実験医学 2016年3月号 Vol.34 No.4

病態を再現・解明し、創薬へとつなぐ 疾患iPS細胞

樹立より10年の時を経て難治疾患へ挑む

  • 井上治久/企画
  • 2016年02月19日発行
  • B5判
  • 125ページ
  • ISBN 978-4-7581-0149-3
  • 2,200(本体2,000円+税)
  • 在庫:なし
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《企画者のことば》

2006年に誕生した多能性幹細胞であるiPS細胞は,再生医療を実現するために重要な役割を果たすと期待されている.一方,難治性疾患の患者の体細胞からiPS細胞をつくり,それを患部の細胞に分化させ,その患部の状態や機能がどのように変化するかを研究し,病気の原因を解明する研究も行われてきた.本特集の各稿では,この疾患特異的iPS細胞を用いた研究について論じている.

患者由来のiPS細胞を分化させ、その病態の解明や薬剤の効果を明らかにする研究が盛んに行われています。神経疾患をはじめ様々な疾患における成功事例が蓄積する「疾患iPS細胞研究」の今と未来をお届けします!

目次

特集

病態を再現・解明し、創薬へとつなぐ 疾患iPS細胞
樹立より10年の時を経て難治疾患へ挑む
企画/井上治久
概論─iPS細胞の誕生より10年 疾患特異的iPS細胞研究の今と未来【井上治久】
2006年に誕生した多能性幹細胞であるiPS細胞は,再生医療を実現するために重要な役割を果たすと期待されている.一方,難治性疾患の患者の体細胞からiPS細胞をつくり,それを患部の細胞に分化させ,その患部の状態や機能がどのように変化するかを研究し,病気の原因を解明する研究も行われてきた.本特集の各稿では,この疾患特異的iPS細胞を用いた研究について論じている.
疾患特異的iPS細胞を用いた神経疾患研究【赤松和土】
iPS細胞技術を用いた神経疾患解析は,患者の中枢神経系で起きている変化を知るために有用な手法である.これまでに小児疾患・成人の神経変性疾患を中心に多くの疾患特異的iPS細胞が樹立されているが,神経系の細胞は多種多様であり,高精度な解析を行うためには病変部位の領域特異性をもつ細胞への正確な分化誘導が必須である.症例の選択においては,現在は遺伝性症例の解析が中心であるが,今後は新たな解析技術の開発と解析の効率化により,解析可能な症例数が大幅に増加し,孤発性症例を含めたより広い範囲の症例でiPS細胞を用いた解析が可能になるであろう.
代謝性疾患由来iPS細胞による創薬研究【曽我美南,江良択実】
難治性の代謝性疾患は,症例数が少なく生体試料を得ることが困難であるため,疾患の発症機構解明や創薬研究が制限される.しかしながらiPS細胞作製技術を導入することで,患者さん由来の体細胞から幹細胞を経由し標的細胞へ分化させ,疾患モデルを作製することが可能となった.本稿では,代謝性疾患由来iPS細胞から作製した疾患モデルと,それを利用した創薬研究について解説する.
疾患特異的iPS細胞を活用した筋疾患研究【荒木敏之,畠山英之,武田伸一】
国立精神・神経医療研究センターは筋疾患分野のバイオリソースとしては世界有数の規模の筋生検組織・細胞を有しており,われわれはこれを活用して,疾患特異的induced pluripotent stem (iPS)細胞を用いた骨格筋領域の難治性疾患のモデル化・創薬研究を行っている.本稿では,われわれが治療研究に取り組む多くの疾患のなかで,特に全身性に症状を呈する筋強直性ジストロフィーI型とミトコンドリア病をとりあげ,iPS 細胞から分化させた細胞を用いた疾患モデル化の現状と治療法開発戦略について述べる.
iPS細胞技術を使った骨系統疾患研究【妻木範行】
四肢,体幹の骨格は内軟骨性骨化で形成され,その異常は骨系統疾患を引き起こす.多くの骨系統疾患では軟骨の形成に重要な遺伝子の変異が発見されているが,病態解明については途上で,根治的治療薬はないものが多い.iPS細胞の開発により,比較的入手しやすい患者の皮膚細胞や血液細胞からiPS 細胞を作製し,軟骨細胞へ分化誘導することにより患者の病変軟骨に相当する軟骨組織をin vitroでつくることが可能になってきた.それを使って病態解析と創薬を行う疾患モデル研究が,FGFR3軟骨形成異常症をはじめとする種々の骨系統疾患で行われている.
iPS細胞によるがん研究【室伏善照,木我敬太,杉山愛子,日高裕輔,宮脇良文,中村英二郎】
これまで多くの遺伝性疾患患者よりiPS細胞が樹立され,発症メカニズムの解明や治療法の開発に役立ってきた.がん領域においても,遺伝性乳がん・卵巣がん症候群をはじめとする多くの遺伝性腫瘍症候群が存在し,同様の解析による疾患の克服が期待される.われわれは,同症候群の1つであるvon-Hippel-Lindau disease (VHL病)に対して疾患特異的iPS細胞を用いた疾患モデルの構築を試みている.同疾患は腎細胞がん (RCC)などの腫瘍を高率に発症するが,このアプローチは原因を同じくする非遺伝性のRCCのみならず,各種の遺伝性腫瘍症候群に対する新規治療法の開発にも有用であると考えられる.本稿において,その一端を紹介する.
iPS細胞から立体脳組織への分化誘導と疾患研究【六車恵子】
難治性疾患に対する取り組みとして,患者由来iPS細胞を用いたin vitroでの病態の再現による,疾患研究,創薬,新規治療法の開発が期待されている.実用化には iPS細胞から標的細胞への精度の高い分化誘導法を確立することが戦略的に必須であり,そのことが実用化成功の鍵を握る.脳は多種多様な神経細胞が秩序正しく回路網を形成することによって機能的に働き,その破綻によって病態をあらわす.iPS細胞から機能的な脳組織を構築するには神経発生を理解することが病態のモデル化にも欠かせない.本稿では,発生機序にしたがったヒトES細胞からの自己組織的な分化誘導とその疾患iPS細胞への活用を紹介する.
ヒトiPS細胞由来分化細胞の安全性薬理試験への応用【宮本憲優】
創薬研究現場では,薬効評価や安全性確認にヒト幹細胞由来分化細胞を利用する試みが急速に拡がっている.特に安全性分野では非競合的な研究が展開しやすい背景があるため,このiPS細胞技術応用に関する製薬企業同士の意見交換や共同研究がさかんに行われるようになった.さらに,薬物誘発の心リスク評価に関しては,各国の規制当局も関わり複数の団体がヒトiPS細胞由来心筋細胞を活用した医薬品の心毒性評価の標準化をめざした共同研究活動を展開している.iPS細胞技術は,過去類を見ない製薬企業の連携した研究スタイルをも世の中にもたらしている.

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  • 7秒 2016年2月23日公開
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