本特集のコンセプト
わが国の糖尿病患者数は1,000万人を超えると推計されています.今や糖尿病は内科疾患のなかでも最も頻繁に遭遇する疾患の1つであり,どの診療科に進んだとしても糖尿病の正しい病態管理の理解を避けて通ることはできません.特に,入院患者を中心に管理する初期あるいは後期研修医(専攻医)の先生方は,併存疾患を有する多くの糖尿病患者を管理しなければなりません.つまり,多様な病態を有する糖尿病患者の“血糖管理”は,初期あるいは後期研修医(専攻医)の先生方がぜひ修得しなければならない病態管理です.また,糖尿病でなくとも重篤な病態やステロイド使用時には血糖管理が必要になります.そんななか,初期研修医の皆さんから「入院患者さんの血糖コントロールが難しい」という声を多く伺いました.そこで今回は“入院患者”と“血糖コントロール”の2つをキーワードに,さまざまな疾患・病態における適切な血糖コントロールが学べる特集を組みました.今回の特集コンセプトは3つです.
① 対象を“入院患者”に絞り,その血糖コントロールをとりあげる
② 糖尿病患者の血糖コントロールはもちろん,急性期,周術期や周産期,ステロイド使用患者など,病棟でよくみられる疾患・病態で「血糖コントロールが重要・難しい」とされる症例について解説する
③ 血糖コントロールに関して,研修医からよく質問される病態への対応を解説する
以上のように本特集では,病棟で遭遇する血糖コントロールに関した疑問に対して答えがすぐに見つけられるように工夫しました.第1章は,病棟でしばしば遭遇する病態の血糖コントロールの基本について解説しました.それぞれ少し長い解説ですので,研修医の皆さんは時間のあるときに目を通してください.一方,第2章は病棟でよく困る病態に出会ったときにすぐに参照できるように病態管理のエッセンスを解説しています.本特集を通じて,執筆者の先生方には実践ですぐに役立つような内容と具体的な薬剤投与量などについてもご執筆をいただきました.
本特集の使い方
さて,第1章の最初の稿は「血糖コントロールをはじめるときに専門医はこう考える」と題して,血糖コントロール不良の患者さんが入院してきたときにどのように考えて適切な治療法を選択するかについて学ぶ総説です.専門医が考える道筋を理解して,糖尿病症例を診るときにはこの総説の内容をルーチンにしていただきたいと思います.続いて次の稿では「糖尿病注射療法のポイント:インスリンとGLP-1受容体作動薬」と題し,入院患者で頻用されるインスリンなどの注射製剤について詳しく解説しています.この稿では特に「責任インスリン」の考え方をしっかり身につけていただきたいと思います.この考え方がわかれば,インスリンでの管理がずいぶん楽になります.第1章はまずこの2稿をぜひ読んでください.その後は,病態ごとにどのように考えて血糖コントロールを行っていくかについて解説しています.急性期,周術期,周産期など病棟でよく遭遇する病態や,高齢者の管理,経管栄養・高カロリー輸液投与中患者の管理について解説しています.自分が担当する病態に応じて読み進めていただければと思います.
続いて,第2章のご紹介です.この章は,病棟でよく困る血糖コントロールの『あるある』をまとめたQ&Aです.自分が以前に担当してわからなかった点,現在担当している患者さんの疑問などをすぐに解決するために読む部分です.したがって,最初から順に読む必要はなく,用語などもどこから読み進めても理解できるように工夫されています.もちろん,第2章を通読して,どんな症例にあたっても対応できるように準備するのもよいでしょう.
糖尿病は,皆さんが将来どのような医師になろうとも必ず巡り合う病気です.糖尿病管理が上手になるためには,まずは第1章の1稿目や2稿目のような「基本」をおさえておくことが重要です.何事も基本を疎かにしては進歩がありません.基本を習得した後は,病態に応じて応用を学んでいけばよいのです.若手医師の皆さんには,本特集を活用し糖尿病管理が得意な医師になっていただきたいと思います.
最後に,編者の要望に丁寧に応えていただき,素晴らしい原稿を執筆いただいた先生方,そしてこのようなまさにかゆい所に手が届く特集を企画いただいた羊土社の臨床医学編集部の皆さまに深く感謝いたします.
赤井靖宏(Yasuhiro Akai)
奈良県立医科大学 地域医療学講座,糖尿病学講座・糖尿病センター