実験医学 2010年3月号 Vol.28 No.4

癌幹細胞の発生とstemness維持

リプログラミング,マイクロRNAによる制御機構から分離・同定法,新たな治療戦略の確立まで

  • 田賀哲也,赤司浩一/企画
  • 2010年02月19日発行
  • B5判
  • 131ページ
  • ISBN 978-4-7581-0057-1
  • 1,980(本体1,800円+税)
  • 在庫:なし
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《企画者のことば》

本誌を手に取られた学兄の多くはおそらく同様の思いを共有していただけることと拝察して書き進める—癌の再発と転移を防ぐ治療法の開発は,人々の悲願であると.これまで国内外の多くの先駆的研究者により推進されてきた癌研究は,癌化の原因を多様な観点から詳らかにしてきた.しかしながら,癌による死が国民の死因の約半分近くを占める現在,さらに癌研究のブレークスルーを期待し,根治につながる発見を切望する声は大変強いものがあるように思う.その声に応える新機軸として注目される癌幹細胞は,その存在が示唆されて早や長日の感があるものの,実のところ数年前までは研究論文が年間1桁台で推移していたが,最近は正常組織に存在する幹細胞研究の進展と相まって指数関数的に報告が増加している.その背景に「癌の根治への手掛かりがつかめる」という期待があることは言うまでもない.ただ,未だに癌幹細胞の全容は解明されておらず,その存在自体が議論にあがることさえある.本特集では,海外の研究者の報告を交えながら,アップデートし続ける癌細胞研究の最先端を紹介したいと思う.

※本書の正誤表はこちらをご参照下さい.

近年の幹細胞研究の進展に伴い,各腫瘍における存在が次々と明らかになる癌幹細胞.その自己複製能・多分化能を支える分子機構から,それらを標的とした新たな癌治療戦略まで,癌研究のニューパラダイムをご紹介!

