「小さなRNA」研究の目覚ましい進展のかげで長年機能が不明だった,長鎖ncRNAの正体がついに明らかに!?クロマチン修飾の制御から核内構造体の形成まで,長鎖ncRNAによる細胞制御の実態に迫ります!
目次
特集
ゲノムの“ダークマター” 長鎖ncRNAが制御する多彩な生命現象
企画/中川真一,影山裕二
長鎖ncRNA研究のはじまりの終わり【中川真一/影山裕二】
ヒトやマウスのゲノムからタンパク質をコードしないノンコーディングRNA(ncRNA)が大量に転写されているということが明らかとなってから,かれこれ10年近くが経とうとしている.ncRNAのなかでも長鎖のncRNAの生理機能は長らく不明であったが,近年になってようやく個々の遺伝子について詳細な解析がなされるようになり,これらの分子が制御する生命機能の全体像がおぼろげながら見えるようになってきた.この概論では,現時点における長鎖ncRNA研究の現状と問題点を解説したい.
次世代テクノロジーがあぶりだす未知のncRNAとその機能【沼田興治/清澤秀孔】
「ヒトゲノムの大部分は転写されている」.この事実はヒトゲノム解析がもたらした成果であると同時に,大きな謎の1つである.そのほとんどはタンパク質をコードしていないと考えられており,それらの生物学的な機能に注目が集まっている.この事実が明らかになった背景には,マイクロアレイや次世代シークエンサーなど,ハイスループットな解析技術の活躍があった.本稿ではハイスループットなゲノム解析技術が長鎖ncRNA研究において明らかにしてきた成果を振り返り,最新の知見もあわせて紹介する.
長鎖ncRNAによるクロマチン修飾因子のリクルートメント機構【神武洋二郎/北川雅敏】
これまでジャンクとして,その存在意義を疑問視されたlncRNA (long non-coding RNA) たちが,超高解像度タイリングアレイなどの技術的革新により,ようやく日の目を見るようになってきた.その発端の1つとなったのは,米国西海岸の若いPIであるHoward Y. Changらの一編の論文であろう.本稿では,彼らが提唱しはじめたlncRNAによるクロマチン修飾因子のリクルートメント機構を中心に,さらに最近われわれが報告したINK4遺伝子座を抑制するlncRNAに関する知見を伴わせて紹介したい.
長鎖ncRNAによるクロマチン・転写活性化の制御【太田邦史/小田有沙/Josephine Galipon/竹俣直道/三好知一郎/廣田耕志】
近年のゲノムワイド転写物解析から,ゲノムの大半を占める非コードDNA領域において,長鎖RNAの転写が多数観察された.その機能は依然として謎であるが,遺伝子発現調節に重要な機能をもつと考えられている.酵母では栄養源枯渇の際にある種の遺伝子が著しく活性化される.それらのコード領域の上流に位置する遺伝子間領域でこの種の長鎖ncRNAが合成され,クロマチン構造変化やヒストン修飾に重要な役割を果たすことがわかってきた.本稿では長鎖ncRNAの遺伝子活性化とクロマチン修飾における役割について考察する.
長鎖ncRNA研究の源流であるXistの既知・未知【岡本郁弘】
X染色体の不活性化(X-chromosome inactivation:XCI)は哺乳類の雌(XX)細胞において一方のX染色体を不活性にすることで,雄(XY)細胞とのX染色体連鎖遺伝子量の差を補正する機構である.X染色体の不活性化はnon-coding遺伝子であるXistが産生するXist RNAにより引き起こされる.本稿ではXCIにおけるXist RNAの役割とXistがどのように発現制御を受けているかについて最近のマウスでの知見を紹介する.
核内構造体形成を司る長鎖ncRNA【長沼孝雄/廣瀬哲郎】
ポストゲノムのトランスクリプトーム解析によって,多数の長鎖ncRNA(non-coding RNA)の存在が明らかになった.しかし大部分の機能は依然謎に包まれている.最近,そのうちの1つのMENε/β ncRNAが,核内構造体パラスペックルの形成に中心的な役割を果たすことが発見され,「細胞内の構造構築」というncRNAの新機能に注目が集まっている.本稿では,MENε/β ncRNAを中心に進行するパラスペックル形成過程の最新知見を紹介し,細胞内構造構築にRNAを利用する意義を考えてみたい.
核内長鎖ncRNAによるスプライシング・転写制御【秋光信佳】
2001年にヒトゲノム配列が発表された後,大規模な転写産物解析によって多種多様なncRNAの存在が判明した.ncRNAはマイクロRNAに代表される小分子ncRNAと全長が数万塩基長にもなる長鎖ncRNAに大別されるが,長鎖ncRNAの大部分の生理機能は不明である.長鎖ncRNAであるMALAT-1は,最も解析の進んでいるncRNAの1つであり,がん転移と関係する点からも興味がもたれている.本稿では,MALAT-1の最新知見を整理することで,長鎖ncRNAの機能の一端を解説し,長鎖ncRNA研究の方向性についても触れたい.
トピックス
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Glioblastomaにおける抗VEGF療法抵抗性のメカニズム【曽田 泰/丸本朋稔/Inder M. Verma】
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小胞体膜上で起こるスプライシングの洗練されたメカニズム【柳谷耕太/河野憲二】
中心小体複製開始の分子メカニズム【北川大樹/Michel O. Steinmetz/Pierre Gönczy】
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選択的Th17細胞抑制薬―自己免疫疾患の克服に向けて【柏木 哲】
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