腹痛を訴えて救急室に来院する患者さんのなかでも,最も多いのは急性虫垂炎であり,適切なタイミングでの外科手術が必要です.
一般の人たちにとっては「盲腸」といえば,その疾患を知らない人はありませんし,また一般的なイメージとしては,診断は容易であり(右下腹部痛があれば本人も「盲腸じゃないでしょうか?」と来院するケースも少なくありません)簡単な手術で短期の入院しか要しないし,決して死ぬことなどはない病気であると信じられています.
虫垂炎はありふれた疾患の1つとされ,もはや病気のうちには入らないと言い切る医師もいますが,ところがどうして,すべての虫垂炎患者を正確に診断することがとても難しいことは,筆者が研修医であった約30年以上前の時代も,それと比べてはるかに検査技術や画像診断の技術が進んだ今日でさえも,同じ状況と言えるでしょう.
多数の患者さんが訪れる救急室で,多くの患者さんを診ていると,簡単な虫垂炎の症例のほかに,診断の困難な症例も少なくありません.初診の段階で,虫垂炎の可能性を考えず,または虫垂炎の可能性を患者さんや家族に説明しないまま帰宅させてしまい,次に他施設を受診して虫垂炎と診断された頃には手術のタイミングが遅れて,穿孔性の虫垂炎や汎発性の腹膜炎となり,後日,家族から「誤診ではないか!」とクレームの電話がかかり,対応に苦慮するといった場合も少なくありません.
この特集では,このような虫垂炎の診断の問題点とその対策について,さまざまな視点から,日常,救急室を主な仕事の場として,虫垂炎の診断や治療の経験が豊かな先生方に執筆をお願いしました.いずれの先生方も,快くお引き受けいただき,研修医の立場に立って虫垂炎の診療上のポイントをわかりやすく解説していただきました.読者の皆さんは,さまざまな視点で異なる先生方が書かれているにもかかわらず,全く同じ意味の大切なポイントを強調しておられるのに気づくでしょう.実はその点が最も大切なポイントなのです.
身体診察,血液検査,エコー・CTなどによる診断ポイントから,手術適応の判断,抗菌薬の選択・タイミングまで解説.下痢・血尿などの非典型な症状でも,小児・妊婦などの鑑別の難しい患者でも,もう見逃さない!
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