免疫反応を負に調節する特殊なリンパ球「制御性T細胞」.マスター遺伝子Foxp3を巡るその分化メカニズムから,特異的マーカーを用いて制御性T細胞を操作する新しい疾患治療のストラテジーまで.
目次
特集
制御性T細胞と免疫恒常性のメカニズム
感染・アレルギー・自己免疫疾患の発症機構から腫瘍免疫制御の新技術まで
企画/堀 昌平
概論〜制御性T細胞研究の新展開【堀 昌平】
免疫系には免疫抑制機能に特化した制御性T細胞とよばれるT細胞サブセットが存在し,自己免疫やアレルギーといった病的免疫応答を制御して免疫恒常性の維持に重要な役割を果たしている.一方,制御性T細胞による免疫抑制は慢性感染や癌の成立に深くかかわっている可能性が指摘されている.本特集では,最近大きな関心を集めて目覚しい進展をみせている制御性T細胞研究の最前線を,世界をリードする研究者の方々に解説していただく.
転写因子Foxp3による制御性T細胞分化と機能の制御【堀 昌平】
免疫系には免疫抑制機能に特化した制御性T細胞とよばれるCD4+T細胞サブセットが内在し,自己免疫やアレルギー,炎症といった病的な免疫反応を抑制して免疫恒常性の維持に重要な役割を果たしている.転写因子Foxp3が制御性T細胞の特異的分子マーカーであり,その「マスター遺伝子」として機能するという発見により,制御性T細胞の生理的意義が明確に証明され,その発生・分化と抑制機能の分子メカニズムを解明するうえでブレークスルーがもたらされた.現在,Foxp3の発現制御機構やFoxp3による遺伝子発現制御機構の解析が急速に進展しており,制御性T細胞分化と機能の分子メカニズムに対する理解が深まっている.
IL-6による制御性T細胞/IL-17産生性ヘルパーT細胞の分化調節機構【木村彰宏/岸本忠三】
免疫系をはじめとして生体内においてIL-6は多様な生物活性を有している.近年,新たなヘルパーT細胞のサブセットの1つとしてIL-17産生性ヘルパーT細胞が報告されてきている.このIL-17産生性ヘルパーT細胞の初期分化にIL-6とTGF-βが関与しており,一方でIL-6はTGF-βによる制御性T細胞の分化を抑制しているという事実が明らかになってきた.関節リウマチなどの自己免疫疾患においてIL-17産生性ヘルパーT細胞が病変の主因となっていることなども報告されており,自己免疫疾患の発症とIL-6,IL-17産生性ヘルパーT細胞との関連が明らかにされつつある.
CD8+制御性T細胞とその免疫制御における研究の動向【鈴木治彦】
これまでに,さまざまなCD8+の制御性T細胞が報告されている.それらにはCD8αα細胞,CD8+CD28−細胞,CD8+CD25+細胞,CD8+CD45RClow細胞,CD8+CD75s+細胞,CD8+CD122+細胞などがある.これらはそれぞれに異なった特徴があり,それらの間の異同,いずれかからいずれかが誘導されるかといったことは不明である.現在,このようなCD8+の制御性T細胞のまとまりを付けることは困難であり,何らかのブレイクスルーが期待される状況である.われわれが同定したCD8+CD122+細胞は,確かなマーカーで区別されるin vivoでの重要性が証明された制御性T細胞であり,今後のCD8+制御性T細胞の研究を収束させる期待の星となるかもしれない.
NKT細胞によるアレルギー反応調節【中川竜介/谷口 克】
アレルギー発症におけるNKT細胞の役割は,抑制と促進の両面に関与する.肺に局在するNKT細胞は喘息モデルにおいてIL-4とIL-13の生産を介して,抗原特異的IgEの産生増強と気道過敏性の亢進に寄与する.一方,NKT細胞はいくつかの異なるメカニズムでアレルギー発症の抑制に関与する.たとえば,NKT細胞が産生する大量のIFN-γは,Th2 CD4+T細胞への分化を抑制することによりIgE生産を抑制し,アレルギー発症を抑制する.また,NKT細胞はIL-10を生産し,抗原存在下でIL-10産生Tr1タイプの抑制性CD4+T細胞を誘導し,抗原特異的なIgE/IgG抗体の産生抑制を起こし,アレルギー発症を抑制する.今回は第3のNKT細胞のアレルギー抑制メカニズムとして,NKT細胞からのIL-21により,IgE産生B細胞だけに選択的にアポトーシスが起こり,アレルギー抑制をするメカニズムが存在することが明らかとなった.
感染免疫における制御性T細胞【久枝 一】
制御性T細胞は平常時に自己応答性T細胞の活性化・増殖を抑えることで自己免疫疾患の発症を抑制する細胞集団として同定された.近年,感染という非常時に際しても,感染に対する防御的免疫応答を抑制するとともに過剰な免疫応答で生じる免疫病理による自己損傷を抑制することで免疫系のホメオスタシス(恒常性)の維持に貢献していることが報告されてきた.一方で防御免疫を抑制するこの細胞群は病原体にとって免疫回避の標的となり,病原体によって選択的に活性化され免疫回避にもかかわっている.本稿では感染症における制御性T細胞の役割に関して概説する.
CD25+CD4+制御性T細胞を標的とした腫瘍免疫の操作【山口智之/坂口志文】
制御性T細胞(Treg)は免疫自己寛容の維持に重要であると同時に,自己由来の腫瘍細胞に対する免疫応答を抑制している可能性がある.実際Foxp3+CD25+CD4+Tregは腫瘍組織中に多く浸潤している.Tregをあらかじめ除去すると腫瘍免疫を活性化できるが,進行した腫瘍に対しては,TregをCD25+エフェクターT細胞と区別し,前者のみ除去する必要がある.最近,4型葉酸受容体の発現程度により両者を区別でき,より効率よく免疫応答をコントロールできることがわかった.エフェクターT細胞の刺激を目的とした従来の免疫療法に代わって,TregとエフェクターT細胞のバランスの操作による腫瘍免疫の惹起が次世代の免疫療法として期待される.
トピックス
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クローズアップ実験法
マルチカラーFACSを用いた細胞周期解析法【加地友弘/竹森利忠】
手抜き実験のすすめ2
第3回 ウエスタンブロッティングの感度を上げるには【福井泰久】
疾患解明Overview
PCS(MVA)症候群〜染色体数の不安定性が癌の原因であることを実証した疾患【松浦伸也/泉 秀樹/池内達郎/梶井 正】
ラボレポート−独立編−
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