目次

特集

癌幹細胞の発生とstemness維持
リプログラミング,マイクロRNAによる制御機構から分離・同定法,新たな治療戦略の確立まで
企画/田賀哲也,赤司浩一
概論—癌幹細胞を俯瞰する
—その起源から制御機構の解明,そして治療戦略まで【田賀哲也/赤司浩一】
本誌を手に取られた学兄の多くはおそらく同様の思いを共有していただけることと拝察して書き進める—癌の再発と転移を防ぐ治療法の開発は,人々の悲願であると.これまで国内外の多くの先駆的研究者により推進されてきた癌研究は,癌化の原因を多様な観点から詳らかにしてきた.しかしながら,癌による死が国民の死因の約半分近くを占める現在,さらに癌研究のブレークスルーを期待し,根治につながる発見を切望する声は大変強いものがあるように思う.その声に応える新機軸として注目される癌幹細胞は,その存在が示唆されて早や長日の感があるものの,実のところ数年前までは研究論文が年間1桁台で推移していたが,最近は正常組織に存在する幹細胞研究の進展と相まって指数関数的に報告が増加している.その背景に「癌の根治への手掛かりがつかめる」という期待があることは言うまでもない.ただ,未だに癌幹細胞の全容は解明されておらず,その存在自体が議論にあがることさえある.本特集では,海外の研究者の報告を交えながら,アップデートし続ける癌細胞研究の最先端を紹介したいと思う.
腫瘍幹細胞の特性とその標的治療戦略【伊藤圭介】
腫瘍幹細胞(cancer-initiating cells)研究の目覚ましい進歩は,癌研究にパラダイムシフトをもたらしたといっても過言ではない.腫瘍幹細胞とは,その名の示す通り,腫瘍細胞集団のなかのごくわずかな自己複製能と多分化能をもつ「腫瘍幹細胞」が,腫瘍組織の多くを占める腫瘍細胞を供給することにより腫瘍を維持しているという概念のもと定義される.その本態の解明・治療抵抗性の克服は,臨床応用により腫瘍に対する治療成果を飛躍的に改善する可能性を秘めており,腫瘍幹細胞を標的とする新たな治療戦略が提唱されつつある.本稿では最新の知見をふまえて腫瘍幹細胞に対するアプローチについてまとめてみたい.
癌幹細胞の自己複製へのアプローチ【椨 康一/鹿川哲史/田賀哲也】
正常幹細胞は自己複製と分化のバランスを保つことで,生涯にわたり組織の恒常性を維持している.癌幹細胞もまた同様の分裂特性を有し,癌幹細胞集団を維持しながら癌組織全体を構築していると考えられるが,そのなかで,正常な自己複製と分化のバランスは破綻していることが推測される.癌の再発に癌幹細胞の高い治療抵抗性が大きくかかわっていることを考えると,癌幹細胞の自己複製メカニズムの解明による未分化状態からの強制脱却の考察は,現在の癌研究における最重要課題の1つである.正常幹細胞における自己複製制御の分子基盤を確立し,癌幹細胞システムとの異同を探ることにより,特異性の高い効果的な治療法の手がかりを得ることができると期待される.
癌幹細胞の成立と初期化イベントの関連について【佐谷秀行/神谷敏夫】
癌幹細胞が起源となって癌組織を形成するためには,癌幹細胞は自己複製能をもち,永続的に細胞を供給する必要がある.したがって,すでに分化に踏み出した正常細胞が癌幹細胞に変化するためには自己複製能を獲得する必要がある.最近,癌に多くみられる遺伝子変異やエピジェネティック変化が,細胞分化の初期化(リプログラミング)を誘導する分子イベントに似ていることが見出されてきている.
microRNAによる癌幹細胞の“幹細胞性”制御【下野洋平】
固形癌の癌幹細胞理論は,2003年の当教室におけるヒト乳癌幹細胞の同定以来,癌幹細胞の存在やその意義をめぐりさまざまな議論の渦中にある.われわれは乳癌幹細胞と正常乳腺幹細胞に共通するmicroRNA(miRNA)プロファイルを同定し,それらのmiRNAのなかでも特にmiR-200cが癌幹細胞および正常幹細胞の幹細胞性を抑制し組織再生能を消失させることを解明した.癌幹細胞が正常幹細胞と共通の分子機構で維持されていることは,固形癌の中に確かに癌幹細胞が存在することを強く示唆している.
胃癌幹細胞研究の現状と展望【高石繁生】
癌幹細胞はヒト急性骨髄性白血病においてはじめて報告されたが,その後乳癌や脳腫瘍などの固形腫瘍においても存在することが判明した.最近では大腸癌,肝臓癌,膵臓癌などの消化器系の臓器でも,具体的なマーカーを明示した報告が相次いでいるが,日本において長年にわたり癌死亡率の上位を占めている胃癌に関しては,まだ明確なデータが報告されていない.筆者は胃癌培養細胞を用いて,CD44+細胞の分画の中に胃癌幹細胞を同定し特徴付けることに成功したので,その結果をここで紹介する.
癌の根治をめざして—癌幹細胞を標的とした治療戦略【北林一生】
癌幹細胞は自己複製能を有し,癌細胞を無限に供給して癌組織を維持する.癌幹細胞は治療抵抗性を示すため,しばしば治療後に残存して再発の要因となる.したがって,癌幹細胞を特異的に狙い撃ちすることにより,癌を根絶させることが期待できる.標的となる分子は,癌幹細胞に高発現し,造血幹細胞を含む他の組織での発現が低いこと,さらには,癌幹細胞の細胞膜表面抗原である(抗体医薬の標的となる)か,癌幹細胞の自己複製に必須な酵素活性を有する(低分子阻害剤の標的となる)ことが条件となる.

特別記事

ポスドク座談会[前編]【@Washington University in St. Louis, School of Medicine】
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トピックス

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オレキシンシグナリングと睡眠覚醒周期は脳内Aβ量を制御する【山田 薫/David M. Holtzman】
爬虫類心臓発生と心室形態進化の分子メカニズム【小柴和子/Benoit G. Bruneau/竹内 純】
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H2Sは第3の生理的ガスメッセンジャー分子である【上原 孝】
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