NK細胞のもつ巧みな標的細胞認識機構やその分化についての最新知見を紹介!癌,自己免疫疾患,拒絶反応といった現象とNK細胞との関連についても,注目の内容を第一線の研究者が解説します.
目次
特集
巧妙な免疫調節システム
NK細胞の細胞認識機構と疾患
癌・自己免疫疾患・拒絶反応への関与
企画/小笠原康悦
概論〜NK細胞の制御シグナルと疾患【小笠原康悦】
免疫系は自己と非自己の認識に基づいて,感染症や腫瘍など多くの疾患からわれわれを守っている.NK細胞は,免疫監視の最前線として腫瘍の排除や感染細胞の排除,骨髄移植に伴う拒絶反応にかかわっていることが知られていたが,最近の研究で自己免疫疾患などの難治性疾患にも関与することが明らかとなってきた.本特集では,新展開をみせているNK細胞の巧妙な標的細胞認識機構とシグナル伝達機構,および知られざるNK細胞の生体内での機能について最新の知見を紹介する.
NK活性化レセプター複合体〜アダプター分子を介したシグナル伝達機構【Lewis L. Lanier】
免疫システムにおける多くのリガンド結合性受容体(レセプター)は,細胞内シグナル伝達の応答に必要な膜アンカー型アダプタータンパク質との非共有結合により会合している.多くの場合受容体は,この膜アンカー型アダプター分子なくしては細胞表面上での安定的な発現は不可能である.本稿ではNK細胞上に発現しているマルチサブユニットレセプター複合体,特にITAMモチーフをもつDAP12やFcεRIγ,CD3ζ,およびp85 PI3キナーゼ結合アダプター分子であるDAP10についての構造とシグナルの性質について概説する.
非MHCクラスI分子をリガンドとするNK細胞抑制性レセプター〜KLRG1とLAIR-1【松本直樹】
NK細胞による標的認識には,NK細胞抑制性レセプターが重要な役割を果たしている.これまでに明らかにされてきたNK細胞抑制性レセプターのほとんどはMHCクラスI分子をリガンドとするものであり,NK細胞による自己・非自己の識別に関与するとされてきた.昨年になり,KLRG1のリガンドとして細胞間接着分子カドヘリンが,LAIR-1のリガンドとして細胞外マトリックスの主要な構成成分であるコラーゲンが同定された.KLRG1やLAIR-1はNK細胞のみならずT細胞上にも発現する抑制性レセプターであり,これらの発見は,カドヘリンやコラーゲンといった体内に普遍的に存在する分子によって,先天性免疫および獲得免疫が制御されるという新しい概念を提供し,新たな免疫制御の可能性を示唆する.
ITAM依存性および非依存性NK細胞活性化レセプター【渋谷 彰】
NK細胞の活性化は活性化レセプターからのシグナルとMHCクラスⅠ分子をリガンドとする抑制性レセプターからのシグナルとのバランスによって決定される.MHCクラスⅠ分子に対する抑制性レセプターに加えて,多数の活性化レセプターが同定された.これらは,シグナルドメインをもたずITAM依存性のアダプター分子(FcεRIγ,DAP12)やPI3キナーゼが結合するアダプター分子(DAP10)と会合して活性化シグナルを伝えるレセプターと,自らシグナルドメインを有しリン酸化カスケードを開始するレセプターとに分類される.多数の活性化レセプターの存在は,NK細胞による免疫監視の多様性の確保に働いていると考えられる.
NK細胞分化の制御シグナル〜サイトカイン,Notchシグナル,受容体型チロシンキナーゼ【和田はるか】
緻密に制御された分化システムが知られているT細胞やB細胞に比べ,NK細胞の分化がどのようなシグナルにより制御されているのかについては長い間不明であった.近年,NK細胞の分化,機能発現に関与する因子が次々と明らかにされ,造血幹細胞からin vitroでのNK細胞分化誘導も可能になりつつある.また,骨髄の造血環境を破壊したマウスの解析からNK細胞は骨髄で分化,成熟するものと漠然と考えられていたが,生体内に分布するさまざまなNK細胞サブセットの発見からNK細胞がどこで分化しているのかについても再考されはじめ,NK細胞の分化研究は新たな局面を迎えている.
NK細胞サブセットと難治性自己免疫疾患【荒浪利昌/山村 隆】
ナチュラルキラー(NK)細胞は,さまざまな免疫反応において,免疫反応の方向性を左右する細胞として重要である.最近,ヒト末梢血NK細胞の CD56bright亜分画が特異な分化系列をたどることが示唆され注目を集めている.また,T細胞同様,ヒトNK細胞もサイトカイン産生能の異なる NK1,NK2サブセットへと分化しうる.本稿では難治性自己免疫疾患,特に多発性硬化症におけるこれらNK細胞亜分画およびNK2細胞の制御性細胞としての役割,さらに疾患活動性と密接に関連する樹状細胞マーカーCD11c陽性NK細胞を紹介する.
NK細胞活性型レセプターNKG2Dの生体内における機能〜腫瘍,自己免疫疾患,骨髄移植【石崎和沙/小笠原康悦】
NK(natural killer)細胞は,腫瘍細胞や感染細胞など,生体にとって有害となった自己細胞を認識し排除することから,生体防御の最前線で活躍している細胞として知られている.NK細胞は機能的側面から追究されており,疾患への関与について多くの報告があるものの,明確に細胞集団を定義するレセプターが発見されておらず,謎も多い.近年種々のNKレセプターがクローニングされ,NK細胞の認識機構と生体内での役割が明らかになってきた.NK活性化レセプターの1つであるNKG2Dが,腫瘍免疫,自己免疫性糖尿病,骨髄移植拒絶の病態形成において,中心的な役割を果たしていることが判明した.
トピックス
カレントトピックス
幹細胞分裂における母娘中心体の非対称分配【山下由起子】
PSD-95とニューロギリンを介した新たな逆行性情報伝達機構の発見【二井健介/林 康紀】
ナノ粒子抗癌剤と低用量TGF-β阻害剤の併用による難治癌治療【狩野光伸】
SHREC:ヘテロクロマチン領域での転写抑制に必須のヒストン脱アセチル化酵素複合体【杉山智康/杉山(杉岡)梨恵】
SH3BP2のチェルビズム変異は骨量減少と炎症をひき起こす〜天使が教えてくれたこと【植木靖好】
News & Hot Paper Digest
鏡の国の神経管
不活化Xをめぐる大論争
p53の再生は細胞老化を誘導し癌を消滅させる
セラミド合成とインスリン抵抗性
企業とアカデミアでのジョブインタビューのポイント:You or Your Science
連載
クローズアップ実験法
分注RT-PCR法を用いた単一プルキンエ細胞における対立染色体での差次的遺伝子発現解析【江角重行/金子涼輔/八木 健】
博士号取得とキャリア設計を考える マネジメント力 開発ガイド
第4回 問題発見・解決力【仙石慎太郎/三浦有紀子】
疾患解明Overview
非アルコール性脂肪肝炎(NASH)〜メタボリックシンドロームの一亜型【宇都浩文/桶谷 真/井戸章雄/坪内博仁】
ラボレポート−独立編−
Physician-Scientistとして独立すること〜Massachusetts General Hospital Harvard Medical School【市瀬 史】
関連情報