療効果を得ていることも特筆すべき点の1つです.また小腸疾患=カプセル内視鏡とDBEで可視できる領域になりましたが,両者を取り入れている数少ない施設の1つです.これまで突き止められなかった出血源が分かり,内視鏡的止血術の適応も多いので,患者さんあるいは近隣施設の医師たちから喜ばれています.狭窄がある場合には,内視鏡下にバルーン拡張術を行っています.大腸疾患=クローン病,潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患を得意分野とし,患者数は全国でもトップレヘベルです.抗TNFα抗体による生物学的製剤治療の広がりや白血球除去療法,ステロイドパルス治療,栄養療法などを積極的に行っています.
和気藹々としたなかで,切磋琢磨する消化器内科の雰囲気は,日本有数だと思います.そのなかで,国際性と学術性の両面を満たす医局を目指して取り組んでいます.
当科のHPを,ご覧いただければ,その意味が容易に理解して頂けるかと思います.臨床・基礎両面にわたる成果を,世界に向けて発信していくパワーを,医局員が一丸となって押し出して行く,そんな仲間達です.
※本ページの情報は消化器BooK「効果的に使う!消化器の治療薬」掲載時のものです.
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