実験医学 2010年10月号 Vol.28 No.16

RNAの時空間的動態をみる

リボヌクレオプロテオミクスによる細胞機能の解明からRNA医薬まで

  • 礒辺俊明,高橋信弘/企画
  • 2010年09月21日発行
  • B5判
  • 133ページ
  • ISBN 978-4-7581-0064-9
  • 1,980(本体1,800円+税)
  • 在庫:なし
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《企画者のことば》

RNAとタンパク質はどちらも生命活動の維持に不可欠な分子であるが,今まではタンパク質の研究者はタンパク質だけを,RNAの研究者はRNAだけを主な研究対象とし,それぞれが独自のワールドを構築してきた.しかし,最近のゲノム科学の進歩は,これら2つのワールドを結びつけるための非予見的で大規模な解析を可能とする技術と方法論を生み出しており,その結果,2つのワールドが巨大なネットワークとして複雑に絡み合い,時空間的な動態制御を受けながらダイナミックに機能している生命活動の一端を明らかにしつつある.

超高速シークエンサーを用いたRNAの直接定量解析から,タンパク質とRNAを同等に取り扱える質量分析法,注目のRNA医薬の開発状況まで,リボヌクレオプロテオミクス研究の最前線をご紹介!

目次

特集

RNAの時空間的動態をみる
リボヌクレオプロテオミクスによる細胞機能の解明からRNA医薬まで
企画/礒辺俊明,高橋信弘
概論―RNAワールドとタンパク質ワールドの遭遇【高橋信弘/礒辺俊明】
RNAとタンパク質はどちらも生命活動の維持に不可欠な分子であるが,今まではタンパク質の研究者はタンパク質だけを,RNAの研究者はRNAだけを主な研究対象とし,それぞれが独自のワールドを構築してきた.しかし,最近のゲノム科学の進歩は,これら2つのワールドを結びつけるための非予見的で大規模な解析を可能とする技術と方法論を生み出しており,その結果,2つのワールドが巨大なネットワークとして複雑に絡み合い,時空間的な動態制御を受けながらダイナミックに機能している生命活動の一端を明らかにしつつある.
RNAの直接シークエンシング―次世代のRNA研究を担う新技術【Fatih Ozsolak/Patrice M. Milos】
トランスクリプトームの全体像をマイクロアレイや超高速シークエンサーなどによって精密に同定して定量する方法が,ヒトの生理や病理を解析するための有力な技術として開発されている.また,それらの技術を臨床診断に応用する試みもはじまっている.しかし現在の方法では,測定の前にあらかじめRNAをcDNAに変換する必要があるため,トランスクリプトームの全体像に偏りが生じたり,人工的な副産物が生じたりすることがある.一分子直接RNAシークエンス(direct RNA sequencing:DRS)法はこのような問題を解決し,トランスクリプトームの全体像を正確に把握するために開発された技術である.本稿ではDRS法の基本的な原理と試料調製法にくわえて,この方法が現在ならびに将来のRNA研究とその応用にもたらす効果について解説する.
質量分析法によるRNAの直接解析【中山 洋/田岡万悟/礒辺俊明】
RNP(RNAとタンパク質の複合体)の解析は,細胞機能を支えるさまざまな分子装置の生合成や作動原理に関する研究だけでなく,トランスクリプトームの大規模解析で生み出された多数のncRNA(non-coding RNA)の機能解析にも重要である.本稿ではMS(質量分析)を利用した従来のRNA研究の成果を要約するとともに,RNPの系統的な解析から細胞のRNA―タンパク質相互作用ネットワークの全貌解明をめざす「リボヌクレオプロテオミクス」研究のための新しいMSシステムについて紹介する.
質量分析法によるRNA医薬品の代謝解析【長野光司/田岡万悟】
特定の遺伝子発現を選択的に抑制するsiRNAの医薬品への可能性が注目されている.医薬品として用いるには合成したオリゴヌクレオチドの純度や生体内でどのような代謝を受けるのかといった薬物動態を解析する必要がある.こうした解析は分子生物学的手法では難しいため,質量分析法によってRNAを直接,定性的,定量的に解析する技術に対する期待が高まっている.本稿では医薬品としてのRNAに焦点をあてて,質量分析法によるsiRNA解析の現状について概説する.
RNA―タンパク質相互作用(複合体)ネットワーク解析【宮澤直樹/泉川桂一/石川英明/高橋信弘】
タンパク質―RNA相互作用は,細胞増殖,分化,細胞死,細胞周期などのさまざまな細胞プロセスの制御において重大な役割を担う.最近になって,DNAマイクロアレイ/超高速シークエンサーあるいはプロテオミクスのLC-MS/MS法の進歩を基礎とし,タンパク質とRNAの相互作用を同定する非予見的でかつゲノムワイドなさまざまな方法が開発されてきた.これらによって,RNAとタンパク質がきわめて複雑に絡み合い機能する相互作用ネットワークの一端が見えはじめてきた.
RNA結合タンパク質HuDによる翻訳制御と神経分化誘導【藤原俊伸】
分化・発生等の高次な細胞機能においては,細胞内における時空間的なタンパク質合成が,各細胞の運命決定・特異的な機能発現に重要である.そして,転写後遺伝子発現調節のうち,mRNAの適切な部位への輸送および,局所における翻訳の制御は,遺伝子の発現を時空間的に制御する機構として最適である.近年,特定のmRNAの局所での翻訳が神経細胞の分化やシナプス可塑性に必須であることが明らかになってきた.そして,mRNAを適切な場所へ局在化させる過程では翻訳は抑制され,目的地においてのみ翻訳が開始する必要がある.これを可能にしているのがRNA結合タンパク質である.これまでに,さまざまなRNA結合タンパク質がこのような局所翻訳に関与することが報告されているが,翻訳機構と直接相互作用して翻訳を制御しているという実証例は少ない.われわれの研究グループでは,神経特異的RNA結合タンパク質であるHuDが,capおよびpoly(A)依存的な翻訳を活性化する機能を有することを生化学的な実験により突き止めたので,これまでの知見と最新の知見を併せて紹介させていただく.
RNPサーベイランス―RNA―タンパク質複合体の品質管理【大野睦人】
細胞の中の生体高分子は単体で存在するよりも複合体をつくっていることが多い.なかにはMD(メガダルトン)スケールの巨大な生体高分子の複合体も多数存在する.このような複合体の形成機構は生命機能を理解するうえできわめて重要である.細胞自体,生体自体が巨大な生体高分子複合体であるともいえる.生体高分子のなかで遺伝子DNAの直系の産物であるのはRNAとタンパク質であり,生命機能に中心的な役割を果たすこの両者はしばしば複合体を形成し機能する.本稿ではRNAとタンパク質の複合体(RNP)に焦点を絞り,複雑なRNPが正しく形成される品質管理機構を議論する.

トピックス

カレントトピックス
病原細菌の定着を阻害する常在細菌の阻害因子の同定とその阻害メカニズムの解明【岩瀬忠行/水之江義充】
立体構造より明らかとなったヒダントイン輸送体Mhp1の輸送機構【島村達郎/Alexander D. Cameron/岩田 想】
オスマウスの涙に分泌されるペプチドESP1のフェロモン作用機構の解明【𡌶紗智子/東原和成】
「張力」 を重要な情報とする細胞間コミュニケーションの分子機構【米村重信】
News & Hot Paper Digest
生命科学・バイオデータの可視化技術の進歩【八尾 徹】
焦点接着斑における 「ちから」 の視覚化解析【神崎 展】
加齢性記憶障害とヒストンのアセチル化【長野慎太郎】
脂肪細胞を使って肥満治療?【梶村真吾】
消費者向け遺伝子テストをめぐる米国の状況【MSA Partners】

連載

クローズアップ実験法
Tol2トランスポゾンを用いた画期的なトランスジェニックマウス作製法【隅山健太/川上浩一】
プレゼンテーション スライド作成講座
「スライドの機能と構成パーツ」を考える【堀口安彦】
創薬物語
オルメテック® (オルメサルタン メドキソミル) の研究開発【佐田登志夫】
Campus & Conference探訪記
ISSCR(国際幹細胞学会)― “society” としての活発な活動【清田 純】
ラボレポート ―留学編―
三人寄れば文殊の知恵 ―University of Pennsylvania【甲斐田大輔】
Opinion ―研究の現場から
スピークアウト! 国際的なプレゼンスの獲得へ【神山大地/神山理恵】

関連情報

カレントトピックス Online Supplemental Data

連載 カレントトピックスのSupplemental DataをオンラインコンテンツとしてPodcast配信しています.誌面と併せてご覧ください.

  • [1] 基質であるヒダントインを細胞内に取り込むときのMhp1の構造変化1
  • 島村達郎/Alexander D. Cameron/岩田 想
  • Shimamura, T. et al.: Science, 328: 470-473, 2010
  • 5秒 2010年9月21日公開
  • 説明:本文の図2B上段と同様に,膜に平行な向きから表示したもの.bundle motifは赤で,hash motifは黄で,TM5とTM10は青で表示した.
  • 1 基質であるヒダントインを細胞内に取り込むときのMhp1の構造変化1
  • [2] 基質であるヒダントインを細胞内に取り込むときのMhp1の構造変化2
  • 島村達郎/Alexander D. Cameron/岩田 想
  • Shimamura, T. et al.: Science, 328: 470-473, 2010
  • 5秒 2010年9月21日公開
  • 説明:本文の図2B下段と同様に,bundle motifに対してhash motifが約30°回転する際の回転軸方向から表示したもの.bundle motifは赤で,hash motifは黄で,TM5とTM10は青で表示した.
  • 2 基質であるヒダントインを細胞内に取り込むときのMhp1の構造変化2

クローズアップ実験法 Online Supplemental Data

連載 クローズアップ実験法の Supplemental DataをオンラインコンテンツとしてPodcast配信しています.誌面と併せてご覧ください.

  • [1] 細胞質へのインジェクション
  • 隅山健太/川上浩一
  • 国立遺伝学研究所HPより転載
  • 12秒 2010年9月21日公開
  • Tol2を用いたマウス受精卵細胞質へのインジェクション.10Kb以下のコンストラクトの場合には細胞質への注入だけを行う.BACトランスジェネシスの場合には前核への注入とともに細胞質への注入も行う.
  • 1 細胞質へのインジェクション
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  • 【本書名】実験医学:RNAの時空間的動態をみる〜リボヌクレオプロテオミクスによる細胞機能の解明からRNA医薬まで
  • 【出版社名】羊土社

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第2地帯(ヨーロッパ) +2200円
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  • 9784758121309
  • 9784758103077
  • 9784758100472
  • 9784897069258

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